第13章『大規模戦争の行方』
第98話『正義を司る悪魔』
ネクロマンサー…―――
地獄と呼ばれる、魔界最深部で最悪の場所には、決して消えることの無い業火が燃え盛っている。
消滅することの無い罪人の魂を、永遠に焼く為にあると言われている。
その地獄の業火には、番人がいる。
それがネクロマンサーと呼ばれる魔人である。
その魔人が召還され、下界に降り立つとは誰が予想できただろう。
精霊戦争―――
異世界に住む精霊同士が、その威信をかけて戦う。
まさに戦争である。
現在ジイール軍とデスピトール軍が行っている戦争とは、比べ物にならないほどの力と破壊がそこには存在する。
シャーマンキングと詠われるリスネットは、その恐ろしさを唯一知っている人物なのかもしれない。
その彼女が警告する。
「精霊戦争が起きれば、ジイールどころか西の都の存在すら危ないわ」
この話はすぐに宮廷魔術師テールにもたらされた。
「………」
彼はすぐに返事をしなかった。
いや、出来なかった。
だからと言って、どうすればよいのか思い浮かばない。
それよりもこの事態を回避出来るのかさえ不安になった。
決してリスネットの実力を過小評価しているわけではない。
ただ、ネクロマンサーが今までに遭遇したことの無い上位精霊なのは間違いなく、どう戦えばよいのか、どうすれば被害が最小限に食い止められるか…、そもそもネクロマンサーを撃退する方法は存在するのか、その答えはテールには導き出せなかった。
ここは、リスネットに判断を委ねるしかない。
「リスネットの見解はいかがですか?」
彼女は、まだ視界には写ってないネクロマンサーのいる方向を注視しながら、暫く無言でいた。
「こちらも彼に対抗できる精霊を召還するしかないでしょう。精霊達の戦いを人気の無い場所に移すことによって、戦いに巻き込まれないよう被害を食い止めるしか方法は無いです」
やはり、その方法以外には考えられない。
例えテールが参戦しても状況はあまり変わる事は無く、逆にジイール軍の方が戦力ダウンしてしまう。
ここは彼女に全てを託す以外には無い。
しかし、何故それほどまでの精霊が…、この戦場に…?
「対抗馬を召還するって言ったって、イフリートかぁ?」
黙って聞いていたアルシャン団長フィスナーだが、いてもたってもいられず横槍を出した。
魔王とすら互角に戦った火炎魔人イフリートである。
だからこそ名前を出した。
しかし彼女はすぐに首を横に振る。
「彼は下界…、つまりこの世界に大きな影響力を持っているわ。彼が傷つくことによってバランスが崩れ、精霊戦争よりも酷い状況を作ってしまうかもしれない」
リスネットはしばらく考えた。
自分が召還できて、尚且つ地獄の業火に対抗できる精霊…
「彼は答えてくれるかしら…」
一人いる。
が、接触した事はあるが、召喚したことはない。
彼女の呼び出しに答えてくれるかどうか自信が無かった。
目の前ではジイール軍が有利に戦いを進めていた。
テールによる魔法で、敵軍は混乱と戦意を奪われている。
実戦が初めての稲妻の騎士第6師団でさえ、面白いように前進していた。
右辺では今まさに、小高い丘を巡って要塞レスモンドの傭兵部隊が頂上を奪おうとしている。
今勝機を逃せば、戦況は一気に逆転してしまう。
迷っている暇は無かった。
「堕天使ルシフェルの化身、ディアデビルを召還します」
堕天使ルシフェル―――
天使界においてその名前を知らないものはいない。
その攻撃力は、全知全能のゼウスの直下である4人の大天使長である、ミカエル、ウリエル、ラファエル、ガブリエルを遥かに凌ぐという。
魔界との戦いには、常に先陣を切る特攻隊長。
彼の存在は天使界にとって、とてつもなく大きな存在だった。
だが、人気が上がれば上がるほど大天使長達から疎まれ、深い溝が生まれた。
彼が戦いに勝利する度に疎遠にされた。
それを面白く思わなかったのは、彼を慕う仲間達だった。
天使界は騒然となった。
4人の大天使長派とルシフェル派に分かれて小さないざこざが起き、それが大きな争いになるにはそれほど時間がかからなかった。
天使界を2分した戦いは魔界にも伝わるようになり、混乱に乗じて天使界を攻めてきた。
ルシフェルは悔やんだ。
自分の力でこの争いを止められなかったことを。
いずれ魔界が攻め込んでくることは明白だったのに…
彼は一人戦線を離脱すると、襲い来る魔界軍に孤軍奮闘した。
天使界ではそんな彼の行動を無視するかのように、争いを止めようとはしなかった。
その間にも大量の魔界の戦士が、天使界を襲わんとばかりに攻め込んでくる。
ルシフェルはひたすら戦った。
後先を考えない攻撃。
極限を超えた力。
その行動は魔界の戦士達を退くには十分だった。
しかし、彼の力を根こそぎ奪ってしまった。
そして彼は魔界軍に囚われ、拷問を受けることになる。
それにもルシフェルは耐えた。
彼は密かに力を回復し脱出する。
そして天使界に帰る事が出来た。
だが、自分の変わり果てた姿を見て驚愕することになる。
魔界の人そのものだったからだ。
天を覆わんとする美しい翼は悪魔色の翼になり、透き通るような肌は硬化し醜い色に変わり、何もかも見通すような美しい瞳は悪魔特有の黄色い石のようになっていた。
彼は仲間から攻撃を受け、魔界にも天使界にも帰る事が出来なくなった。
そんな彼は異世界の狭間に生き、天使界のピンチには度々出現し、その力をいかんなく発揮する。
彼に付いた名前はディアデビル―――
正義を司る悪魔である―――
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