第11章『沢山の愛情の形』

第39話『大広間』

コオチャ達一行は、サマリア城へ凱旋した。

居並ぶ貴族や騎士達からは最大限の祝福を受ける。

無言で大広間へ向かう六人。

心情は複雑である。


大広間の前室で執事に止められた。

「衣装をお着替え下さい」

「このままで良い」

ぶっきらぼうに言い放つルシャナ。

静止しようとする執事を突き放し大広間へ乗り込んだ。


オオォォォォォォッ!!!

部屋中に集まった仲間達。

毅然とした態度で王の前に歩み寄り、片膝をついた。

「ただいま戻りました」


深々と頭を下げる六人。

王はニコリともせず大きく頷いた。

「今回の事件について真実を述べよ!」


ルシャナはゆっくり顔を上げ、自分の目で見た事を話し始めた。

水を打ったように静まり返る。

皆、話が進むにつれて驚きを隠せない。

話が終わると、どこからとも無く拍手が起きた。


誰もが、今回の闘いが常に厳しい条件で、しかもギリギリのところで勝った事を理解したからだ。

王はゆっくりと立ちあがり、静かに口を開いた。


「まず シータよ。ワシは立場上、ルスールとラジュクのどちらかを贔屓する事は出来なかった。ゆるしてくれ」

「いえ、そのお言葉を父も母も喜んでくれます」

「うむ、そう言ってくれるか。おぬしには今後、その気があるならば母の意思を継ぎ ジィール国を助けてほしい。最高司祭としてな」

王はニヤリと笑った。


しかしシータは首を横に振った。

「今回の闘いで、自分の力不足を実感致しました。その名に相応しくなるよう修行を積みたいと思います」

シータは俯きつつ答えた。

その答えに満足したのか、王は静かに頷く。

「うむ、最悪の事態を想定し、自由の神殿より司祭団が城に向かっておる。明日には到着する予定だ。ルスールが先頭に立って育てた先鋭の司祭達だ。シータは彼等と神殿に行き修行をするが良い」

その言葉を受け、シータは上半身を起こし右拳を左胸に当てた。

サマリア式の敬礼だ。


「ありがとうございます。」

「今回の事件、最大の功労者をシータとする。依存は無いか!」

皆に問い掛けた。

だが、そのシータが首を横に振った。

「王のお気持ちは、ありがたく受け取ります。しかし、誰が一番の功労者だったかは言わなくても一致しております」

他の仲間達は、ある一人を注視していた。

王は静かに答えを受け取った。


「フィスナーよ、迷惑をかけた。私の四人の子供達、よくぞ守ってくれた。礼を言う」

王は滅多に下げない頭を下げた。

フィスナーも珍しく恐縮した。


「滅相もない。助けられたのはワシの方です。それに、大きなプレゼントまで頂いちまった」

そう言うとリスネットの方をチラリと見た。

照れくさそうに微笑んでいた。

「何を言う。おぬしの捨て身の攻撃は、単に闘いに勝つためではなく、子供達を守るためだと言うのは 言わなくてもわかるぞ」

二人は暫く見つめ合っていた。

言葉では語れない思いをぶつけていたのかもしれない。


「ん?フィスナーが色男に見えるぞ。それに眼帯はどうした?」

「幸福の杖の力によって、体に変化が起きました」

「これで、おぬしの2世にも会えるか?」

そう言って大笑いをする王。

フィスナーは俯きながらも笑っていた。

「これからもアルシャンの為、そしてこの国の為にも働いてほしい。その為にもフィスナー、おぬしの血を絶やすわけにはいかんからな」

「ハハッ」


「リスネットよ。久しぶりの再開がこのような形になったのを、許してほしい」

彼女はゆっくり首を横に振った。

(私は自分の幸せを見つけられただけで満足です。結果的に国を救えて、良かったと思っています)

声にはならない。

しかし、部屋中の誰の耳にもその言葉は届いた。


「すまぬ。そう言ってもらい助かる。その礼に、本国の北の都には死亡したと伝えよう。暫くはこの地に身を隠し、静かに暮らすが良い。その為には城をあげて協力する事を誓う」

リスネットは人目をはばからず泣いていた。

北の都では実験材料として扱われ、うまくいけばいくほどその内容は過激さを増していた。

人を人と思わないその行動に嫌気がさしていた。


(これで、ようやく普通の人としての生活が営めます)

「なぁに、北の都からの追求をかわすのはテールの仕事さ」

そう言っていたずらっぽく笑った。

テールは御意の態度をとっていた。

彼の知略を持ってすれば容易いことだろう。

 

「そして、マークよ!よくぞ我が息子を守りきった!!その情熱、しかと受け止めたぞ!!!」

「ハハッ!!」

「自分の失態を自分でけりをつけたその行動、まさしく騎士道精神なり!よって!騎士団復帰を認める!」

「ありがたき幸せ………」

マークは一度も顔を合わさないまま泣いていた。


「他の騎士ども、よく聴け!!マークは辱めを受けるとわかっていながらワシに意見した。そして、見事役目を果たしてきた!今のおまえらはどうだ!?ワシに意見を言えるやつがおるのか!!!」

広間は再び静まり返る。


「騎士とは、言われた事をこなすのが職務ではないぞ!この国を守る為、常に自らを鍛え上げ、そして厳しい精神を保ち、いかなる場合でも臨機応変に闘い抜く、それが ワシが目指した騎士団である。マークを見習うがいい!!!不服なやつは 彼の持つ古代武具アテネを装備するがよい!」


厳格な表情で辺りを見渡す。

誰も反論できない。

「マークよ、そちを騎士団の団長候補に任命する。若さゆえ苦労もあると思うが、受け入れてほしい」

彼は飛びあがるほど驚いたが、常日頃からエル・ナイト達の横暴振りに失望していたのもあって、待ちうける困難を想像しつつも受け入れた。

「承知致しました。誰にも頼られる騎士団を作ります。」

「たのむぞ、騎士団長」

王は満足そうに頷いた。

 

「我が息子ルシャナよ。よくぞ帰ってきてくれた。行く前にワシの初陣は13才と言ったが、倒したのはゴブリンだ。誰も魔王を倒してこいとは言ってなかったぞ」

いたずらっ子のような顔をする父。

「成り行きとは言え、今ここにいることさえ不思議です。無事、役目を果たせた事が 一番の喜びです」


「ラジュクが脱走した件、許してほしい。まさか、エル・ナイトの中にも裏切りがあったとはな。奴のカリスマ性を侮っていた。すまぬ」

「今後は マークが騎士団をまとめてくれるでしょう。安心して下さい。それにアルシャンや 次期最高司祭候補と闘えた事 良い経験にもなりました」

「良い眼をするようになったな」


アンスラックス王は、珍しく父親顔をしていた。

だが、誰も知らなかった、気が付いてやれなかった。

王の本当の、些細な、本当に些細な願いがあったことを―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る