第24話『ダークエルフの里』
「そうだ、雷神剣を取りにいきたいんだ。手伝ってくれないかな?」
「わかりました。必要になったのですね。元々コオチャの剣です。邪魔が入るでしょうがみんなで力を合わせましょう」
「邪魔と言うと…、あいつらかい?」
「そうです。皆さんにもここのダークエルフの住む村の事情を話しておきましょう」
どうやらダークエルフと言えども一枚岩ではないようだ。
「私達は古くからこの地に住んでおりました。そのせいか近辺に住む他のダークエルフ達に強い発言力があります。しかし、それと同時に傲慢になりました」
「今の村長はそんな習慣を絶つかのように厳しい規則を作りましたが、それに反発するかのようにレジスタンスが生まれました」
「私達はそんな彼らを過激派と呼び、厳しく監視してきました。しかし彼らは村長を人質に取り、やりたい放題暴れ出しました」
「その結果がコオチャの拉致であり、雷神剣を利用した人間界の撲滅なのです」
「その後は彼から聞いているでしょう。あまりに悲惨な状況に私からは伝えることが出来ません…」
ミルは俯いた。
「そんなことはないさ。ミルやその仲間達のおかげで 僕はここにいるんだ」
「そう言ってもらえると救われます。しかし、雷神剣は厳しく管理されています。が、今はチャンスかもしれません」
「ラジュクに荷担しているからだろう?」
「そうです。先ほどもその帰りでしたが、作戦が失敗に終わったとかで私達にやつ当たりをしてきたのです。私はなにかと標的にされるので、とりあえず逃げ出してきました」
「そうか…、あのやろう…」
「コオチャ、憎しみからは何も生まれませんよ」
「わかっている!でも…」
「言い訳は聞きません。けれど、絶好の機会にあなた達と会うことが出来た事に、神に感謝いたします…」
ミルはそう言うと手を合わせて神に祈る。
その姿は闇の属性の種族だということを忘れさせた。
「村に行く前に、娘さん、一つ助言をしましょう。」
「はい?」
突然の問いに、シータは驚いた。
「魔法は放出個所が広いほど大量の魔力や精神力がいります。ですが、放出面積を調節することで使う用途が増えるはずです。」
「!!!、ありがとうございます!」
シータはようやく気付いた。
無闇矢鱈に精神力を使っていたので、すぐに体力も合わせて尽きてしまっていた。
放出面積が広い為、無駄に力を放出している。
ミルは優しく微笑んでいた。
さっきのお礼なのだろう。
気を入れなおし、7人はダークエルフの里へと向かった。
ミルを先頭に静かに、そして素早く進む。
行動が遅いと期を逃すのもあるが、発見される確率も高くなるからだ。
ルシャナやシータはついていくので精一杯だったが、ミルの絶妙なスピードコントロールによりなんとかついていくことができた。
どれほど進んだだろうか…
ミルがピタッと止まった。
そしてすばやく身を隠しながら、全員隠れるようジェスチャーしていた。
息を整えつつ前方を見渡す。
そこには家が連なり、確かに村が存在した。
(ダークエルフの里・・・。)
誰もがつぶやいた。
誰一人辿り着けなかった場所。
例え辿り着いても生きて帰ってきた者のいない場所。
村は静かで、人の気配はない。
だが、油断は出来ない。
ダークエルフ達は平素から気配を消すのが習慣となっている。
ミルは後ろの仲間を振り返った。
全員覚悟を決めている様子だ。
隣で鋭い眼差しを向けていたコオチャはじっと前を向いていたがふと呟いた。
「行こう!」
7人はどっと駆け出す。
建物の脇からスッと村に侵入した。
物陰から村の中央を睨むが誰一人いない。
「中央広場の向こう側の一番大きい建物の地下に雷神剣が、建物のどこかに村長が捕らえられています」
コオチャはフィスナーの顔を覗く。
どっちを優先するか確認するためだ。
雷神剣があった方が村長の奪還に有利なのか、村長を助けた方が雷神剣の奪還に有利なのか、どちらがいいのか…
「こうゆう時はよぉ、案外行き当たりばったりが良かったりするぜぇ」
「よし、突入だぁ!!!」
コオチャは意を決したかのように駆け出した。
もう、駆け引きも何もない。
他の仲間もつられて駆け出す。
中央広場を突っ切り、一気に目的の建物に近づいていった。
そして入り口を勢いよく開る。
バタンッ!
そこは信じられない光景が待ち受けていた。
「村長!」
ミルは思わず叫んだ。
何故こんな所に…
「ら、雷神剣!?」
なんと、村長と雷神剣が目の前にある。
コオチャは咄嗟に叫んだ。
「罠だ!!!」
7人はちりぢりにその場を離れる。
カッ、カッ、カッ!
床に数本の矢が刺さる。
更に逃げた場所にも矢が飛び交う。
「シルフよ我らを守りたまえ!」
リスネットが風の精霊を呼び寄せた。
吹かないはずの空間に風が舞う。
矢の威力は一瞬にして無効となった。
風はさらに舞い上がり上空からの攻撃に対して防御壁の役目を果たす。
コオチャは敵を確認する間もなく、真っ先に雷神剣に向かう。
後少しで手にしようとした瞬間、床が抜ける。
「!!」
間一髪ジャンプするが、バランスを崩す。
その時を待っていたかのようにダークエルフ達が突入してきた。
しかし、フィスナーのダガーの餌食になる。
体制を整えるコオチャ。
周りには何重にもダークエルフ達が囲んでいた。
そこへマークが一人果敢に突入する。
ダークエルフ達が愛用する細身の剣ではプレートメール自体を貫通させることは出来ない。
マークは大きな盾となって、攻撃の的になることによって他の仲間の動きを活性化させた。
ルシャナも先頭に立った。
不意打ちを食らいそうな時にはリスネットやフィスナーからの援助が飛ぶ。
コオチャはもっとも前に出ていたが、一人の男と対峙した。
「ルダ…、やっぱり現われたな」
「ふん…、出来そこないの小僧が、かあちゃんの形見を取りにでも来たか?」
卑らしい笑みを浮かべたルダは、過激派のリーダーである。
その実力はこの里の中でも1、2を争う。
コオチャは知らないうちに冷や汗をかいていた。
「コオチャ!過去と決別するために来たんだろう!!」
ルシャナが叫ぶ。
彼は幾度となく対決するが、唯一の兄弟とも認識している。
「………、今は大勢の仲間がいる。こんな僕を助けてくれるんだ。一人じゃないんだ。それに、すぐ目の前には母さんもいる」
視線の先に雷神剣がある。
「おまえは持つ資格すらないのだ。おまえは偽者なのだ。そして化け物なのだ。思い出すんだな!!」
コオチャは怯んだ。
そして脅えた。
物心付いた時から続く虐待の日々は、彼に恐怖心以上のダメージを背負わせていたのだった。
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