第18話『ダークエルフ』

「貴方様をどこかで見かけたと思ったら、ニッキー様と王の子供、つまり皇太子様ではないですか」

「たぶん、間違い無いと思う…」

「いや、その瞳…。真実を見極めるその瞳は、誰のものでもない、ニッキー様そのものの目です。わたくしは確信しております。今まで、よく耐え忍びました…」


雷神剣の恐ろしさは、六第精霊王の中でも『どちらが魔王なのか、判断がつかないほど…』という表現で伝えられているほどだ。

もし、その剣の力で国を滅ぼそうと思えば、冗談には聞こえない。


「今日は助けられ、しかもニッキー様の形見も拝見させてもらい、わたしは幸せ者です」

そう言うと、まだ傷の完治しない体をなんとか持ち上げ礼をする。


「まだ動いちゃ駄目だ。そんな体で無理をされても嬉しくない」

「フフフッ、その言葉、同じような事をニッキー様に言われた事があります」

騎士は嬉しそうだった。


ルスールやマキの死は、国民にとっても国にとっても大きな支えを失った事になるが、その代償に値する人物が存在している事に、つい笑みがこぼれた。

そして騎士は胸に装備している部分の鎧の裏から古い杖を取り出した。

「これは私が気付いた時には目の前にあった杖です。第2宮殿の倉庫には見当たらなかったものですが、もしかして…」

フィスナーは目を疑った。

幸福の杖=ハッピネス・スティックなのである。


「そりゃぁ………」

形勢は逆転した。

ラジュクにどんな野望があろうともこの杖がこちらにある限り達成される事は無い。

しかし、コオチャは慌てた。


「は…、早くしまうんだ!」

騎士とフィスナーは顔を合わせた。

人影どころか気配すら感じない。

「二人はダークエルフ達の力を知らないんだ。とにかく早く隠してくれ」


騎士はコオチャの真顔におされ、何がなんだかわからないうちに杖を懐に隠した。

あたりを見渡すが、特に異常は無い。

しかし、コオチャは両腰に吊り下げたレイピアを抜いた。

二人の顔に緊張が走る。


「遅かったかもしれない」

そう言うと暗闇を睨みつけた。

そして突然ジャンプした。


ヒュッン

矢が飛び去った。

「フィスナー!皆を起こしてくれ!!」


そう言うと闇に向かって走っていった。

すぐに金属のぶつかり合う音が闇の向こうより聞こえてきた。

フィスナーは形勢が良くなって油断した事を後悔した。

しかし今はそんな時間は無い。

すぐに気持ちを切り替え寝ていた者を起こし始めた。


「敵襲だ!!!」

リスネットやマークがすぐに反応した。

残りの二人も騒ぎに目を覚ます。

焚き火に向かって矢が数本突き刺さる。

火の粉が舞い上がる。


火の粉は空中で舞いつつ円を書くように踊り始め、いつしかリスネットの周りに集まってきた。

小さな火の粉は膨らみ拳ぐらいの大きさになっていく。

リスネットは闇を見つめ、一点に集中していた。


突然の出来事と寝起きの為か、他の者はこの状況を夢の中なのだとさえ感じた。

右手をゆっくり上げ、不意に前に突き出した。

火の玉は赤い光の尾を引きながら闇の中へ飛んでいく。

火の精霊であるサラマンダーに攻撃させたのだ。


普通の精霊使いならば2~3個飛ばせれば上出来だが、彼女はその10倍の攻撃を意とも簡単にやってのける。

その火が消えて数秒後に、木から何かが落ちた。

しかし、次の瞬間、目の前にダークエルフが現れた。


しかも壁の裏側から現れてきた。

彼らにはこの壁さえも意味をなさなかった。

リスネットは準備していた光の精霊を諦め剣を抜く。

銀製である。


すぐさまマークが攻撃態勢に入り突撃する。

傷付けることは出来なかったが体制を整えられた。

そこへ、コオチャが戻ってきた。

彼の動きもダークエルフに負けていない。


「あと、残りは2人だ。フィスナー、手を貸してほしい」

「了解だ。しかし、暗すぎる」

「もう少し待って、光の精霊を打ち上げるから」

リスネットが再び精霊を集めていた。


「シータは騎士殿の護衛に当たってくれ。ルシャナ様とマーク殿はシータとリスネットの手助けをしてほしい」

「よし!」

「わかりました!」


コオチャは瞬時に指示を出し、まず今回の重要参考人である騎士の安全を確保した。

騎士を守るシータ。

シータを守りつつ魔法攻撃するリスネット。

それを守るルシャナとマーク。

3段構えだ。


一方、コオチャとフィスナーは激しい肉弾戦を強いられていた。

ダークエルフ達がもっとも得意とする夜であり、木々での戦いに苦戦を強いられる。

最初はたかが人間と油断したのか、コオチャが2人を沈めた。

リスネットが精霊で攻撃したあたりから消耗戦に持ちこんできていた。


しかしここで転機が訪れる。

リスネットが光の精霊をあつめ、巨大な光の玉を打ち上げたのだ。

周囲は昼間のような明るさになり、フィスナーは得意の弓で攻撃し始めた。


無造作に打ち尽くす。

矢が無くなったのを見るとダークエルフは細身の剣を打ちこんでくる。

しかし、懐からダガーを瞬時に3本投げ放つ。1本目を避けても、避けた所に2本目が、更に避けてもそこに3本目のダガーが、先を読んでいるかのように飛んできた。


3本目が心臓に突き刺さると、フィスナーの目の前で倒れた。

隠しておいた矢を取り出し、コオチャと剣を交えているダークエルフに向けて放つ。

思わぬ方向から攻撃を受け、ダークエルフはギリギリで避けるのが精一杯だった。


それを見逃さなかった。

コオチャはレイピアで左右より挟み込むようになぎ払う。

最後の一人も倒れた。


それでもコオチャは攻撃態勢のまましばらく森の中を見渡し警戒する。

数秒後深呼吸し、皆の所に戻ってきた。

フィスナーもゆっくりと歩み寄ってきた。

リスネットが一番の笑顔で迎えた。


しかし…

そこへ誰もが驚愕し、想像できなかった人物が城の方角から現れた。

ラジュクである。

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