第8話 教室で注目を集めてしまう
「塚本……、状況は良くわかんねぇけど、とりあえず俺、お前の親友やめるわ」
えええええぇぇぇぇぇぇっ!? ちょっと待ってくれ! なんでそうなるんだ!?
前島さんに詰め寄られたと思ったら、朝霧さんに恋人宣言され、塚本から絶縁を言い渡された。
およそ一分にも満たない間に、これだけのことが起こるって、普通あり得るだろうか?
状況について行けず、俺はただアタフタとすることしかできない。
「先輩! あの人が何か用みたいですよ!」
そこに、いつの間にか教室に入り込んでいた女子生徒が割り込むようにして声をかけてくる。
(中等部の制服……ってことは、朝霧さんの友達か?)
ひとまず、俺は彼女の指さす通りにドアの方向を見る。
するとそこには、先日俺が助けた男子生徒が立っていた。
「あの人……? ってああ! 昨日の! 良かった……、色々と話しておきたいことがあったんだよ……」
一瞬の判断で、俺は少し大げさにアクションを入れつつ、彼に歩み寄る。
彼には少し悪いが、この状況を脱するのに利用させて貰うのだ。
「話しておきたいことってなんだ? まさか、俺を脅すつもりとか……?」
「え? いやいや、そんなつもりは無いけど……」
できるだけ笑顔で話しかけたつもりだったが、どうも警戒をさせてしまったらしい。
俺の笑顔って、そんなに不信だったのだろうか……?
「塚原先輩! この人、最低なんですよ! 自分が助けられた癖に、先輩に対して『ええかっこしい』とか!」
「ち、ちが、ちがうんだ! 俺はただ、昨日の礼が言いたかっただけで!」
ええかっこしい……?
彼がそう言ったのだろうか? いや、しかし実に的を射た表現だと思う。
確かにあの時の俺は、まさに『ええかっこしい』と言っていい有様だった。
わざわざしゃしゃり出ていってボコボコにされているあたり、全くもって救いようがない。
そんな事を考えていると、彼は朝霧さんからも何か言われたのか、呆然とした表情で固まってしまっていた
「……」
「お、おい、大丈夫か?」
「……え? ああ、大丈夫、だ」
俺が声をかけると、少し間を置いてから反応が返ってくる。
茫然自失といった感じだったが、大丈夫なのだろうか?
「大丈夫ならいいんだが。……それにしても、昨日は災難だったな。何か取られたりしなかったか?」
「あ、ああ、アンタが助けに入ってくれたからな……。それより、昨日は逃げ出してしまって、その、すまなかった……」
「いやいや、いいんだよアレで。ああいう状況で逃げない人もいるんだけどさ、実はかえって気を使ったりするんだよな……。だから、昨日の件はアレで正解だよ」
「そ、そう言ってくれると、助かる……」
「もし、また何かからまれるようなことがあったら遠慮なく言ってくれ。俺は風紀委員長と知り合いだから、何か助けにはなれると思う」
「あ、ああ、そうさせてもらうよ……。それじゃあ、俺はこれで……」
そう言って、彼はそそくさと去ってしまった。
「って、しまった……、名前を聞きそびれてしまった……」
まあ、また今度聞けばいいだろう。
同じ学年だし、探そうと思えばいくらでも探せるだろうしな。
「塚原先輩!」
そんなことを考えていると、先程の少女から再び声がかかる。
「ああ、君はえ~っと、朝霧さんの友達かな?」
「はい! 伊藤のどかって言います! 柚葉同様、昔はお世話になりました!」
お世話か。……駄目だ、朝霧さんのこともだけど、全く思い出せない……
「先輩! まだ話は終わっていませんよ!」
「そうよ!」
ぐ……、しまった……
どさくさに紛れて逃げようと思っていたのに、再び捕まってしまった。
キーンコーンカーンコーン♪
その時、タイミング良く予冷が鳴り響く。
「ふ、二人とも! 時間もアレなので、また後でってことでいいだろ! 早く戻らないと、出席に間に合わなくなってしまう!」
俺は三人の背中を押して強引に教室の外へと追いやる。
三人は不満そうにしていたが、渋々といった感じで引き揚げて行った。
「ふぅ……」
ひとまずは凌いだが、後でどうしたものか……
「……ん?」
やけに教室が静かだなと思ったが、いつの間にかクラス中の視線が俺に集中していた。
「な、なあ塚本。みんなは何で俺のことを見ているんだ?」
「さあ? 俺には全然わからないよ
「………」
……あれ? さっきのアレって、冗談、だよね……?
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