第17話『雷神剣』

シータが不安を募らせていた。

「父や母が勝てない相手に、わたし達だけでどうやって…」

「違うよシータ。だからと言ってこのまま見逃していたら、さらに状況は不利になる可能性があるよ」

「なぜ?」

「ダークエルフが関わっているからさ。だったら今、城に監禁されているうちにやるんだ。問答無用でね」

「そうか!」


コオチャの答えに納得したようである。

確かにラジュクは城に監禁されているのである。

しかも見張っているのはテール様や王なのだ。


(今がチャンス!)


これにはルシャナも納得をするしかなかった。

騎士が証言できるのならば説明は後でも良い。

ルシャナは父が、よい結果をするためならば少々の無礼を笑いのけるのを誰よりも解っていた。


「よし。騎士殿もだいぶ回復してきたようだし、城へ戻ろう」

ルシャナが立上る。

「残念ながら今日は無理です」

フィスナーが直ぐにたしなめた。


「もうすぐ日が暮れてしまいます。ダークエルフが荷担しているのがわかっている以上、夜に行動するのは危険過ぎます。明日朝一番にしましょう」

「うむ、そうか。では、そうしよう。今日は皆体を休めるように。見張りをたてよう」

最後までプライドを捨てきれないルシャナだったが、自分の意見より良い意見を素早く採用するのは父譲りなのかもしれない。

人の話を聞かない王は自滅する。


夜は交代で見張りをする事になった。

最初はリスネットとシータ。

次はルシャナとマーク。

最後にコオチャとフィスナーと決まった。

日が昇る前がもっとも危険だからだ。


シータとルシャナ達がやってきた方角の、外壁が唯一残っている所をキャンプ地にした。

これで背後はほぼ守られている。

そして、それぞれの思いを胸に眠れない夜を迎えた。


見張りはコオチャとフィスナーの番になっていた。

実は二人で時間を操作し、深夜0時には皆を寝かせていた。

誰もが馴れない事が続き、夕方には疲労の色を隠せないでいたからだ。


「今日はいろいろあったなぁ。」

フィスナーが黄昏ていた。

めずらしく辛気臭い言葉にコオチャが笑う。

「そりゃぁ いろいろあったけど、前を向かなきゃ負けちゃうよ」

「シータは頑張れるかのぉ…」

「どっちがいいかなんて決められないけど、両親の顔や声や記憶があるもん。大丈夫だよ。僕は無いもん…、なんにも」

今度はめずらしくコオチャが下を向いた。


「母にも会えるかもよ。」

「?」

「王が言っていたじゃないか。雷神剣があるってよぉ。おまえにしか使えないって、一子相伝だってな」

「それとこれとは関係無いじゃん」


「昼間、騎士殿がシータにいっただろう。ハンマーに宿ってるって。初めての実戦で いきなり回復魔法を使えた力を見ただろう、コオチャ」

「そんなの建前じゃないか。道具に心が宿るなんて…」


「おまえの良いところでもあり、悪いところでもあるな。その現実的な考え方は。なんにせよ、ワシも探すからな、雷神剣」

「いや、いいよ」

「なにをひねくれてるんだ?」

「違うよ。ある場所を知ってるんだ」


「なにぃ!」

フィスナーはあまりの驚きに立上った。

こんな時に冗談を言う奴ではないのを知っている。


「どこにあるんだ、それは!」

「ダークエルフの里…」

「なんだって、それじゃぁ…」

「これで、15年前に起きたと言う事件の真相がだいたいわかったでしょ?」

「今回の事件と15年前の事件…。繋がっているな、間違い無く。しかし、あのラジュクが首班ではないな。奴は本気で最高司祭になろうとしていたからな」

「そう思うよ…」


コオチャはしばらく焚き火を見つめていた。

瞳の中で燃え盛る炎とは別に、いつになく元気を無くしていた。

一時の静寂…

コオチャは意を決したかのように顔を上げた。


「僕がダークエルフの里に連れ去られた真の目的は、雷神剣の使い手として、西の都を転覆させる力を手に入れる為なんだ」

「なんだって………」

フィスナーはあまりにスケールの大きい野望に、背筋が凍る思いがした。

コオチャは話を続ける。


「雷神剣はその血を元に力を発揮するんだ。母さんでは逆に太刀打ちできないから、生まれたばかりの僕をさらったんだ。誰が城で荷担したかはわからない。でも…、僕は、その野望を知ったからわざと使えない振りをしたんだ」


「そしたら、あいつらはおまえの当てが外れて虐待を続けたと言うのか…」

「そうさ、『見当違いだった』って毎日言われ殴られたよ。雷神剣はその血筋を守る為に呪いがかけられている。契約者以外の者が鞘から剣を抜こうとすると、即、死んじゃう。でも僕は、抜けれそうだったんだ。だからばれないようにその日からずーと…」


コオチャの炎を見ている瞳からは涙が流れていた。

母との接点でありながら、長く苦しい日々を送った幼少時代…

しかも、物心つく前からその悲劇は運命付けられていたのだ。


「そうだったのか…。今回の事件が片付いたら奪還しに行こうぜ。おまえのけじめを取りに行くんだ」

「うん…」

涙を拭きながら答える。


その時思わぬ人が声をかけてきた。

「すまない。盗み聞きするつもりは無かったのだが、声をかけることも出来なかった」

それは昼間救出した騎士だった。

彼もコオチャのたどった悲劇に涙していた。

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