第26話『古代武具』
悲鳴とも聞こえるその声に、逆にダークエルフ達が躊躇する。
その時マークは、呪いと闘っていた。
(憎しめ…)
(妬め…)
(殺せ…)
ありとあらゆる悪の概念が頭をよぎる。
つい衝動に駆られそうになる。
「私は、自分の未熟さを憎む、そして 自らの肉体を傷つけることによって さらなる力を得る!」
盾が光を帯び始める。
「そして、その力を正義の為に!!」
今度は剣が光を帯びた。
「こいつ、悪の心がまったくねぇと言うのか!?」
ダークエルフ達は恐怖した。
彼らは当然だが、この武具は使えない。
それは、正義の心がまったくないからだ。
しかし、今、目の前の人間がこの古より伝わる武具を装備している。
それは、自分達に持ってないものを彼は持っていることをさす。
自分にない力というのは恐ろしいものである。
「ルシャナ様、お約束通り お守りいたします」
「何を言う、私は自分の身は自分で守る」
二人は目線を合わせると、ニヤッとした。
古より伝わる武具は、その恐ろしい呪いと引き換えに絶大なる力を発揮した。
長い間使用されなかったせいか、腹の減った獣のように正義心に飢えているようだった。
剣の攻撃力は神器に比べれば見劣りがするが、既製品よりは格段によい。
騎士ようなフルプレートアーマーに、大盾、大きめの剣という装備という馴染みのある構成も良かった。
通常の装備であれば、かなりの重量になる。
だがこの装備は見た目よりは軽く、何より硬度が高い。
そう、最も目を見張るのはその防御力の高さである。
体の殆どを覆い隠す台形のシールドは、特に硬度がかなり高く、しかも絶対魔法防御=アンチマジックシェル、つまり魔法による攻撃を理論上すべて跳ね除けた。
言い伝え以上の防御力に、ダークエルフ達は傷一つつけられないでいた。
それは、彼らからすれば無敵の人間が現われたことを意味したのだ。
彼の正義心に、戦況は一変した。
マークが剣を振るうたびに、過激派達が倒れていく。
そんな中、過激派リーダーのルダとコオチャの戦闘は激しさを増していた。
ルダは雷神剣を背後にし、更には複数の部下の援護をうけている。
コオチャはその攻撃を器用にかわすものの、決め手に欠けていた。
マークとルシャナの活躍で、戦場の空気が一変し、過激派達の敗戦が濃厚になる
二人の戦いにも徐々に変化が起きていた。
部下がルダの目を盗んでは、敗走しつつあるのだ。
いかにルダが強烈なリーダーシップを取ろうとも、村長を奪われ、倒すことが出来ない人間がいる状況では、戦況を改善する事は出来なかった。
過激派は次々と敗走し始めた。
それが止めることの出来なくなると、ルダは悠々とその場を離れた。
ほとんどの過激派が建物からいなると、ルダは振り返りざまに火炎の魔法を放った。それはコオチャ達に向けたものではなく、建物を燃やすためだった。
その火はすぐさま部屋を包み、あっという間にルダの退路を塞いだ。
すべて計算ずくなのだろう。
コオチャは炎に囲まれながら、雷神剣と対峙した。
ルシャナの言う通り、過去との決別に来たはずだった。
しかし、必要以上に避けてきた為か、目の前にあるのに、あれほど合いたかったのに 、どうしてもあと一歩が踏み出せない。
「コオチャ、早く!」
皆は外へ避難し、シータも出口で待っていた。
「早く!!!」
あまりの怒号に、コオチャは背中を押される思いがした。
ついに手に取り出口に向かって駆け出した。
その勢いのまま安堵の表情を浮かべていたシータをも抱きかかえ、外へ飛び出した。
その直後、大きな音とともに建物は崩れ出した。
外に非難した中間達も広場を隔てた反対側へと更に逃げる。
運良く雨が降り出し、ダークエルフの里にもたらした悪夢を洗い流し始めた。
「コオチャよ、よくぞ戻ってきてくれた。そして、助けて頂いた事、決して忘れはせんぞ。また、困ったことがあれば何でも相談するがよい」
村長は涙を流しながらそう言ってくれた。
僕はここには辛い思い出の方が断然多い。
しかし、ミルを始めとする、極少数だけど自分を助け、知恵を与え、技術を教えてくれた仲間には感謝している。
そのお陰で僕は耐える事も出来たし、恩返しもしたかったのだ。
「雷神剣はあなたの体の一部です。コオチャの喜怒哀楽に激しく反応するでしょう。すでに心の奥に宿る熱い思いに反応しているはず」
ミルはそう言うと、雷神剣を鞘から抜くようなジェスチャーをした。
その場にいる全員が注目した。
スゥー
静かな空間に剣を抜く音が響いた。
「青く光っている…」
誰もがその刃に惹き込まれた。
見た目はバスタードソードぐらいの大きさに、申し訳なさそうな程度に装飾が飾られている。
柄のところには魔石と思われる石が埋め込まれていた。
通常この大きさだと、非力な僕には振り回すことは出来ない。
しかし、自分の指ぐらいにしか感じない軽さ、いや一体感は、一子相伝のなせる技なのか…?
しかし、突然脱力感に教われる。
慌てて鞘に収めた。
「体力を酷く消耗するようですね。まだ、剣に宿る雷神に認められていないのか、それとも、もっと鍛えろというのか…。正直なところ謎が多い剣です。しかし、きっと、あなたの役に立つでしょう。そして、母の思いを感じなさい。その剣で何を切ろうとしたのか…」
ミルはちょっと悲しい目をしていた。
本当の母親のように接してくれていただけに、剣に子供を取られたように感じたのかも知れない。
「さあ、いきなされ人間達よ。そしてラジュクの暴走を止めなされ。彼は魔王復活の準備を終えているようじゃ」
「!!」
村長の突然の助言に、コオチャ達は息をする事さえ忘れた。
6大精霊王がやっとの思いで倒した魔王の復活…
魔界と現世をつなぐゲートの鍵の作成…
いきなり完全適合する可能性だってありうる。
「鍵の作成の他に、復活後の魔王の制御にも幸福の杖が必要なのでしょう。絶対なる精神力は下界に現われた魔王をも操れるのかも知れません」
ミルが冷静に分析する。
「そうかぁ、それならば過激派達がラジュクに荷担するのも、分かるってもんだぜぇ」
フィスナーは全ての思惑が繋がった事にを納得した。
魔王を含めた絶大な攻撃力を持ってすれば、西の都の制圧は容易いだろう。
「よし、急ごう!ラジュクの元へ!!」
「コオチャ、行くって言っても、いったい何処にラジュクがいるの?」
リスネットの言葉に、肝心な事を忘れていた事を思い出した。
そこへシータが助言する。
「私、森に入る前からずっと悪意のような違和感を感じていたの。それはここの里の事だとばかり思っていたけど、今はまったく別のところから感じる。多分、ラジュクの闇の心にトールハンマーが反応しているのだと思う…」
意外なところから、手がかりを得た。
「今はシータに賭けてみよう。何もしないよりはマシだ」
ルシャナが賛同した。
マークもうなずいていた。
「あたいもこの森を出たら精霊達に探ってもらうわ」
リスネットも基本的には合意した。
フィスナーも黙って僕の顔を覗き込んでいた。
「よし、出発だ!」
6人は再び第2宮殿を目指した。
村を出る直前に、コオチャは急に退き返しミルに飛びついた。
そして、彼女にしか聞こえない小声で、最初で最後の言葉を…、気持ちを伝えた。
それは監禁されていた頃は決して口に出せない言葉だった。
(ありがとう、そしてさようなら…母さん…)
ミルは涙で視界を奪われた。
その瞬間懐かしい匂いと、暖かいぬくもりを残し、笑顔で手を振りつつ旅立つコオチャを見送ったのだった。
生きて、再び合えることを祈りながら・・・。
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