第28話『ゲート』

 僕は緊張を隠せないでいた。

自分の過去との決別の為にも、ラジュクとは決着をつけなくてはならないと感じている。

過激派リーダーである、ルダとの決着もそうだ。


しかし、二人ともその実力は自分以上である。

だけど、不安はない。

今は仲間がいる。


仲間…


今まで感じたことのない心地よい関係。

助け合うこともあれば衝突する事もある。

自分が化け物だということもひっくるめて一人の人間として見てくれる。


そんな当たり前のことが嬉しいし新鮮だった。

アルシャンの団員達も仲間だが、それを超えた心地良さを、今は感じる。

ずーとこの6人で旅をしたいと思ったけど、それは叶わぬ夢だという事はわかっている。


ルシャナは次期国王、マークは騎士団員、シータは最高司祭候補の娘、リスネットは北の都へ帰るだろうし、フィスナーはアルシャンの団長である。

自分はいったい誰なのか?

その問いに答えが出る時が近づいている。


本当に雷神剣は自分に答えてくれるのか?

不安だらけだった。

その不安を上回る仲間達を、これからも大事にしたいと思った。

その為にも全力を尽くすだけだ。


六人は第二宮殿の近くまで来た。

それぞれが武器を手に取る。

会話はない。

いや、必要ない。


シータは今まで長くて邪魔だった髪を二本の三つ網にしていた。

トールハンマーに縛られていたオレンジ色の布で紙をとめた。

フィスナーはミルから補充してもらった矢を背中に背負い込む。

もう、隠す必要はない。


リスネットは腰の袋より、二個の銀の宝玉を手にする。

緩やかな風をまとい、時々光や炎が見える。

既にいろんな精霊達を呼び寄せたのだろう。


戦士達は思い思いに剣を構えた。

コオチャは二本のレイピアを抜く。

雷神剣を抜いていきなり体力を吸われるかもしれないからだ。


合図は王子、ルシャナが下した。

「行くぞぉ!」

六人が一斉に走り出す。

それはラジュクとの最後の決戦を意味した。


第二宮殿の中央にはダークエルフ達が待ち構えていた。

中央にはルダの姿が見える。

周りの木々にはスナイパーが配置されているようだ。

奥の方の残存する壁の近くに、小さくラジュクとメルの姿がある。


その周りには四人のエル・ナイトの姿もあった。

彼らもラジュクの魅力に取り付かれた人々なのだろう。

マークを先頭に右にコオチャ、左にルシャナがダークエルフ達へ突入した。

マークは彼らからすれば無敵の人間である。

彼を全面に押し出し、正面突破だ。


しかし、周囲から矢が飛び交う。

それは少なからず古代武具アテネの防御力を下げることになった。

相手は物量作戦できた。


リスネットはそれが分かると、木の精霊に語り掛けた。

「木の精霊達よ!暗黒の森の巨木に聞くがいい。今、どちらがこの森の為に良いのか!」

木々がざわめいた。

それは不思議な光景だった。

スナイパー役のダークエルフ達が次々と木から降りてくるのだ。


本来、エルフ系の種族は木と共に生きるとされる。

それは、何百年と色んな事を見てきた木と共に暮らすことによって、無限の知識を得てきたし、木々と会話する事によってその和やかな生き方に共鳴し、寿命さえも延びたと伝えられている。

その彼らが木から見放されるという事は、エルフ系の種族ではないと自然界に認められてしまったという事になる。


完全に戦場は第二宮殿内に絞られた。

木から落とされたダークエルフ達は、左奥の残存する壁に身を隠しつつも矢で攻撃してきたが、逆にフィスナーの矢の餌食になった。

いる場所が特定できれば、マスター オブ マスター=フィスナーの方が一枚も二枚も上である。


しかも、シルフ達を上空に漂わせ、完全に敵の飛び道具の効力を消した。

そうすることによって、逆にフィスナーの飛び道具が効力を発した。

リスネットとの連携は抜群で、シルフ達を移動させつつ的確に矢で射止めていく。


前線を突破し後方のリスネット、シータ、フィスナーに襲い掛かるダークエルフは 以外にもトールハンマーの餌食になった。

いくら素早い動きが得意なダークエルフ達も、手足のように振り回せる神器級のハンマーの前にはなす術がない。


シータは攻撃しようと思わなくても、ハンマーで彼らに触れればいい状況なのである。

そして、彼女は思う。

(絶対なる悪には、絶対なる聖で立ち向かう!)


彼ら過激派の肌の色は、通常のダークエルフよりも濃い闇の色をしていた。

それは、夜よりも濃い。

こうなってしまったら元に戻すことは出来ない。

闇の力を増強し過ぎで、人よりも獣に近くなってしまっているからだ。


前線が膠着状態に入ると、ラジュクは騎士団員を投入した。

これにより状況が変わる。

マークは仲間の騎士団を攻撃しなくてはならない。

矛先が鈍った。


そして過激派の人数に少しずつ押され始めた。

さらに、ラジュクの周りにいるダークエルフ達は魔法を撃ってきた。

それは、同じ仲間に当たってもお構いなしにである。

マークは通常攻撃にも、魔法攻撃にも、仲間の裏切りにも耐えるしかなかった。


そんな中ラジュクは、ゲートの鍵の作成を始めた。

まず、残存している壁にゲートを作る。

薄っすらと浮かび上がる、大きな門の幻影。


門を確認すると、幸福の杖を正面に水平にかざし、手を離す。

すると杖はそのままの状態で浮遊した。

そして、ありったけの精神力を杖にぶつける。

すると杖はその場を水平に回転し始めた。

杖は術者の精神力を元に、魔力へと変換する。


杖との交渉は成立したようである。

ラジュクの精神力によって杖は力を漲らせ始めた。

すると、残存していた第二宮殿の壁に、突如大きな扉が現われた。

「ゲ…、ゲート………」

魔界と、この世を結ぶ扉。


後は魔王が必要とする鍵の作成である。

ラジュクは早速一つ目の鍵を作成しゲートに向けて飛ばした。

ゲートの中央には鍵穴がある。

そこに鍵が納まりゆっくりと90度回転した。


その途端冷たい空気が宮殿跡地を覆った。

ゲートはゆっくりと開く。

突然、強風がその場にいる全員を襲った。

その直後うっすらと大きな手の形が、扉の隙間に一瞬だが目に映る。


「ま…、魔王はゲートすぐそばにいる!」

誰もが確信した。

ラジュクの野望は達成寸前だと…

過激派達の士気が上がる。


しかし、リスネットが次の手を打った。

精霊の召喚である。

「出でよ石の精霊ゴーレムよ!」

前回の対ラジュクの時に召喚した石の精霊を呼び出した。

ゴーレムと呼ばれる精霊は、リスネットの突き出した手の平から放出された魔力を元に、付近の石・岩を収集し、人の形を作っていく。

第二宮殿の瓦礫を吸収しつつ、5m近くの巨人と化した。

過激派達が先に魔王と対面したような状況となる。


戦場は混乱した。

その間にシータは体力回復の魔法を唱えた。

戦況は中盤に入ったと認識し、数的不利を覆す為である。

しかも、全員にである。


ミルの助言をヒントに、魔力の分散を避けつつ一点に集中させ、さらに五等分した。

思いつきであったが、思いの他うまくいった。

前線で苦戦していた戦士達に体力が戻ってくる。

特にマークはここへ来るだけでもかなりの体力を消耗していたが、ほぼ全快した。


ゴーレムの脅威は、騎士ですら傷つけることが困難である防御力と、ゴーレムの攻撃一回で過激派5人近くが消し飛ばされていく攻撃力を兼ね揃えているところである。

戦況は更に変化した。


この状況にダークエルフ達は、前線に少数の剣士を残すと、攻撃の主体を魔法へと切り替えてきた。

魔弾はゴーレムには有効だったが、傷ついた体を近くの瓦礫で補充する為、魔力が尽きる方がどう考えても早かった。

第二宮殿の破壊が、大いに役立っていた。


魔弾はリスネットにも向けられたがトールハンマーによって打ち消される。

これを期にコオチャ達は、ラジュクの目の前にまで押し迫っていくことが出来た。

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