第6話 親友から縁を切られる
「はぁ……」
登校直後、まだ1日が始まって間もないというのに、俺は既に10回以上のため息をついていた。
この学校には、初等部の頃から数えて9年以上通っているわけだが、今日ほど気が重いことは無かったように思う。
実際にはもっと不味い状況立たされたことはあったが、昔はもっと単純思考だったからか、今ほど悩むことは無かった気がする。
「はぁ……」
窓の外を見つめ、俺は再びため息をつく。
こう何度もため息をついていると、より一層気が滅入ってくる……
周りにも気を遣わせそうだしそろそろ止めたいのだが、気づくと自然に漏れ出しているので中々意識して止められないのである。
実の所、ため息自体は体にいいらしいのだが、それをつかせる心理状態になっている時点でマイナス面の方が大きい気がしないでもない。
「おう塚原、どうした? 朝からシケた顔して」
「……おはよう塚本。お前は今日も元気そうだな」
外を見ていたせいか声を掛けられるまで気づかなかったが、いつの間にかチャラそうな茶髪の男が俺の傍に立っていた。
この男、
塚本とは、初等部時代後半から今に至るまでずっと同じクラスであり、出席番号も近いことから、まさに腐れ縁と言っていい存在であった。
「おう。元気だぜ。そういうお前は珍しく凹んでいるみたいだが、どうしたんだよ?」
「いや……、なんというか、物凄く面倒なことを引き受けてしまったというか……」
「……そりゃ、お前、いつものことじゃね?」
う……、確かにそれは否定できない気がする。
俺は自分の妙な正義感が災いして、一々面倒ごとに首を突っ込んでしまう所がある。
それ故に、今までも少なからず厄介な状況に
しかし、今回の件は今までとは大分毛色が違うのである。
何より、自ら進んでこんな状況に陥ったわけではないのだ。
「それは否定しないけど、今回はちょっと、いつもとは状況が違ってな……」
「ほぉ~、そりゃ興味深いな。でも、正直あれだぜ? 似合わな過ぎ」
「ぬ……、俺だって悩むことくらいあるんだぞ?」
「いや、そうだろうけどさ。今のお前を見たら、誰でも俺と同じ感想になると思うぞ? 頬杖ついて、窓の外を見ながらため息つくとか、お前は乙女か(笑)ってな」
なん……、だと……?
今の俺は、そんな風に見えていたのか……?
それは確かにショッキングな光景だな……
「まあ、何に悩んでいるか知らねぇが、相談には乗るぜ? なんつったって俺達は親友だからな!」
バシバシと背中を叩くこのノリには付いていけないが、これはこの男の良い所でもあるので悪い気はしない。
余り気は乗らなかったが、こいつにも相談してみるか……
「あ~、実はだな……」
「あーーーーっ! 塚原! やっと見つけた!」
その時、廊下の方から甲高い声が響いてくる。
「げ……」
嫌な予感がして顔を向けると、そこには案の定前島さんの姿があった。
「もう!クラスくらい教えておきなさいよね!?」
文句を言いながら近づいてくる前島さん。
俺がやれやれと首を振っていると、塚本が動揺をしたような表情で俺を揺さぶってくる。
「お、おい、アレって前島さんだよな!? なんでお前があの子と知り合いになってるんだよ!」
「……それには深いワケがあってだな」
「ちょっと! 聞いてるの!?」
俺が事情を話すより先に、前島さんの腕が俺の肩を掴んでくる。
「お、おはよう前島さん……。今日も良い天気だね……」
「良い天気だね……、じゃないわよ! なんでアンタ、私をおいていくワケ!?」
ガクガクと肩を揺さぶってくる前島さん。
そんなの……、面倒なことになるからに決まっているじゃないか……
「お、おい!? マジでどういう事だ!? おいていくって何の話だよ!」
ほら、こんな風に変な勘ぐりされるだろ……?
だから嫌だったんだよ……
「先輩!?」
その時、事態をさらに悪化させる要素が加わってくる。
「先輩! この女の人はなんですか!?」
「はぁ!? アンタこそ誰よ!?」
「私は先輩の恋人です!」
はぁっ!?
ちょっと待て!? 俺、まだ返事してないんだけど!?
「ちょ、ちょっと待って! 何を言っているんだ朝霧さん!?」
「……塚原」
とんでもない事を言い出した朝霧さんを止めようとする俺を、さらに塚本が止めてくる。
「な、なんだ塚本!? 今はちょっと……、というか誤解なんだ!」
思考があっちに行ったり、こっちに行ったりと、自分でもワケがわからなくなってくる。
ともかく、まずは誤解の発生源をなんとかしないと……
「塚本……、状況は良くわかんねぇけど、とりあえず俺、お前の親友やめるわ」
えええええぇぇぇぇぇぇっ!? ちょっと待ってくれ! なんでそうなるんだ!?
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