第8章『魔王再び』
第27話『それぞれの決意』
ダークエルフの村の外には、来る時に道案内してくれた木の精霊が待っていたようだ。
精霊の誘導を元に、リスネットが道案内をする。
来る時は長く感じた道のりも、帰りは意外と早く着いたように感じた。
「ありがとう。」
巨木に向かって深々と礼をするリスネット。
皆もならう。
精霊に対して常に対等な立場をとるのは、精霊使いという肩書き以前にリスネットの思いやりなのだろう。
続いて風の精霊を呼び止め、ラジュクの位置を尋ねた。
その方向はシータが感じる方向と一致した。
間違いなかった。
「第二宮殿…」
全てはそこが舞台のようだ。
ラジュクはエル・ナイトや準備係の中に自分の同士を混ぜ、着々と準備をさせていたのだろう。
向かう足取りを速めるが、マークの得た武器は思いのほか重く、彼に合わせて進行する事になった。
「噂で聞いたことがあるが、そいつぁ古代武具「アテネ」だな」
フィスナーが思い出したように語った。
古代武具とは大浄化以前からあったとされる物で、その威力はピンからキリまである。
すでにその効力をなくした物や、破壊寸前の物、何万年経っているか分からないが今だその効力を存分に発揮する物、その内訳は色々ある。
「しかし、そいつぁ当たりかも知れんなぁ。あのケチなダークエルフ達が大事に持っていたんだ。ワシより目利きがいいはずだぜぇ」
マークはその武具の重さとともに、プレッシャーを感じていた。
しかし、大事にする気はなかった。
(今回もてばいい…。)
その気迫は並々ならぬものを感じられた。
真っ直ぐ行くと王都リクレクル、右に曲がると第二宮殿に行くT字路に辿り着いく。
「いよいよ、ラジュクの所ね」
リスネットが身震いする。
自分の力を呪ってばかりいた日々だったが、今は逆に感謝している。
確かにコオチャの言う通りだったのかもしれない。
(その運命を背負っていくしかない―)
初めて役に立つ自分の力に、身震いをした。
今まで本気で精霊達を暴れさせたことはない。
どんなことになるのか?
どうなってしまうのか?
そう考えると不安になるが、今は良き理解者がいる。
仲間がいる。
この闘いが成功したら、今まで踏み切れなかった、ある事を実行しようと心に決めた。
ルシャナは迷っていた。
ラジュクの元に近づくにつれ、聖剣エクスかリバーと契約を結ぼうかどうかを…
(そこまで意地を張る必要はあるのか?)
しかし、そう思う度に父の顔が浮かんでいる。
父は自分のことを理解している。
例え今契約を交わしても、誰も笑うものはいないだろう。
そして、その契約の効果でラジュクを倒すことが出来るのなら、自分のプライドなんてちっぽけなものであると考える。
ルスール様がトゥオールハンマーから語り掛けたとき、三つの神器でラジュクに立ち向かえと言っていた。
(やはり、契約を交わそう…)
そう思い、歩きつつも聖剣を鞘から少し抜いた。
聖剣はうっすらと光を帯びていた。
!!!
ダークエルフとの闘いのときも光を帯びていた。
剣に攻撃力アップの補助魔法をかけると光を帯びるときがある。
だが、今は魔法使がいない。
そして、父譲りの剣舞もどうやってやったのかわからない。
いろんな思いが交錯し、剣を鞘に納めた。
(今の自分の力が通用するまでは、このままでいこう)
契約はいつでも、どこでも、短時間に交わすことが出来る。
契約内容はすでに決めている。
あとは叫ぶだけである。
それに、自分が契約を交わすと、父は聖剣の力を得る権利を失う。
それは国にも損失を与えると考えた。
だが、それは今回の事件の大きさを考えるとたいした問題じゃないのかもしれない。
でも、もう少しだけ自分を信じてみたいと思った。
その思いと、光を帯びている聖剣の輝きが、疲れている体を前に運ばせた。
フィスナーは足取りも軽やかに、そして、今までの戦闘での疲労を見せることもなくリスネットの隣を進んでいた。
(えれぇ事になったもんだ)
今回の事件を改めて振り返った。
それは15年前から決められていたかのように、自分は巻き込まれていった。
(運命ねぇ)
正直なところ、運命なんてものは信用しないし、あてにもしない。
信用できるのは自分自身で、あてになるのも自分だと考える。
裏を返せば誰も信用できないし、あてにならないということになるのかもしれない。
だが、それは違う。
難しい事は分からないが、自分が信用できると感じたことは信用できる。
そう理解した。
右目を失ったあの時から自分は大きく変わった。
仲間の嫉妬、裏切り、そして絶望。
しかし、今はそのなくなった右目に感謝する。
右目の代償に今の自分がいる。
今の自分は間違ってない。
50に手が届く年齢になって時々過去を振り返るようになった。
名声、富み、地位…、それなりに得たと思う。
自分を誇れる時もある。
が、一つだけ後悔したことがある。
もし、ラジュクの暴走を止めることが出来たなら、それをやろうと思った。
魔王が復活したら無理かもしれない。
だが、その残した悔いがある限り、全力で闘えると感じた。
その残した悔いは果てしなく大きく、自分にのしかかっているから…
シータは自分の無力に、不安と怒りを感じていた。
自分の出来ることを探すが見当たらない。
そして、メルの事もどうしたら良いかわからない。
時は待ってくれない。
着々と第二宮殿へと向かっている。
何に関しても助けてもらってばかりいる自分を、変えたいと思った。
母から受け継ぐ博愛の精神は、誰に対しても平等に愛を注ぐことである。
では、メルやラジュクに対して、どう愛を注げばいいのか…
母ならどうするか考えてみた。
母はラジュクと闘った。
それはどうして?
第二宮殿の爆発から助かった、騎士の話を思い出した。
その話で分かった事が二つある。
トールハンマーは魔法を弾き返せる事と、母はハンマーで攻撃しなかったこと。
守りきることでラジュクを追い詰めた事だ。
!!!
ハンマーは攻撃するためにあるのではなくて、守るためにあるの?
そう考えると納得いくことがある。
あの状況にもなって母はラジュクに対して最後の話し合いをするために闘った。
いや、守りきったのだ。
それがラジュクに対しての博愛の精神だったのだと…
結果的は仲間のエル・ナイト達を巻き込んで、自爆したことになる。
しかし、もし、その時に自分や仲間を犠牲にしてでもラジュクを止めなかったら、彼は魔王を復活させただろう。
そうなれば、犠牲になった仲間の数百倍の人々が、ラジュクの野望の為に犠牲になっただろう。
母は目先のことよりも、遥か先を見ていた。
自分はどうか。
私は、メルに対してハンマーを手放した。
それは、見かけはメルを止めようと体を張ったように見えるかもしれない。
しかし、結果的にメルを助けることは出来なかったばかりか、仲間に迷惑をかけた。
一人も助けることが出来なかった。
(そうか、ハンマーは武器を破壊する事に適している。そうすることによって相手と話し合える事も出来る…)
通常ハンマーは、その重みを利用した打撃系武器である。
破壊力は抜群だが、なにせ重い為に当たる確率も下がる。
しかし、そのハンマーが自分の手足のように振り回せたらどうか…
武器を狙って破壊する事も、そう難しいことではなくなる。
シータは自分で納得する事が出来た。
自分の進むべき道を少しだが見えたように感じた。
その瞳はまっすぐ前を見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます