第97話『破壊と再生』

柔らかい海風が吹いていた。

コオチャはいつのまにか光を無くし、その場に倒れている。

あれだけの攻撃力を放っていたが、今では全身の生気を奪われ、吸い尽くされたかのように身動き一つしない。


魔王を封じ込めた時よりはマシだが、全快するにはかなりの時間を有するだろう。

シータが心配そうに彼の顔を覗き込む。

「コオチャ…」


彼はシータの呼び声に反応した。

目を何とか開く。

「行かな…、くっちゃ…」


天空にはいつのまにか、サマリアタワーから連れてきたワイバーンが旋回している。

「駄目よ!コオチャの怪我は見た目より酷いわ!」

「僕を呼んでいる、沢山の人達が…」

雷神剣を杖代わりにして立ち上がる。

そして剣を腰の後ろに装備されている鞘に収める。

ワイバーンがゆっくりと降り立ってきた。


そのワイバーンには、鞍の所にドラゴンスレイヤーが引っ掛けられている。

「最初からデスピトール一味との戦いにも行くつもりだったのね?」

シータは彼の恐るべし信念を目の当たりにする。


楽に勝てる戦いじゃないのは最初から分っていた。

最悪の場合、いや、半々の確立で敗走することも予想されていた。

それなのに勝利を信じ、その勝利の先まで考えていたなんて…


彼は雷神剣をその場で地面に突き刺すと、ワイバーンが持ってきたドラゴンスレイヤーを装備する。

これ以上の雷神剣の使用は無謀である。

それこそ剣に魂を喰われるだろう。


包帯を適当にむしり取り、コオチャとして飛び立とうとした。

「待って―――」

シータは間一髪ワイバーンに乗り込んだ。

もともと二人まで座れるように出来ている鞍が装着されている。

そして二人を乗せて空高く舞い上がっていった。


壊滅状態となった海賊達は、唯一動かすことの出来た最後の海賊船に乗り込み、荒波の中に消えていった。

海上には船腹に大きな穴の開いたのが一隻残された。


首都は、建物と言う建物は破壊され、道路だった所もまともに歩くことが出来ないほど瓦礫が散乱している。

今だ火の気が残り、各所で燃えていた。


そんな首都の上空を一匹のワイバーンが飛んでいった。

「行ってしまった…」

マルスはコオチャに一声もかけることなく次の戦場へと行かれたことに、怒りと不安を抱えていた。

そんなマルスの隣には私設傭兵団ウルフチームのリーダーがいる。


「彼は誰よりもこの国を愛しています。体が動くかぎり国を守ろうとするでしょう」

「フォッフォッフォッ、おぬし奴の事をだいぶ理解してきたのう」

いつのまにかライズが隣に立っていた。


「老体には少々厳しい戦いだったわい。そろそろ帰るぞ」

そう言ってマルスの手を引き、人ごみの中へと消えていった。

(不思議な人だ…)

シューは見えなくなるまでその老人の姿を追い求めた。


「リーダー!やったぜ!!」

タカが前線より、アラマの肩を借りながら戻ってきた。

アラマも無言ながらその表情は満足そうだ。

「よく生き残ってくれました!」


シューは感動すら覚えた。

振り返ればJやカル、そしてユーイの元気な姿もある。

こうして全員が生き残れるとは思ってもいなかった。

もちろんその中には自分の存在も含まれている。


城からは戦争終結の知らせを聞いた住民達が出てきていた。

「私達の街が無くなっている…」

「私の家が…」

無くした物は大きい。

戦争に勝利はしたものの、明日の生活への不安すら覚えるほど街の姿は寂しい。


「皆さん聞いてください!」

シューは我慢しきれずに、不安を覚える人達を前に大声を張り上げた。

「何を無くしたと言うのです!?ここにあるじゃないですか!!」

彼はそう言うなり右手を左胸に当てた。

「皆さんの心の中に、あの美しい街並みは残っています。なくなったものは、また作ればよいのです。生きているのですから―――」


住民達はリーダーの言葉に涙した。

そしてその言葉の意味を深く理解した。

人々は立ち上がると、街の再生への準備を始めた。

(また再生すればいい、なんどでも蘇るさ…)


コオチャの言葉を思い出した。彼の言葉どおり街はすぐに動き出した。

その預言者はもうすぐキルス山脈を越えようとしていた。

新たな戦場を求めて―――

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