第15話『治癒』
突然の訪問者に対して、フィスナーが最初に答えた。
「これはルシャナ様。お久しぶりです。王からの依頼でここに調査できております」
「団長殿が来てくれたのなら百人力だ。よろしく」
そして、ルシャナは隣のエル・ナイトを見ながら、
「彼はジィール国騎士団員のマークだ。わたしの護衛で来ている」
フィスナーは目を細めた。
「護衛は一人で?」
あえて探った。
次々と来る城からの使者達は一様に訳ありに感じたからだ。
ルシャナは不機嫌そうな顔をしている。
確かに王子の護衛ともなれば騎士団の1小隊いてもおかしくない。
更に言うなら、エル・ナイトしかいないのも不自然だ。
通常ならば司祭や魔法使い、緊急時ならば宮廷魔術師のテール様がいてもおかしくない。
皇太子とは、それほどの扱いを受けても不思議ではない。
「そうだ。今回はいろいろあってな」
そう、吐き捨てるようにルシャナは答える。
誰もが無駄な詮索はしなかった。
フィスナーだけが微妙なニュアンスを見逃さなかったようだ。
気まずい中、シータを見つけると話題を変えてきた。
「シータ殿、王からの伝言です」
シータは一歩後退した。そして軽く会釈する。
「王はルスール殿を信用していると言った。そして、彼女の血を継ぐそなたに城に帰ってきてほしいとの事だ。戻ってはもらえぬか?」
その問いに答えたのは、以外にもコオチャだった。
「城に戻っちゃ、駄目だよ」
これにはルシャナが腹を立てた。
「そなたには聞いておらぬ。コオチャ殿」
ルシャナは王とコオチャとの関係を聞き知っていたが、日頃から突如現れた新たな王位継承者かもしれない彼に不満を抱いていた。
王都での評判はうなぎ上りだから、正直なところくやしい。
話題が出るたびに張り合っているのが現状だ。
しかしコオチャはそんなルシャナのつまらない意地を見据えるかのように無視した。
「自分で確かめたいと言ってたじゃん。だったら残って僕らと納得がいくまでやらなきゃ」
シータは驚きつつも彼の意見に頷いた。
コオチャは微妙な立場だが唯一ルシャナに意見が言える。
アンスラックス王が探していた息子の可能性が残されているからだ。
もしもそうであれば、ルシャナの兄にあたり、第一後継者ということになる。
「ごめんなさいルシャナ様。コオチャが私の気持ちを代弁してくれました。王の命令を無視するわけではありません。どうかご理解ください」
王子は頭ではわかっていてもプライドが拒否した。
「おい、コオチャ!わたしを侮辱する…」
「シッ!!!」
突如コオチャはルシャナの話を遮った。
何かに構えるように腰を落とし 耳をすましている。
「おい!聞いているのか!!」
ルシャナは怒りで爆発寸前だったが、コオチャは相手にしていない。
「何か聞こえるぞ」
「うむ。うめき声のようだな」
フィスナーも気付いた。ルシャナを除いた全員が耳に集中する。
その中、騎士のマークが素早く反応した。
「鎧のこすれる音も聞こえるぞ」
マークの視線の先に真っ先にコオチャが飛びついた。
彼の勘とも一致したのだろう。
向かった先の瓦礫の下から手の一部分を見つけた。
確信した!
「はっ…早く!まだ息がある!!」
皆が駆けつけ、瓦礫を慎重に少しずつよけていく。
エル・ナイトの鎧の一部分が見えマークが慌てた。
「大丈夫ですか!騎士団のマークです。もう少しですからがんばってください!」
励ましの言葉をかける。
その言葉に皆の手にも力が入る。
上の方は細かいものが多かったが粗方片付けると、大きい壁同士が、下敷きになっている騎士の左右より重なり合うようにして微妙な力関係で崩れないでいた。
ほんの少しの振動でも崩れ落ちる可能性がありそうだ。
しかしフィスナーは思いきって騎士を一気に引っ張り出す。
救出した騎士は、息こそあるが致命傷を受けている。
一刻も早く治療を受ける必要があった。
足は閉じ込められる前にダメージを受けていたのか出血量も多く、足の色自体も変色している。
鎧はどの部分も原型を留めていない。
「大丈夫ですか、わたしはマークです。わかりますか?」
必死に語り掛ける。
「シータ、回復魔法は使えるのかい?」
コオチャが尋ねた。
彼女は自信無さげにうつむいた。
自分の手に負える治療ではないのはわかっていた。
「今はシータしかこの騎士を助ける事が出来ない。やってもらえぬか…」
フィスナーも今はやってみる価値はあると判断した。
シータは緊張のあまり少し震えている。
まだ神官にすらなってない自分に何が出来るか問いかけた。
(まだ、何も教わってないのよ…。出来るわけがない…)
「よさないか、団長、コオチャ。」
ルシャナがたしなめる。
しかし今度はコオチャが腹を立てた。
「何を言ってるんだ!傷ついた人がいる。そして助けられるかもしれない人がいる。挑戦して何故悪い!」
シータはハッとした。
「博愛…」
コオチャが言った事はルスールの精神そのものだ。
シータは何も言わず素早く行動に移した。
トールハンマーを自分と傷ついた騎士の間に勢い良く突き刺す。
ザンッ!
そしてハンマーを右手で握り締め、左手で騎士の胸に手を当てた。
「わたしに力を貸して…」
誰もが期待するほど、周りの空気の流れが変わる。
彼女の左手がぼんやり輝き始めた。
ここまでは見よう見真似である。
どう集中し、どうやって精神力を高めたらいいか解らない。
(魔力はどこにあるのだろう…?)
騎士の様子に変化は無い。
奇跡的にも精神力は十分なほどに高まって問題ないようだが、魔力が追いついていないようだ。
(お母さん…)
声にならない。が、必死に祈った。
沢山の母との思い出が頭をよぎっていく…
彼女の体からはみるみる体力が無くなっていくのが、傍からも理解できた。
汗がいたる所から吹き出している。
完全に空回りしていた。
初級者にありがちな失敗に陥っているのは誰の目にも理解できてしまった。
このままではまずいと感じたリスネットが、シータに魔力を注ごうと肩に手を近づけたがすぐに引っ込めた。
(心から救いたいと思えば、誰でも出来るのよ…)
その直後トールハンマーが光だし、その光はシータと騎士をも包み込んだ。
一瞬まぶしい閃光が周囲に広がった。
騎士は………
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