第9章『少年に秘められし物』
第32話『古代武具アテネ』
「リスネット………」
フィスナーは、動かなくなったリスネットの体を抱きしめていた。
しかし、二人の為に時間は止まらない。
「フィ、フィスナー!魔王が来る!」
コオチャは無常とも思える言葉をフィスナーにかけた。
魔王は立ち上がろうとしているからだ。
「何てことだ…。イフリートの攻撃を耐えたと言うのか………」
英才教育を受けているルシャナでさえ魔王の執念に驚いた。
いや、執念と言うより復讐心なのかもしれない。
復讐とは六大精霊王達に向けられている。
しかし、その復讐心もリスネットの気迫に押された。
「ルシャナ様・・・。魔王の下半身はボロボロです!!」
マークが叫んだ。
イフリートが直接ダメージを与えた魔王の下半身は焼きただれ、完全に立ち上がることは出来ないようであった。
「一気にいくぞ!」
「はい!!」
しかし、シータが待ったをかけた。
「気をつけて!魔王はまだ切り札を隠し持っているような気がするの!」
その声で、全員が躊躇した。
短い時間だが、全員の命を救う。
魔王の第三の目に光が集まり出した。
「私の後ろに避難してください!」
マークが叫ぶ。
前に出ていたルシャナやコオチャが急いで退き返す。
それは小動物が大きな肉食獣から逃げるようだった。
「マークさん、もう少し左へ!」
シータは後方から声を飛ばす。
身動きが取れないリスネットを抱きしめたままのフィスナーを、魔王とマークとの一直線上にする為だ。
さらにシータはトールハンマーを、フィスナーの前で構えた。
もしもに備える。
弾き返すためだが、本当に弾き返せるかなんて、誰にも分からない。
でも、彼女はそこに立った。
魔王は精一杯の息を吸い込んだかのように見えた。
「くるぞ!」
コオチャが叫ぶ。
緊張が走る。
その途端魔王の目から光線が飛び出した。
ドォォン!!!
空気が裂ける音がした。
その攻撃は幾度と無く魔王の攻撃を防いできたアテネに向けられた。
それは魔王の挑戦だったのかもしれない。
「オォォォォォォォッ!」
古代武具アテネは魔王の放つ、触れれば一瞬でその身を消してしまうほどの威力があるその光線に対して、絶対魔法防御=アンチマジックシェルは完璧に機能していた。
しかし、その質量、つまり威力は消すことが出来ない。
ジリジリとマークの体が押されていく。
地面に踏ん張るものの、力を抜いた途端に吹き飛ばされそうな勢いだ。
ルシャナが手を貸そうとした。
「ルシャナ様、わたしに触れないで下さい…」
マークは気配で察知し、援助を拒んだ。
いや、そう言わせてしまうほどのギリギリの攻防なのだ。
意気込みとは別に、体は徐々に後退していた。
(このままでは…)
マークは決意した。
アテネは自分の意思に反応し答えてくれるのは、ダークエルフの里での戦闘でわかっている。
そう考えている間にも、体はどんどん後ろに後退している。
「ルシャナ様、この場は私が必ず切りぬけます。その後、魔王に隙が生まれるかもしれません。そのときは…、迷わずお願いします」
「案ずるな、まかせておけ!ゆっくり体力を回復している間に打ちとって見せる!!」
「いえ、お別れです」
「何を言っているのだ…?」
「私の膝はすでに限界を超え、いつ吹き飛ばされるかわかりません。…ルシャナ様の元で騎士団を率いてみたかった…」
するとマークは誰の声にも反応しなくなった。
「アテネよ!何を遊んでいる!今こそ本来の力を発揮せよ!!」
激しくアテネが光り出す。
後退しつづけていたマークの体が止まる。
それを見た魔王は更に光線の量をふやした。
魔王も自分の力を超えたギリギリの攻撃を仕掛ける。
再び体が後退し出した。
今度の攻撃は耐えきれそうに無かった。
すでにアテネの盾の周りから魔王の光線が漏れ出してきていた。
地面に飛び火した光線は、見るも無惨に土をえぐる。
ひと目でヤバいとわかる。
「アテネよ、私の正義心が足りないなら 魂を食らうがよい!今、力を発揮せずに、いつ活躍するのだ!!」
その叫びに盾が答える。
アテネは無常にも魂を食らい出す。
マークの体は徐々にその精気を失い出した。
その途端、アテネは帯びていた光が、さらに激しくなる。
そして突如、元の五倍ほどの大きさになった。
通常なら大きくなった盾に持ち上げられるのだが、アテネは地面を突き破り地中深く突き刺さる。
これにより、体が後ろに下がることは無くなった。
魔王は焦っている様に見える。
自分が隠しておいた必殺の攻撃が、たった一人の人間によって食い止められている。
これだけ大きくなった盾では、今更他の人間を攻撃するわけにもいかなくなった。
さすがの魔王も精神力が切れる。
徐々に光線の量が減りだした。
「マーク!よくやった!!」
ルシャナがはしゃいだ…が、返事が無い。
すでに骨の髄まで精気を吸われ、アテネに支えられて立っているだけであった。
「マーク…、ありがとう…」
その間にも魔王の光線は細くなっていく。
反撃のチャンスは刻々と迫っていた。
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