第6話『王の遊び』
アンスラックス王は何も言わず僕を見ていた。
「よし、コオチャ。一つわたしと勝負しよう」
「!?」
「なぁに、簡単な遊びだ」
そう言って、座っていた椅子の後ろに飾ってあった低木から、数枚の葉っぱをちぎり、僕の前にパラパラとばら蒔いた。
「そなたのレイピアを1本貸してもらえぬか?」
「はい」
すっと立ち上がり、左側にさしてあったレイピアをヒョイッと上に跳ね上げると、柄よりも下を持ち、グリップ部分を王に突き出しす。
王はぐっと握ると目の前にかざした。
そしてニヤッとすると…
「何をしている、コオチャも構えよ。合図と共にここにある11枚の葉っぱを、レイピアですくいあげる。6枚以上取った方が勝ちだ。テール合図!」
慌ててレイピアを顔の前にかざした。
「………、始め!」
低い声が響き渡った。
勝負が付くのは一瞬の出来事だった。
「なかなか良い腕前だ。だが、もう少し改善の余地はあるようだな」
王はニヤニヤと子供のような笑顔を向けている。
彼のレイピアには6枚の葉っぱが突き刺さっていたからだ。
当然コオチャは5枚しかない。
「………」
言葉にならない唸り声しか出なかった。
丁度その時、エル・ナイトの一人がこちらに近づいてきた。
「アンスラック様、そろそろお時間です」
「うむ、そうか。楽しい時間は時が経つのが早いのう。そうだ、お前この少年と一勝負してみよ」
「しかし…」
「まぁ、良いではないか。ほんの数秒だ。やり方は解るな?」
「その様子からだと、多く取った方が勝ちですな。しかし、わたくしめはレイピア使いとしては長いゆえ相手になりますかな?」
「ほぅ、ぬかしたな」
王はレイピアを今来た騎士に渡した。
そして、葉っぱをレイピアから静かに抜き落としす。
僕も葉っぱを落とした。
ジッと騎士の顔を注視する。
彼は葉っぱを取る順番を想定しているようだ。
その視線の一つ一つを確認した。
その時、王が手を上げ勢いよく振り下ろした。
「始め!!!」
さっき騎士が視線を送った順番を先回りして10枚を取った。
悔しそうに1枚だけかかげようとしたその瞬間に最後の1枚を相手のレイピアから器用に抜き取った。
それを見た王は腹を抱えて笑った。
「ハァーハッハッハッ!なんと情けないことよ!」
「しかし、この小僧…」
王の顔が急に強張る。
「言い訳をするな!勝負は葉っぱが落ちる時から始まっていたのだ。おまえの視線の一つ一つをこの少年が読み取り先読みしたのだ。合図の時にはおまえの負けは解っていた。最後の1枚にしろ油断したのが悪い。それに剣さばきも単純で直線的過ぎる。テールから見てどうだった?」
「アンスの言うことはいちいちもっともです。先ほどの王と少年の勝負は、半分の時間でしたが剣の動きは今の勝負の5倍動いておりました。駆け引きの為でしょうけど」
「その通りだ!1から出直して来い!!!!!」
そう言った王の声は窓を震わせた。
その痩せた体からは想像できない大声に、そ場に居た僕らを含め、数歩離れていたフィスナーまでもが耳を塞いだ。
騎士は冷や汗を流しつつ、早歩きでこの場を去った。
見えなくなるまで見送ると王は静かに椅子に座った。
「すまぬなぁ。大声を出してしまった。団長、おぬしの養子だ。よく面倒をみよ。成長を期待しとるぞ」
フィスナーは立ったまま右手を腹の前で横にし、深々と礼をした。
僕も真似する。
「フフフ、また会おうぞコオチャよ」
「はい!」
フィスナーはもう1度軽く会釈すると、赤い絨毯を引き返していく。
慌てて後を追う。
こうして王との初対面を済ませた僕は、複雑な気持ちで城を後にした。
その後、残念ながら王には会えなかった。
そして、1年の月日が流れた。
僕の生活は充実していた。
義盗賊団アルシャンの中でも徐々に団員としての地位を上げ、ついには5本の指に数えられるまでになっていた。
トップシークレットのミッションを指揮し確実に成功へと導いていく。
この1年ですべての生活環境は変わり、何もかもが新鮮で、何をやっても楽しかった。
しかし、この楽しい生活に終止符を打つ爆音が遠くに響き渡るのを境に、戦いの日々へと投げ出されることになるとは想像していなかった…
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