第218話『頑固な用心棒との出会い』
不意にナルは、頭を前方の商人部隊に向けた。
耳を澄ますような格好をすると、
「前方の森から、沢山の足音が聞こえてきます!」
仲間に緊張が走った。
「商人達に合流しよう!」
サラディックの掛け声に6人は走り出す。
「あっ!」
ナルの指差す方には、小さな多くの人影が確認出来た。
視力・聴力の優れたエルフ族のナルは、既に全容を把握している。
「沢山のオークやゴブリン達がこちらに向かっています!ダ、ダークエルフの姿も見えます!!」
なんと、魔族でも規模の大きな一団が、前方の商人部隊を襲撃するようだ。
それほど離れていなかったため合流すると、そのまま追い越し前方へと躍り出る。
商人部隊の陣営は、少人数の護衛しかいない。
それも剣士系のみである。
「冒険者達よ、済まぬ!」
商人部隊を率いている主から、声がかけられる。
まさかこの大通りである幹線道路で、真昼間からこれほど大規模な襲撃を受けると予測していなかったようだ。
「動ける者は武器を持て!荷物は自分達で守るのだ!!」
商人の激が飛ぶ。
彼らは小規模ならば戦闘経験があるようで、相手の規模に驚いてはいるが手馴れた様子で武器を持ち戦闘準備に入った。
護衛の剣士達10名弱とセリカ隊が合流し、前方より白昼堂々と襲撃してきた魔族達を迎え撃つ。
前衛にはサラディック、シャン、バランディが構え、その少し後にセリカ、更に後にナルとリサという隊列だ。
直ぐ様ナルの射撃が始まる。
射程距離に入ってきたオークやゴブリンの中でも、一際大きな奴に狙いを絞る。
彼らは、肉体的に強い仲間をリーダーとする傾向があるからだ。
そして恐らく指揮者である、ダークエルフが射程距離に入って来るのを待つ。
矢の本数には限りがあるからだ。
リサは、護衛も含めて攻撃補助魔法を展開する。
そしてマースやカーナの言葉を思い出しながら、影響は薄めでも広範囲にスリープ魔法をかける。
効果は高かったようで、魔法耐性の少ない彼らには大きなハンデとなった。
バタバタと倒れるオークやゴブリン達。
更に倒れた仲間に躓き派手に転ぶ者が現れ、戦う前から混乱を招く。
その後リサは、詠唱が短くルーンの簡単な呪文を選択し展開する。
青空の下、何も無いところから稲妻が一筋落ちると、地面を伝って周囲に影響を広げる。
範囲はそれほど広くないが、かなりの敵が被弾する。
「やる~」
ナルが見惚れるほどだった。
だがリサは、その後は単調な魔弾やボルト系魔法で、ピンチの所に撃ち込む程度に抑える。
魔力を温存しつつ、戦況を見極めているようだった。
いよいよ前衛同士が激しい衝突をする。
リサやナルの遠距離攻撃を受けてなお、敵の進軍は速度を変えない。
大きく出遅れたエリアもあるが、何せ数が多い。
相手の数は、80体前後と予想する。
「アアアアアアァァァァァァァァッァァ!!!」
サラディックの雄叫びと共に、近接戦闘が開始された。
長剣を振りかざし、一振りで数体ずつ斬っていく。
彼はマース達やカーナとの訓練での成果を確認するかのごとく、ひたすら長剣を振り続ける。
その隣ではシャンが、大剣を振り回す。
凄まじい一振りから繰り出される剣圧でも、数体のオークやゴブリンが吹き飛んでいった。
倒しきれなくてもナルやリサの遠距離攻撃によって、とどめをさされていく。
そんな二人は大振りが多くなり、隙が生まれやすい。
そんなリスクを、バランディが見事にカバーしていく。
彼は視野が広く、痒いところに手が届く活躍を見せていた。
セリカは戦闘の激しさに圧倒されつつも、頼りがいのある仲間の活躍に感謝しつつ、前衛を突破した数少ない敵を投げ飛ばしながら体力回復の魔法をかけていく。
だがセリカ達は徐々に焦りと不安を抱くようになる。
(敵の数が多すぎる…)
(何故こんなに沢山の魔族が…)
体力の消耗も激しく、それはセリカの回復魔法多用を誘った。
彼女は徐々に精神力の限界を感じつつある。
リサも同じで魔力の底を感じる。
(このままでは…)
敵は明らかに、物量作戦を取っている。
肝心のダークエルフは遠めには確認出来るが、ナルの射程距離にすら入ってこない。彼らの手口はいつも似ている。
自らの手を汚す事無く略奪を繰り返す。
恐らくこちらが弱って来たと判断すれば、喜び勇んで前線へ飛び込んでくるだろう。
「気持ちで負けてはいけません!」
セリカの激が飛んだ。
それを聞いた仲間達は、不安を感じつつも目の前の戦闘に集中し始める。
「あたぼうよ!!」
サラディックが更に場を盛り上げる。
そして行動にも移した。
カーナとの訓練で、未完成ながら見えてきた自分なりの戦い方を実戦していく。
ところどころ回転しながら振り抜く。
相手が力押しのオークやゴブリンとあって、小細工は仕掛けない。
だが隙の無い連続攻撃は強力な台風のごとく、彼が通った後には何も残らない。
そんなサラディックの奮闘にシャンが何かを感じ取る。
(そうか!!)
彼は得意の剣圧による攻撃を、縦に剣を振ることにより起こしていた。
それを横に振りぬけば、更に広範囲に影響を及ぼせるのではないかと思った。
直ぐに試してみると、なるほど効果は大きかったが、その分隙も多くなる。
開いた上体は、敵を誘い込むには十分過ぎる。
そんな状況が視界に映ると、シャンはカーナからの助言を思い出した。
力技をカバーし隙を減らすという意味を、今更ながら知る。
が、体が自然と反応した。
彼は振りぬいたその大剣を、サラディックのように一回転させ迎え撃った。
見事にヒットすると、敵は安易に近寄らなくなる。
シャンはどちらかというと控えめな性格で、余計な事を喋らないため目立たない方だが、いざ戦闘となるとサラディックと並び活躍をしていた。
しかし、現時点でも敵は50体をくだらないだろう。
ようやくダークエルフが、しっかりと確認出来るようになっただけだ。
奴らも移動を繰り返し、正確な数を把握させないようにしているようだ。
ダークエルフ自体が何人いるかは不明だ。
クラッ…
セリカが目眩を起こし、肩膝を付く。
汗も尋常ではない量を流していた。
「セリカ!!」
リサが近づくと、見た目以上に苦しそうだ。
こんなになるまで立っていた彼女の精神力にも驚きだ。
「今は少しでも休んで…。ナル!援護を頼むわ!」
「はい!!」
後衛の女性陣は、お互い近づきつつセリカをカバーする。
遠距離攻撃は主にナルが担当し、自分達を襲ってくる敵をリサが仕留めた。
だがリサも体に痺れを覚える。
(もう少し…、もう少し踏ん張るのよ…)
だが、膝がガクガクッとすると、敵も一斉に襲い掛かってくる。
ゴゴゴゴォォォォォォォ!!!!!
突如地面が揺れ出す。
敵は足が止まり、倒れないよう踏ん張ろうとする。
そこへ容赦無くボルト系が打ち込まれてくる。
その数は流星のようであり、一発で仕留められなくても二発、三発と襲い掛かってくる。
後衛を襲ってきた敵が一掃されたかと思うと、天空より人の頭ほどの隕石が降り注いできた。
ドコドコドコドコ………
サラディック達前衛の目の前では隕石の雨が振り、次々と敵は倒れていった。
それを見たダークエルフは、素早く暗黒の森の方へ退却していく。
残った残党を倒しきると、仲間はセリカの元へ駆け寄った。
彼女は高熱も出しており、急ぎ休息が必要だった。
商人部隊の主に頼み、空いている荷駄で休ませてもらった。
リサはセリカが一段落すると、自分の背後より意とも簡単に中級魔法を展開させ助けてくれた人を見た。
彼は七分ほどの丈のローブを纏い、武器は護身用の短剣がチラッと見える。
「ありがとうございました!」
深々と頭を下げ、リーダーであるセリカに変わってお礼を言う。
「礼には及ばんよ。危なかったな。死人が出なくてなによりだ」
親しげに話しかけてきた青年は、何事も無かったかのように笑顔を見せた。
その影で膨大な魔力が潜むのをリサは感じ取る。
「リーダーのセリカが後でお礼をしたいと…。お名前を聞いてもよろしいですか?」
リサは丁重に尋ねる。
彼はちょっと空を見たが、直ぐに向き直ると「俺はヨシカだ」と短く答える。
「ヨシカ…って、あのヨシカ様!?」
「そういう事かもな」
名前を聞くまでは分からないほど、見た目は普通の魔術師である。
あの竜戦士の一人、用心棒のヨシカであった。
カーナに続き二人目の竜戦士に出会うとは思っておらず、リサ自体驚きのあまり声が出なくなる。
「リーダーが回復したら改めてきな」
ヨシカの言葉に我に帰ると「あ、ありがとうございます」というのが精一杯だった。
その後は商人部隊の主とも会話を交わし、どうやらこの部隊の護衛としてジイール国王都リクレクルまで一緒に行くことになったようだ。
どうやら商人は、さっきのダークエルフが仕返しに来るのではないかと警戒していた。
リサ達にも護衛の依頼があり、基本的には承諾だがリーダーと相談したい旨を伝える。
それでも商人は心強かったようで、さきほどの戦闘での腕前を見込んでいるようだった。
リサは事のあらましを仲間に伝えると、同じように驚く。
「た…、確かにあの魔法は凄かったもんな」
サラディックが興奮気味に話をする。
リサはマースと共に憧れである、ヨシカにまで会えた事が嬉しかった。
「ボルト系の魔法だって、流星のようだったわ…」
「見た目は普通だが、ただならぬ気配だ」
バランディも感想を述べた。盗賊ならではの観察だ。
「マースとはまた違うタイプの魔術師だな。カーナが話していた時は大袈裟だと思っていたが、聞くのと見るのとでは大違いだ」
シャンも感想を述べる。
ナルも小刻みに頷く。
「それと護衛の件は受けちまってもいいかもな。どのみち行き先も同じだし、ヨシカ殿も一緒なら心強い」
サラディックの発言に皆は頷いた。
一応セリカが起きてから話を通すことに決め、先ほどの戦闘での反省会を行う。
ヨシカはそんなセリカ隊を見て、若かりし頃の自分を思い出していた。
若いパーティは初々しく行動力があり、見ているだけで心が躍る。
そんな気持ちを忘れないようにと、振り返る時も彼にはあった。
戦闘による被害は意外と大きく、車輪が壊れた荷駄の修復に時間を取られ、本来ならば二つの塔まで行ける予定が狂ってしまった。
結局森に近づくのは危険だというヨシカの警告通り、少し進んだ場所で野営することに決めた。
その頃にはセリカも目を覚まし、魔法を使う事は出来ないが通常生活は支障がないほど回復していた。
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