第16話『騎士が語る真実』

「大丈夫ですか!?」

マークの声に、騎士の体が反応した。

「うぅぅっ…、ゴホッ…」

辛そうだったが、一命は取り留めたようだ。

少しずつ顔色が良くなっていくのがわかったからだ。


「良かった…」

シータは両手を地面について、そして倒れた。

その体からは大量の汗が滝のように流れ落ちている。


「シータ。これを飲みこんで…」

リスネットが急いで体力回復の薬をシータの口に流し込んだ。

効き目は薄いが緊急時には欠かせないアイテムだ。


体力や魔力回復アイテムは、地域によって種類が異なる。

ジイールでは液体だが、これは効果のある薬草を飲みやすいように液体化させている。

しかし、原薬である薬草よりは効果が落ちてしまう。

その欠点とトレードオフで、持ち運びやすさと長旅を考慮した日持ちを優先させた結果、液体化しているのだった。


シータは倒れた体を持ち上げなんとか座り込んむ。

「ありがとうございます、シータ殿」

マークが深々と頭を下げた。

彼女はニコッと微笑むのが精一杯だった。


「ありがとう」

コオチャはシータの前に片膝を付き握手を求めてきた。

彼女はなんとか手を上げるとしっかりと手を握り返した。


そしてシータは、微笑もうとして泣いていた。

「コオチャ…、ありがとう…」

そう言うと疲れも手伝ってコオチャの胸の中で泣いていた。

「シータ。もう少しの辛抱だよ」

そう言われたシータだが、何の事だかわからない。


その不思議そうな顔をする彼女に対してコオチャは優しく微笑んだ。

「だって、騎士の話を聞けば真実がわかるじゃないか」

「!」

「その真実を城へ伝えるんだ」

シータは泣きながら何度も頷いた。

彼女の目的のためにコオチャは背中を押してくれたのだ。

彼の優しさにその場にいた誰もが胸を打たれた。が、ルシャナだけは面白くなかった。


騎士は少しずつ回復し、意識も徐々にだがハッキリしてきていた。

その間で皆の意見をまとめ、代表してフィスナーが騎士に問いただすことになる。

「ワシはアルシャン団長のフィスナーだ。王より依頼がありここにきた。いくつか質問したいのだがよろしいか?」

やはり職業柄、会話術にも長けている団長は、日常的なことでも頼りになる。


騎士は弱々しくも頷いた。

目だけが鋭い目をしている。

「まず、ここで何が起きたのか?」

「………、私ども騎士団は、ルスール殿の最高司祭就任式までの警備を任されていた。第二宮殿には、就任式に使う為の高価な道具が次々と運ばれてくるからだ」

皆、神妙な顔つきで騎士の話を聞いている。


「そして、あの雨と風の酷い夜、事件は起きた」

「わたしは夜勤の為、倉庫の前で警備に当たっていた。その時騒ぐ声が神殿入り口より聞こえたので近づいた」

「するとそこにはルスール様、マキ様、ラジュク様が口論になっているようでした」

「わたしは3人のあまりの迫力に近づく事が出来ず、物陰より見守っていました」

「すると、ラジュク様が懐よりハッピネス・スティックを持ち出し、魔法を唱え始めたのです」


「!!!」


皆が顔を合わせた。

シータは目を潤ませながら話を聞いている。

「そして、壮絶な戦闘が行われました。わたしは2対1の状況にラジュク様が圧倒的に不利だと思いました。が、ハッピネス・スティックを振りかざした途端、大きな火炎が現れマキ様は…」

シータを気遣ってか、その先はハッキリ言わなかった。

語り掛ける騎士もシータのことは知っているようだ。


「ハッピネス・スティックはその名前に反して、まるで悪魔に無限の魔力が宿ったかのように力を発揮した」

「しかし、トールハンマーはその悪魔の力をことごとく跳ね除けました。その状況からはルスール様が有利にも見えました」

「膠着状態が続き、お互いが魔力を使いきり動きが無くなりましたが、ラジュク様が合図をするとタークエルフ達が次々と乱入してきたのです」

「形成は逆転し、ルスール様は追い詰められました。そして、最後の力を振り絞るようにダークエルフやラジュク様を自らの体を犠牲にしてひきつけ、そして大きな落雷を呼び寄せて………」

そう言い終えると騎士は大きく深呼吸をした。

誰もが言葉を発することが出来ない。


「わたし達は巻き込まれたと言えばそうなのですが、決してルスール様を怨んではいません。あのお方は、神器を守ろうと一人で戦ったのです。もしも自分が戦いに参加したとしても、あの大量のダークエルフには手も足も出なかっただろう…」

騎士は話を続けた。


「シータ様。決して悲しまないで下さい。ルスール様はそのトールハンマーに宿っております。あなたが意思を継いでくれるなら、仲間の死も無駄になりません」

「はい…」

小さく頷く。


あまりにも大きく強い母の力と心に戸惑っていた。

その傍ら、コオチャが怒り震えていた。

「これで、ラジュクが真犯人だとわかったけど、何を企んでいるんだろう。そして、何故ダークエルフ達がこの事件に関わっているんだ?」

「そうねぇ。15年前の事件の時もダークエルフが関わっていたわよね」

リスネットが鋭く突っ込んだ。

コオチャはハッとした。


「まさか、その時もラジュクが関わっていたのかもしれない」

しかしフィスナーが警告した。

「焦るなよコオチャ。結論づけるには早い。」

「わかっているよ…」


しかし、コオチャは確信した。

自分の育った場所だからこそ、自分のみが知りうる証拠がある。

しかし、今は語るべきではないと判断した。

騎士はもう一息ついた。

自らの役目を終えたかのように深い眠りについた。


今回の事件の真相を聞いたコオチャ達は、騎士の回復を待ちつつ今後の行動について皆で話し合っている。

「ラジュクを討つべきだ。その為には騎士殿を城へ連れて行くんだ」

コオチャの発言に皆がうなずく。

しかしルシャナが抵抗した。


「騎士殿を連れて行くのは賛成だ。その後については王の判断を待つべきだ」

この意見もなるほどと言える。

ここに集まっているのはリスネットを除き王の依頼が関連して集まっているからだ。


犯人がわかったからと言って、討伐するのは筋違いと言われてもおかしくはない。

「しかし、ラジュクはハッピネス・スティックを持っているんだろ?」

フィスナーがピンッときた。

「なるほどなぁ。ならば討つ方向の方が良いかもしれん」


リスネットも賛成した。

「目的があって盗んだのだろうから、その前に阻止するべきかもね。手は早く打ったほうがいいよ」

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