第6章『反乱者の野望』
第19話『激戦』
ラジュクはゆっくりと確実に、こちらに向かってきている。
攻撃態勢こそ取らないが、手にしている武器は放さない。
緊張が走る。
「やぁ、諸君。お勤めご苦労様です」
ラジュクはごく自然に話し掛けてきた。
声も出ないルシャナやコオチャに代わってリスネットが答える。
「お久しぶりです、ラジュク様」
「おぉ、北の都のリスネット殿ではないか。これは これはお疲れ様です」
拍子抜けしそうな会話が続いた。
まるで城内で交わされる挨拶のようだった。
その緊張に耐え切らなくなってルシャナが切りこんだ。
「ラジュク!どうしてここにいる!」
全員が攻撃態勢を取る。
ラジュクの体からは目に見えるほどの魔力が高まっていく。
「もぅ、隠す事も無いでしょう。早く幸福の杖を差し出した方が賢明なのではないかな?」
彼の不敵な笑みが、皆の緊張を高めた。
コオチャはその笑みの向こうにダークエルフの影を確認した。
「さっきの奴らが仲間を呼んだんだ。気を付けろ!」
フィスナーが眉を潜める。
「てめぇ。ワシらの腕試しをさせたな…」
「なんだって!?」
マークが驚く。
そう言いつつも彼の徹底的な勝負に対する執念と強さを感じた。
「フフッ…」
ラジュクは何も言わず右手を上げる。
塀の向こうから黒い影がいくつも襲ってきた。
「てめぇら!」
コオチャは見覚えがあった。
襲ってきたダークエルフ達は里の過激派達であり、彼を毎日虐待していた張本人達なのだ。
「ハァーハッハッハッ。ラジュク様が片付けたいのがいると聞いたから来てみれば、おまえか…コオチャ!」
「もう、あの時の僕ではない!」
激しい火花が散る。
細身の剣と魔力を帯びたレイピアがこすれ合う。
「クククッ。ほざけ!」
コオチャから見て左上から突如彼に向かって矢が数本飛んできた。
一瞬だけ力を抜き、相手がバランスを崩すと更に後方へ避ける。
今立っていた場所に矢が刺さる。
避けた場所に2人のダークエルフが剣を突き付ける。
両方の相手を2本のレイピアで巧みに交わしていく。
そこへフィスナーが矢を飛ばす。
手前のダークエルフが避けるが、奥にいたもう一人のダークエルフに矢が突き刺さった。
けたたましい悲鳴が響く。
それを合図に各所で戦闘が開始されていった。
ダークエルフ達は次ぎに、ルシャナやシータを狙った。
明らかに弱そうな者がターゲットだとわかる。
「ルシャナ様!」
マークが間に入り、騎士団愛用のグレートソードをかざす。
鍛え上げられた肉体は重いはずの剣を木の葉を払うように振り回す。
矢が飛んでくるが、非力なエルフ族のはなつ矢は、魔力を帯びない限り市販最強のプレートメールを貫通させる事は難しい。
ルシャナは初めての実戦に戸惑いと恐怖と焦りを感じていた。
昨日のシータの活躍も彼の目には奇跡と映っている。
しかし、何も出来ないでいる自分に苛立ちを同時に感じる。
(いっそう、エクスカリバーと契約を結んでしまうか…)
だが、父の顔が浮かんだ。
「………負けない!」
マークに集るダークエルフに駆け寄り剣を振るう。
怯えていたはずのルシャナに精気がみなぎる。
それは父アンスラックス譲りの誰をも近づけない威圧感を、この年にしてすでに持っていた。
それに付け加えて、エクスカリバーの存在が敵を退けた。
なぜか微弱だが光を帯びている。
(行ける!!!)
ルシャナは戦いの輪に飛びこんだ。
リスネットはラジュクと最初に会話したこともあって、無言で対峙している。
ジイールの最終兵器とまで詠われたラジュクと、北の都の精霊王とまで言われるシャーマンキング=リスネット。
2人の魔力は極限まで高められ、どちらも動けないでいた。
先に動いた方がすぐさま対応策をとられ、負けるのがお互いに解っている。
しかし、思わぬ人物がこの均衡を破った。
ラジュクの弟子、メル=フェレスである。
彼女はシータと幼馴染だが一つ年上なのですでに神官として修行をラジュクの元でしていた。
「メル!どうしてあなたがここに…」
メルはうつむいていた。
友の問いにどう答えたら良いか迷っているようだった。
「わたしはラジュク様を信じているの。だから…」
「なんてことを…」
シータは言葉を失った。
しかしメルは、ハンマー系の初心者用として愛用される、クォータースタッフを振りかざし、シータに向かって打ちこんできた。
「!!」
シータは自分の手足のように動かせるトールハンマーで弾きながら防ぐ。
「メル!お願い、気付いて!」
彼女にはシータのメッセージは届かない。
メルは必死で攻撃を続ける。
「ラジュク様は、私を本当の子供のように育ててくれた…」
その顔には決意がみなぎる。
並々ならぬ決意なのは直ぐに理解出来た。
しかし、シータは許せなかった。
「その人は、私の父や母を殺したのよ!!!」
「違う!!ラジュク様はそんな事しない!!!」
矛盾した会話。
お互いまったく違うものを見ているようだ。
しかし、シータには本気で攻撃できるはずがなかった。
だまされている友を…
単調ながら続けられた攻防だったが、いつしかシータは攻撃するのを止めた。
ハンマーを突き刺すと、両手を広げた。
「お願い…」
その瞳からは涙がこぼれていた。
メルはスタッフを振り上げるも、振り下ろす事は出来ない。
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