第25話『正義感』

過激派リーダーであるルダと対峙しながらも、恐怖心に襲われたコオチャの状況を見たリスネットが、上空で弓による攻撃を防いでいる風の精霊シルフが溜め込んだ矢を、ルダに向けて放った。


ルダは不意の攻撃にもかかわらず、巧みに、そして最小限の動きで矢を交わし、更にはコオチャに向けて魔法を放った。

「死ね!!!」

彼の突き出した右手から炎がコオチャに向かって飛ぶ。


エルフ系の種族の特徴として、人間より腕力、体力は劣るが、俊敏性が非常に高く、特に森での機動力においては最上位に君臨する。

そんな特徴から、得意な攻撃としては、木々に隠れながらの弓による遠距離攻撃と、豊富な魔力を使った魔法攻撃が有名だろう。


ドンッ!


しかし、コオチャの隣に駆け寄ったシータが、トールハンマーで薙ぎ払う。

「えぇーーい!!」

ハンマーに打ちのめされた炎は、一瞬にして消滅した。

神器と呼ばれる武器、防具は、一般的な物よりも特殊効果が付与されている場合が多い。


特に、一般的な防具では魔法系の攻撃を防ぐには、魔法防御を施す必要があり、そういった処置は定期的にメンテナンスも必要となってくる。

だが、神器ともなれば魔法防御をこなしてしまっても不思議ではない。


「はやく村長を!」

気絶させられているのか、この状況の中村長は身動き一つしない。

フィスナーが動いた。

ダークエルフ達の攻撃を交わし、村長の所まで行くと素早く彼を縛り付けていたロープを切る。


そして背中から手刀を一撃入れると、村長は目を覚ました。

「ここは…?」

その問いに答える間のなく抱きかかえると、フィスナーは宙を舞うようにその場を離れた。


ミルは村長に回復魔法をかける。

そして一目散に外へ避難する。

まずは人質を開放し、自分達が動きやすくする必要がある。

建物の外にはこの騒ぎを聞きつけた仲間達がいた。


「ミル…?村長!大丈夫ですか?」

あれほど失敗していた村長救出をミルがやり遂げたかと思った。

その空気を察知した彼女は建物の中を指差した。

「中にコオチャが…、コオチャ達が…」

ミルの仲間のダークエルフ達は武器を手に建物の中に突入した。


皆、コオチャという響きにつられた。

それは、耐えがたきに耐えた、優男風の面構えからは想像できない精神力で歯を食いしばり、この地のダークエルフを歴史に汚点を残すのを食い止めた人間だからだ。

声にこそ出さないが、誰もが彼に恩返しをしたいと思っていた。

しかも、それは今だと感じていた。


建物の中は、人間と過激派達が死闘を繰り広げている。

想像し得ない状況に混乱する者もいた。

「今は、種族の関係を超えた戦いなのです。早く援護して!」

ミルが叫ぶ。


その声に押されるかのように次々に突入していく。

思わぬ援護に建物内が混乱した。

各所で小競り合いが起きたが、過激派達は死闘を楽しむかのように勢いづいた。

この場で決戦をしかけるつもりなのかも知れない。

 

その中ずっと先頭で皆の盾になっていたマークが、体力も気力も限界に達していた。

(目眩がする…)

限界は手にするグレートソードにも言えることだった。

何度もダークエルフ達の攻撃を受けているうちに、いやな感触を感じている。


(折れる…!?)

しかし、敵の攻撃は延々と続いていく。

不意打ち、連携攻撃、魔法、飛び道具…

ありとあらゆる攻撃で精神力も限界に達している。


(ルシャナ様…)

彼を支えているのは、その一点の思いだけであった。

そんな中ついに剣が破壊される。

ピシッ


「くっ…」

気絶しそうな思いの中、さらに混乱を招いた。

ダークエルフ達の攻撃が激しさをましたからだ。

アァァァァァァァァァァァ


「まずい!!」

フィスナーが気付く。

背中から小ぶりの弓を取り出し、目にも止まらぬ速さで矢を放つ。

それは流星群を見ているようだ。


雄たけびと叫び声が飛び交う。

いったい何本放ったのかさえわからない。

矢が尽きるとダークエルフ達が持っているような細身の剣を抜いた。


彼は風のように舞、すばやく攻撃をすると反撃を食らう前にその場を離れる。

その繰り返しにより、常に奇襲をかけている。

彼ならではの戦闘方法だ。


そしてそこへ、ルシャナが駆け寄る。

「マーク!マーーク!!しっかりしろ!」

彼は無数の傷を背負い、鎧もかなりのダメージを蓄積していた。


「ケケケッ、とどめを刺してやる!」

ダークエルフは倒れているマークに牙をむいた。

その非道な仕打ちにルシャナの頭の中で何かが弾けた。


「てめぇらぁ!!!」

その叫びは建物中に響く。

一瞬、時が止まったかのようだった。

彼のどこからこんな声が出るのか…


ルシャナはあまりの怒りに肩で息を吸い、大量の汗を流している。

その目付きはアンスラックスを彷彿とさせた。

オォォォォォ!!!!!

今までの動きとは明らかに違う。

あまりの素早さに彼が完全に消えたかと思わせた。


!!


次の瞬間、彼の周りにいるダークエルフ達が次々と宙に飛び、その中央にルシャナが剣を振り上げる姿の残像が見える。

「ハァッ!!!」

振り上げた聖剣を今度は振り下ろす。

宙を舞っていたダークエルフ達が床に叩き付けられた。

床は抜け、その下の土が飛び散った。


「あ…、あれは…。アンスラックス様の奥義の一つ、「剣舞」では!?」

リスネットは攻撃の手が止まるほど驚いた。

今までの戦闘で、聖剣エクスかリバーと契約を結んでいないのはわかっていた。

それがどんな理由なのかは分からないし、聞く必要もないと思っていた。

しかし、今、ルシャナが使った技は聖剣あっての攻撃である。


(彼は契約をしないでも、エクスかリバーに認められている?)

リスネットはそう思うしか自分を納得させることは出来なかった。

マークは意識が途切れ途切れになっている中、ルシャナの勇姿を目にした。


(わたしは何をしてるんだ。ルシャナ様を守ると誓ったではないか!)

無意識に体を起こしていた。

その時ふと目に飛び込むものがあった。

(剣と盾…)

それは壁に仰々しく飾られていた。


しかし装飾は削られ、傷もある。

明らかに使用されていたものだった。

(あれを…)

手にし、ルシャナを、そして仲間を守る…


その思いが体を突き動かした。

今まで倒れていたとは感じさせないスピードで、飾られている剣と盾に向かって走った。

邪魔する者はプレートメールのショルダーで跳ね飛ばす。


武器のある場所にたどり着くと、私物のように無造作に手元に引き寄せ、盾を左腕に装着した。


ドクン


何かが前身を駆け巡る。

次第に思考能力も元に戻り、意識がはっきりしてきた。

剣を力強く剥ぎ取り、振り向く。

そこには礼儀正しい騎士の面影はない。

全身の傷、披露による気だるさ。

だが気迫だけはみなぎっていた。


しかし、ダークエルフ達は一様に笑っていた。

「おめぇ、それが何だか知っていて装着したのか?」

「なに!?」

マークは気持ちが高ぶっている。


「そいつは、古より伝わる武具だが、正義の心を持つものにしか扱えねぇ。しかも、悪の心を見せればすぐに魂を食われちまう。そんな正義だけの心を持った生き物なんちゃいねぇよ!」

しかしマークは怯まなかった。

それどころか剣を振りかざし攻撃態勢を取ることが出来た。

それこそ正義感に駆られていた。


「!?」

その途端、体中に痺れを感じた。

ウォォォォォォォォォ

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