死者の船と最果ての少女

ほげ山くん

プロローグ

 世界を閉ざしていたドアが開き、巨大な白い来訪者が音もなく滑り出してくる。

 二人の少女がそれを見ながら小さく感嘆の声を上げた。


 この世界に来客があるのは何百年ぶりかのことだ。あの大きなエアロックが直近で使用されたのすら百年以上も前だろう。


「ねえねえ、見て見て。あんなのに本当に地球人が入っているのかな?」

「どうでしょうか」


 小柄な方の少女が興味津々で声を弾ませた。もう一人の少女はその隣に立ち、対照的なほど控えめな様子で視線を上げる。

 その白い物体は大型の医療コンテナで、表面はなめらかで概ね直方体をしている。随所に輝く金色の模様は千年以上前に共通化されたコネクタのソケットで、もちろん少女達の船でも同じ規格のプラグを接続することができる。そんなことは何も珍しいことではない。あんなものは、どこでも見られるものだ。

 重要なのはあの箱ではない。あの箱の中身こそが重要なのだ。


「平気なのですか?」

「今更何言ってんの、あなたが長年心待ちにしていたご主人様でしょ」

「それは、まあ。そうなのですが」


 小柄な少女は、もう一人の少女の背中をどんと叩いて一歩前に踏み出させた。少しだけ恨めしそうな視線が返ってくる。

 やや煮え切らない態度の相方に対して、小柄な少女は喉を鳴らすように小さく笑う。


「どんな人かなぁ。あんまりイヤな奴じゃなければいいんだけど」

「素敵な方であるとの認識です」

「そういうのってあてが外れたときにがっかりするから、実際会ってみたら薄汚くて臭くてスケベなブ男が出てくる、くらいの覚悟をしておいた方がいいと思うんだよね」

「そんなことはないと思いますが」


 控えめに反論してくるのを片手で制止し、小柄な少女は物憂げなため息をついた。


「ま、どうせあたし達は逆らえないんだしさ」

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