第34話 親友の相談事



「……それじゃ」



「ああ……」



 気まずい雰囲気のまま前島さんと別れ、俺はため息を吐きながら教室に入る。



「オッス! 塚原! 今日は一段と景気悪そうなツラしてるなぁ!」



 そんな俺を、逆に景気の良さそうなツラをした塚本が出迎える。



「……おはよう。お前は相変わらず元気そうだな、塚本」



「まあ、元気だけが取り柄だしな!」



 それを自分で言ってしまうのは、どうなのだろうか?

 まあ、本人は冗談程度のつもりなのかもしれないが……



「……謙遜か? お前の取柄がそれだけじゃないことくらい、俺はよく知っているぞ?」



「おいおい、そういうのは本人の前じゃなくて、他で言ってくれよ。主に女子達の前とかで」



 塚本は、至って真面目そうな顔でそんなことを言ってくる。



(……俺が言うまでもなく、一部の女子は、そんなこととっくに知っているだろうさ)



 塚本は自分がモテていないと思っているが、実はそうでもない。

 顔もまあまあ良いし、運動神経も良いし、性格だって良い方だろう。

 勉強こそ出来ないが、趣味の範囲が広いため、コミュニケーション能力も非情に高いと、モテる要素はいくらでもあるのだ。

 それでもモテないのは、若干オタク気質な部分があるのと、その影響故か女子の好みが少しマニアックな点だろう。

 ……具体的に言ってしまうと、少々ロリコン趣味なのである。


 塚本は中等部一年目くらいまでは密かにモテていたのだが、その趣味が広まると評価を一気に落として行った。

 本人はそういったことを一切隠さず、構わずオモテに出しているため、噂が広まるのも非情に早かったことを記憶している。

 恐らく、中等部一年後半くらいには、「塚本はロリコン」という情報が全クラスに知れ渡っていたように思う。


 もちろん、俺は塚本が、犯罪に走るようなガチ・・なレベルでは無いと信じている。

 しかし、多くの生徒、特に女子生徒にとってはそうでは無かった。

 俺が直接耳にしただけでも、「塚本って、爽やかそうに見えるのに何故かキモイ」だとか、「塚本君って、年下趣味なんでしょ? ちょっと引くかも……」などがあり、正直苦笑いするしか無かった。


 しかし、それでも塚本が避けられたり馬鹿にされたりしないのは、あの持ち前の明るさ故だろう。

 女子達の最終評価も、まあ恋愛対象として見なきゃ良い奴だし、友達くらいなら全然OK! くらいに収まっているらしい。



「……お前は、本当に残念な奴だ」



「んな!? おい塚原! 流石にその言い方は酷くないか!?」



「いや、だってさ……」



「かーーーっ! これだからモテ男は嫌だぜ! そりゃお前から見たら、俺みたいな男はさぞ残念に見えるだろうよ!」



 いや、そういう意味で言ったんじゃないんだがな……

 それに、俺がモテるというのも勘違いである。

 俺だって、はっきり好きだと言われたことは…………、あの一回のみである。



「塚本、前から言っているが、俺はモテてなどいないぞ?」



「そりゃ嘘だろ……。前島さんといい、朝霧さんといい、お前の周りには何故ああも美少女ばかりが……」



 この台詞には少々引くが、内容自体はやはり勘違いである。

 美少女ばかり、というのに誰と誰が含まれているかはわからないが、少なくとも前島さんを含めるのは勘弁して欲しい。



「だから、勘違いだ。第一、前島さんの件は説明しただろう?」



「それでもさぁ……、あんな美少女と一緒にいれるのはやっぱ美味しいだろー」



「美味しくもなんともない!」



 これが美味しい状況に見えるのであれば、塚本は眼科に行った方がいい……

 いや、これも趣味嗜好の問題なのか……?



「全く……、そもそも、前島さんは修先輩の彼女だろ? 普通羨むならそっちじゃないのか?」



「いや~、だって坂本先輩はなぁ……。正直、想像出来ないって言うか……。お前はホラ、付き合いも長いし、親近感があるから嫉妬し易いって感じ?」



 親近感があって何故俺に嫉妬するのか……

 全然わからん。



「あ、そうだ、親近感と言えば、昨日お前っぽい行動っていうか、人助け的なことをしたんだよ」



「人助け?」



「そうそう、人助け。なんか、イジメにあいそうな雰囲気してたからさ」



「……それは、聞き捨てならないな」



 塚本は軽い調子で話しているが、それが本当であれば軽く扱える案件じゃない。

 もう少し、詳しく内容を聞いた方がいいだろう。



「朝霧さんの名前が出てたから多分中等部の一年生だと思うけど、中々に性格のねじ曲がった二人組がいてな……。流石の俺もカチンと来て、ついしゃしゃり出ちまったんだよ」



「……待て、朝霧さんの名前が出たって? まさか、標的にされたのは朝霧さんなのか!?」



「ちょ、待て待て、近い近い! 圧強すぎ!」



「……っ! す、すまん」



 俺は無意識で、塚本に対し身を乗り出して迫っていた。

 本当に無意識だったため、自分でもびっくりしてしまった。



「あー、びっくりした……。んで、話を再開するけど、標的にされた子は一応その場に居たんだよ。隠れてたんだけどさ」



 俺はそのまま塚本を促し、その時の状況を聞き出す。

 少々疑問は残ったが、大体の状況は理解できたと思う。



「んでよ、一応抑止はできたと思うんだけど、専門家的にはどう思うよ?」



「……俺は別に専門家じゃない。まあ、暫くは様子見をした方が良いと思うが……、その前に聞かせろ」



「なんだ?」



「何故、わざわざ関わったんだ? 普段の塚本なら、面倒ごとは避けて通るだろ」



 そう、おれが疑問に思ったのは、塚本の行動に対してである。

 今回の行動は、はっきり言って塚本らしくない。

 塚本は何だかんだでことなかれ主義であり、その状況に介入するのは少々不自然に思える。

 確かに聞くに堪えない内容だとは思うが、普段の塚本なら、恐らくもっと無難なやり方をとっただろう。

 例えば、わざわざ大きな音を出したり、姿を見せずに人が居る雰囲気だけ作って、その場だけ解散させるといった感じだ。

 そして、後ほど俺にこんなことがあったと相談し、丸投げしてくるのである。



「……まあ、そうなんだけど、今回は流石にイラっと来てな。つい出て行っちまった。でもコレ、多分お前のせいだからな?」



「ん、なんでそこで俺のせいになるんだ?」



「いや、だって間違いなくお前の影響だし。まあ、朝霧さんの名前が出たから、引っ張られたんだろうけどな」



 ……納得はしかねるが、言いたいことはわかる。

 何故なら、俺にも経験があったからだ。

 俺の場合は修先輩だったが、一瞬でもその人のことがよぎると、妙な使命感が生まれてしまうことはままある。



「……まあ、なんとなくわかった。それで、塚本はこれからどうしたいんだ? いつも通り、俺に丸投げか?」



「言い方! まあ確かにいつも、丸投げに近いけど……」



 近い、ではなく完全に丸投げだと思うが……



「ま、まあ、それはともかくとして、今回の件は自分から頭突っ込んじまったしな。このまま人任せも気持ち悪いし、最後まで面倒見るつもりだぜ。ただ、何したらいいかわからねぇからさ、その辺のフォローを頼みたい」



 塚本は両手を合わせてお願いポーズを取る。

 調子の良い奴だとは思うが、頼られて悪い気はしない。



「もちろんだ。協力させてもらおう」



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