第20話『黒幕の目的』
「どうして、そんな瞳で見るの?私は間違ってないのよ…」
「メルは間違ってないよ。ラジュクが間違っているの。お願いだから私を信じて…」
最後の方はよく聞こえなかった。
汗で
メルはその目を見つめ返す事が出来ない。
それがどうしてなのかは理解できないでいた。
しかし、彼女は手を下した。
シータの肩に重く、そして悲しみに満ちた衝撃が走る。
「ツッ………」
シータは避けなかった。
ただ必死に友の悲しみを受け入れた。
だが、メルには伝わらない。
彼女は混乱の中、何度もシータを打ちつけた。
それを見たリスネットが止めに入る。
このままでは間違い無くシータは死んでしまう。
混乱のあまり、メルはだんだん本気で打ちこんできているのだ。
「シータ!」
それを見逃さなかった。
ラジュクは素早く手のひらを合わせると呪文を唱える。
低級魔法は詠唱を必要としない。
直ぐ様リスネットにスリープの魔法が襲ってくる。
彼女は辛うじて耐えるが、足が止まる。
その間も泣きながら攻撃を続けるメル。
シータはひたすら彼女の攻撃に耐えていた。
「お願い…、気付いて…」
ラジュクは更に魔法を重ねてくる。
メルのクォータースタッフに属性を付与し、攻撃力アップが加わってしまった。
その後の一撃はシータを倒れさせるには十分だ。
リスネットはギリギリのところで、シータが地面に叩きつけられる前に飛びついた。
シータは腕の中でぐったりしている。
血を吐いていた。
「!!!」
血まみれになる腕が震える。
これだけの怒りを覚えたのは久しぶりかもしれない。
「自分のしている事が解っているの?」
メルを睨みつける。
その威圧感に武器を落とすメル。
しかしラジュクは背中より剣を抜きさり、容赦無くリスネットとシータに向かって攻撃する。
その攻撃を近場で戦闘をしていたコオチャが止める。
ガッ!
リスネットはその状況を、瞬き一つせずラジュクだけを見ていた。
「ありがとう、コオチャ。あまりの怒りに避ける事さえ忘れてしまったわ」
そう言いながら、抱きかかえていたシータをそっとおろすと、腰袋から銀の玉を取り出した。
握られる瞬間閃光が走る。
その後、誰もが手を止めた。
あのダークエルフですら動きを止めた。
いや、止めざるを得なかった。
「だ…、大地が震えている…。怒りで震えている…」
誰もが驚愕し、恐怖した。
ラジュクでさえも動きが止まってしまう。
いや、動けなかった。
「私の怒りは、大地の怒り。もう、誰も止められなくなった事を後悔しなさい!」
そう言うと手を前に勢いよく突き出す。
その手からは魔力が散布され周囲の瓦礫を一箇所に大雑把に積み上げていく。
その岩の集合体は、いつしか人の形をしていた。
「いけ!ゴーレム!悪魔を振り払え!!」
オォォォォォォッ!
ゴーレムと呼ばれた石の精霊は、雄叫びを上げラジュクに渾身の力をこめて殴りかかる。
ドゴッ!!!
ラジュクは辛うじて避けた。
見た目とは裏腹に、思った以上に攻撃が速い。
しかも、彼のいた場所は無造作にえぐれていた。
だが流石はラジュクである。
怯むことなくゴーレムに突きを繰り出す。が、剣先は綻び、まったくダメージを与える事が出来ない。
!!!
ラジュクは引くしかなかった。
メルをつれて閃光と煙と共に消える。
残るはずのダークエルフ達も何時の間にかいない。
第2宮殿跡地は静寂を取り戻した。
残された者達はシータを囲んでいた。
想像したよりもダメージが大きい。
体力回復の薬草を飲ませたが、傷には効かない。
メルに攻撃された左肩は服の上からもわかるほどに腫れ、左腕はブランと垂れ下がっている。
「どうすれば…」
ルシャナが途方に暮れている。
誰もが、どう助けてあげれば良いのか答えが出せない。
「ゴホッ…」
シータは再び血を吐いた。
「まずい…」
フィスナーはおぶって王都リクレクルまで戻るのを提案した。
しかし、間に合うかどうか…
すると、皆の視界から外れたところに突き立てられていたはずのトールハンマーが、いつのまにかシータの上空に浮遊していた。
「あっ…」
コオチャはハンマーを見つけると、皆にわかるように指を指した。
全員の注目が集まる。
ハンマーは微妙に揺れながら少しずつシータに向かって降りてきた。
そして、だんだんと光を帯びてきた。
「わたしは、ルスールです。皆さん 聞こえますか?」
突然、ハンマーから声が聞こえる。
しかも、ルスールだと名乗っている。
「はい。聞こえます、ルスール様」
リスネットだけは冷静に対応した。
精霊を扱っているだけあって、こうのような事態には慣れている様だ。
「私は、無念にもラジュクに敗れました。今は雷神様の力を借りて こうして話をする事が今回だけ許されました。どうか、最後の頼みを聞いてください…」
皆、トールハンマーに向かって一礼する。
一時の沈黙の後、突如シータの体に光がまとわりつく。
彼女の呼吸は正常に戻り、血痕も消え、腕も肩も元の姿に戻っている。
高位の回復魔法を唱えたようだ。
「娘シータには、幼くして死に別れなければならないことに非常に悲しんでいますが、これが神の与えた試練だと思って乗り越えてほしい…」
ハンマーから視線を感じる。
まるで、そこにルスールが立っているかのようだ。
「そして皆さんには伝えておかなければなりません。」
リスネットは御意の姿勢をとる。
「ラジュクの目的は、ハッピネス・スティックを使って、魔王を復活する事なのです」
あまりの衝撃的な告白に誰も声にならない。
「ま…、魔王って、アンスラックス様やテール様が倒したって言う…」
「そうです。魔王は6大精霊王達に倒されながらも魔界に戻り、いつしか復活する為にじっと時を待っていました。異次元での時間はこちらより数倍…、いや、数百倍速く流れています。魔王はほぼ復活していると想像して良いでしょう」
「………」
誰も何も声に出すことが出来なかった。
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