第11話『騎士の誇り』
大広間に残された人々は、一時解散となった。
通常行う朝礼は今日ばかりは見送られたのだ。
色んな思いが交錯し、広間はいつもより煩い。
テールは人混みの中、アルシャンの城当番に事の詳細を伝え、今回の事件に関して調査員を指定した。
「アルシャンの事情が許すならば、団長殿とコオチャ殿に今回の件をお任せしたい」
と言いつつ、今の状況も伝えるよう依頼する。
城当番は、団の中でもトップ5を二人も指名した事に驚愕した。
依頼内容は、A級を通り越し、S級の依頼内容だと認識したからだ。
こんなことは団を結成して初めての事だ。
城当番は椅子を蹴飛ばし、先ほど出ていった、もう一人の城当番の後を追った。
テールは人も疎らになった大広間を、再び自分のポジションへと戻っていく。
その姿は、歩くというより少し宙に浮いたまま進んでいるようだった。
アンスラックスの隣に立つと、耳打ちをした。
「これからの業務は訪問者の謁見と、午後からは政治・軍事の会議となっておりますが、なにとぞ最高司祭は白紙に戻しなされ」
「そのつもりだ」
「わたくしは私室に籠もり、「真実の水晶」にてルシャナ殿下の見張りをします」
王はニヤリと笑う。
「心配は不要だ。ジィールの誇る稲妻の騎士が一人ついておる」
「しかし、あの者は今年騎士になったばかりの若輩者。腕前は間違いないでしょうが、若さゆえの行動が心配です」
「若さだぁ?上等だ!今回の事件、奥が深いとみておる。で、あれば、なおさら真実へと突き進む行動力も求められる。経験が足らん分は、団長に補ってもらえば良いだろう」
「さすがですな」
根回ししたのは伝えてないのに、王はすでにテールの行動を察知していた。
この状況で何も手の打てない宮廷魔術師ならば、王はとっくに解任処置をしている。
「いま少し様子を見て、ラジュクの動きを見極めるのだ。奴が今回の事件に絡んでいるのは明白だ。」
「わたしも同感です。幸福の杖を何に使うのか確かめる必要があります。それに応じて対応策を練りましょう」
「後、俺とおまえの身が狙われる可能性があるな」
「はい。エル・ナイト達に城の警備をさせましょう。アンスも見栄を張らず武器を装備して下され」
フンッ、とだけ答えると、王は書記長を呼びつけた。
事務方の最高責任者である「ルーヴル=ルネック」ある。
彼は平民の出だが、事務処理に関しては誰よりも能力が高く、何より貴族には無い人懐っこい性格が皆に好かれている。
「アンスラックスの名において命ずる。第2宮殿の爆発について布令してまいれ。その為、最高司祭の就任式を延期すると付け加えよ」
「ハハッ!」
彼も余計な詮索や発言はしない。
王の気持ちを理解すればおのずと見えてくる。
ここにきて神器の紛失やルスール達の死は、あまりにも国民に知らせるには残酷すぎるだろう。
ルーヴルはただちに指令を実行に移した。
その頃ルシャナは、城を出て前方を俯きながら歩く騎士の姿を捉えた。
「おーい、待ってくれ」
若い騎士はふと立ち止まり、振り替えると一礼をした。
皇太子の姿を確認したからだ。
「ルシャナ様…」
合流後、片膝を付き敬礼する騎士。
そんな初々しい騎士を前に、皇太子は息を切らしつつ質問した。
彼は未だ表立っての政務には参加してない。
城の中の仕組みや立場も大雑把に把握している程度だ。
騎士は誇り高く、恥をかけば自害する事もあるのは知っている。
だが最近の騎士は、その誇りが薄れ、弱体化しているとも父に聞いたことがある。
皇太子は確認したかった。
「あなたはこれからどうするのか?」
「ハッ、自分は、あのような皆の前で恥をさらしたうつけ者ゆえ、騎士の称号を捨てでも、この事件を解決しようと城を出ました」
期待していなかったルシャナは、正直びっくりしていた。
これこそが騎士の真実の姿だと…
「なんだ、いるじゃないか。父上の大嘘つきめ。」
「ハッ?」
「わたしは未熟者ゆえ、騎士についての具体的な事は伝聞や本の中でしか知らない。その通りの騎士など存在しないと父は笑っていたが ここにいるではないか。」
「あ…、ありがたきお言葉です…」
騎士は深々と敬礼をする。
ルシャナは考える間もなく結論を出した。
この辺の間の取り方は、持って生まれた才能の一つだろう。
「この事件、わたしを手伝う為に城を出てきたのだろう?」
「えっ…」
騎士は呼び戻されて、最悪解任されるのではないかと思っていた。
皇太子の有無を言わさない優しさに、感極まって涙が溢れる。
「どうした、もう腹でもすいたのか?」
無邪気に笑うその笑顔はまだ幼い。
「いえ、失礼しました。ルシャナ様の言う通りです。」
「騎士殿の名は?」
「申し送れました。「マーク=エメラルド」と申します。今年、騎士の称号を得たばかりですが、宜しくお願い致します」
「こちらこそ宜しく、マーク殿」
対等に接してくれるルシャナに感激しつつ、彼は心中で誓った。
必ずや皇太子殿下を守りきってみせると…
そして難事件を解決してみせると…
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