第30話『魔王降臨』

6人は必然的に集まってきた。

死を覚悟した戦いだったが、誰も欠けることなく帰れることに安堵していた。


そんな中ラジュクは最後の力を振り絞り、今だ回転しつづける杖に向かって命令した。

「鍵を…」

その声はほとんど聞こえなかったが、杖は主の命令を実行する。

鍵は誰にも気付かれること無くゲートへ向かって飛び、静かにその門を開いた。

聞こえるはずの無い、門の開く音がする。


ギギィィー……………


その音に喜び合っていた6人が反応し、混乱した。

(なぜ?)

(どうして?)

その間にもゲートは静かに開く。


「しまった!ラジュクはまだ生きているぞ!」

コオチャが気付いた。

最後の命令を下したラジュクは倒れながらも不敵に笑っていた。

「魔王に殺されるがいい…。わたしの役目はここまでだ…――」

そう言うと力尽き倒れ込んだ。

コオチャが駆け寄るがその途中で歩みを止めた。


「遅かった…」

全員が祈るような思いでゲートを見つめた。

鍵が適合しないことを…


ゲートは完全に開ききると中から半透明の足先がすぅっと出てきた。

「完全体ではないわ!」

リスネットが叫んだ。

皆がホッと胸をなでおろした。

完全体ならば具現化しているはずである。

誰もがそのままゲートの奥に帰るものだと思った。

が、足は更に前に踏み出してきた。


???


そして優雅に、その姿を現し始めた。

魔王が降臨したのだ!


「どうして…、完全体ではないのに…」

リスネットは信じられない思いでいっぱいだ。

そんな思いとは裏腹に、魔王は六人を見つけると静かにこちらに向かってくる。

背丈は3mほどで、全身は黒く人型をしている。

悪魔特有の服は着て、地味だが圧迫感のあるマントを羽織っていた。

長い角が二本あり、目は悪魔特有の黄色をしていた。

魔界からの使者に多く遭遇している冒険者なら、目を見ただけで直ぐに理解しただろう。

超上級悪魔なのだと―――


歩く度に心が締め付けられる。

恐怖?

後悔?

絶望?

どんな心苦しさなのかは検討もつかない。

全部かもしれない。


だが魔王と闘わなければならない事だけは事実だった。

全員が攻撃体勢に入る。

魔王は六人の目の前までくると、歩みを止める。

久しぶりの下界だからか、まだ動きがぎこちない。


「まだ、ここに慣れていないのじゃ…?」

ルシャナが気付く。

なるほど、そう思わせる動きである。


間一髪、コオチャが魔王の右腕に向かってレイピアを突き刺した。

手応えはあったが、魔王は痛みすら感じて無かったかのようにコオチャを睨む。

その黄色い目を見ると、心臓を鷲掴みにされる思いがした。


魔王が左拳を振り下ろす。

一瞬反応が遅れるがギリギリの所でかわした。

しかし、コオチャの左頬が十字に切れた。

風圧のせいである。


一心不乱にその場を離れた。

直ぐに右拳が振り下ろされていたからだ。

魔王は動き回ることはままならないようだが、攻撃に関してはまったく支障がないようだった。

だからと言って、このまま放って置く訳にはいかない。

いずれ、その行動も自由になるだろう。


次にルシャナが果敢に攻めた。

しかし、薄っすらと光を帯びた聖剣でも傷を着けることは出来なかった。

魔王の拳が降り注ぐ。


しかし、マークがアテネで防御する。

アテネは持ち堪えた。

が、マークが持たなかった。

地面に叩き付けられ、しかも自分の体をバネに跳ね飛ばされた。


これではいくら防御しても体が持ち堪えられない。

「風の精霊シルフよ、マークの盾となって!」

リスネットが援護する。

シルフを纏わり付けることによって、クッション代わりにさせたのだ。

衝撃もある程度は和らげる。

「助かる!」


マークは自分の体がほんの少しだが浮いている感覚を得た。

そして、リスネットの意図も理解した。

「気を付けて。シルフも攻撃を受けるたびに消えていくわ!」

「承知した!」


コオチャ、ルシャナ、マークの三人で一斉に飛びかかる。

魔王は自らの肉体で防御する。

そこへフィスナーが無造作に矢を放つ。

弱点を探るためだ。


魔王は矢に対しては防御を取らなかったが、唯一顔への攻撃だけは矢を払い退けた。

!!!

誰もがその行動に気付く。

おそらく黄色く光る目が弱点ではないかと感じた。


目配りをする。

アイコンタクトによって確認した。

攻撃を顔に集中させる。

しかし、3m近くあるために剣ではなかなか届かない。

ひっくり返すか、何かを台にして更に高くジャンプする必要があった。


そんな中リスネットは、あらゆる経験と知識をしぼり、なぜ半透明の半完全体で魔王が降臨したのか考えていた。

(何かを媒介している?)

何か強烈な魔力を媒介にする事によって、完全体ではないが降臨する事に成功したのかもしれない。

ハッピネス・スティックもその一つと考えた。


(防御力を高めているの?)

実は鍵は適合したのだが、別の力によって体を防御し、その為に半透明になっているのかもしれないとも考えた。

ラジュクが魔王とどのように契約を交わしたのかがわからない。

魔王とて、前回と同じようにしたのでは、同様にに破り去られる可能性は考えるだろう。


どちらにせよ、想像を絶する防御力が気になった。

(!?)

どう考えても魔王は別の力を吸収しているのは間違い無かった。

それは一つしかない。


ハッピネス・スティック…

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