第52話 教室で現場を押さえる②



「決まってるだろ? ……脅しだよ」



 ……なんて凄んでみたけど、ちょっと悪役臭かったか?

 まあ、脅しなんて言ってる時点でかなりアレかもしれない。

 こういう所、アイツならしっかりやるんだろうなぁ……



「な、何言ってるんですか? 先輩……。脅すとか、ちょっと怖いんですけど……」



 木村ちゃんの取り巻き――暫定的にAちゃんとしよう……は、大分引き気味にコチラのことを警戒している。

 いかんなぁ……、やはり言葉選びを間違えたようだ。



「あ~っと、別に怖がらなくてもいいよ? 何も取って食おうってワケでは無いからね」



 取り繕う必要は無いかもしれないが、一応真の悪者はアッチなので、なるべく善人ぶっておこう。



「じゃあ、何の用ですか? 大したことじゃ無いんなら、私達部活があるので行きたいんですけど」



「いやいや、だからネタは上がっているって言ってるでしょ? ワザワザ朝練前にコソコソ教室に来ておいて、今更シラを切られてもなぁ……」



 随分と肝が据わってるなぁ、木村ちゃん。

 中一らしからぬというか……、だからあんな取り巻きとか侍らしたりしてるのだろうか?



「言ってることがわかりません。それだけなら、私達は行かせて貰います」



 そう言って会話を無理やり終わらせ、逆の扉から出ていこうとする木村ちゃん達。

 大した行動力だが、逃げ出した時の対策は既にしてある。



「っ!?」



 木村ちゃん達が足早に扉へ向かった直後、それに先んじて扉が開かれる。

 そこから入って来たのは、学園屈指の強面で有名な親友、伊藤 和也いとう かずやである。



「ヒィ!?」



 和也の顔を見て、木村ちゃんの取り巻き達があからさまに怯え始める。

 声こそ出さないが、流石の木村ちゃんもビビっている様子だ。



「……流石和也だ、効果てきめん過ぎ」



「何の効果だ。俺は言われた通りに入って来ただけだぞ」



 全く……といった感じに不貞腐れながらも、腕を組んでドアに背をもたれさせる和也。

 悪態をつきながらも、自分の役割については承知しているようだ。



「さて、いきなり逃げ出す事は無いんじゃないか? お嬢さん方」



「……やっぱり、脅す気なんですか? ……大声出しますよ」



「おっと、そいつはやめて。というか、やめた方がいい。何度も言ってるがネタは上がってるんだよ。証拠も押さえないでそんなこと言うワケないだろ?」



 そう言って俺はスマホを操作し、彼女達に証拠の画像を見せる。

 その途端、強気な目つきをしていた木村ちゃんが、ついに動揺を見せ始めた。



「そ、その画像は……。どうやって……」



「君らが悪いことしてるってのは把握してたからね。カメラを仕掛けて証拠を押さえたってワケだ。あ、言っておくけど元のデータは動画だし、しっかり音声も撮れてるから言い逃れはできないよ?」



 画像という証拠を見せられては、流石の木村ちゃんも観念するしかなかったようだ。

 それを見て、彼女の取り巻きも増々怯え始める。



「……まさか、麻生さんに聞いたんですか?」



「いや? 麻生さんはこのことを誰にも言ってないと思うよ。でも、見てる人は見てるってことだよ。何も痕跡を残さないなんて、プロでも難しいって話だしね」



 そんな簡単に痕跡を消せるのなら、世の中完全犯罪で溢れかえっているに違いない。

 たかが学生の嫌がらせとはいえ、誰にもバレずに行うことはほぼ不可能だろう。



「……その画像を、どうする気ですか?」



「さっきも言ったけど、脅しというか、抑止力にするつもりだよ。今後こういったことをさせないために、ね」



 こういった証拠品を見せつけなければ、いずれ必ず再犯をする……、とは塚原の言である。

 実際俺もそう思うし、木村ちゃんを見てその思いは確信に近いものになった。

 この手の輩というのは、自分に自信があるせいなのか、どうにも再犯率が高いのだ。



「……なんで、先輩は麻生さんのためにそこまでするんですか? もしかして、好きとか」



「いや? それは全く関係ないよ。単純に、君らの行為が不愉快だっただけ。ほら、知ってると思うけど、俺の友人もこういったことに敏感だからさ。感化されたって所かな」



 切っ掛けは不純であったが、紛れもない本音である。

 最初は塚原の真似事でもしてればモテるかも? などと考えていたが、今じゃそんなこと関係無しに動いている。

 今までの俺であれば、例え木村ちゃん達の行為を知って不快感を感じたとしても、自ら動こうとはしなかったろう。

 それでも動いてしまったのは、間違いなく塚原の影響だと言えた。



「当然だけど、このことは塚原も知っているし、ここで君らが俺のお願い・・・を聞いてくれなきゃ、今度はアイツが出てくることになると思うよ」



 そう言うと、木村ちゃん達は自分の身を守るかのように体を縮こまらせる。

 ちょっと変なニュアンスに受け取られたのかとも思ったが、どうやらそれよりも塚原の名前が効いたようである。

 流石、塚原様様だな……



「さて、交渉だ。君達が今後、麻生さんへの嫌がらせをしないと誓ってくれるのなら、この動画は公開しない。でももし、今後も続けるようであれば、悪いけどネットの世界に拡散させて貰うよ」



 俺の言葉に対し、木村ちゃんは気丈に振舞って見せてはいるが、明らかに顔色が悪くなっていた。

 今時の子供であれば、ネットで大炎上することの意味くらい重々承知している、ということなのだろう。

 結果的に本当に脅しになってしまったが、ここまですればいくら木村ちゃんの肝が据わっていようとも、流石に逆らおうとはしないハズだ。



「……わかりました。もう二度と、こんなことはしません。だから、その画像は公開しないでください……」



 そう言って、彼女達は俺に向かって頭を下げてきた。

 本当であれば、それは麻生さんに対して向けられるべき謝罪だが、恐らく麻生さん自身もそれは望まないだろう。

 なんとも複雑な気分だが、俺は彼女達の謝罪を受け入れ、教室を後にしたのであった。



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