終焉の果ての英雄譚

しーた

第1部『Legend of Happiness Stick』

第1話『ジイール建国史と最悪の事件』

今から遠い遠い未来…

限りの無い探究心と、幾多の新発見により、人類は英知を極めつつあった。

その結果、遺伝子を完璧に操作すると、今までとは大きく異なる、優秀な新人類を誕生させる事に成功する。


新人類達は、きっかけは偶然ながらも、新種のエネルギーを手にする。

「異世界への扉が開いた」

「精霊達との契約が結ばれた」

そう伝える新人類達の発表は嘲笑の中、淡々と行われた。

新種のエネルギーは、「魔法」と呼称された。

発表当初は、誰もがその存在を信じてはくれなかった。


しかし…

魔法は不治の病を完治させ、広大だった世界を狭くした。

そして、強大な攻撃力も獲得した。

それら全ては新人類達が独占し、旧人類達を嘲笑したのだった。


何もないところから炎をおこし、青空の下、突如稲妻を落とす。

更には異次元から、招かざる客をも引き寄せた。

過去何千年とかかって築き上げた超科学が、一瞬にして無に帰した瞬間である。

世界は混沌へと導かれた。


地球には新人類の生息のみが許され、旧人類は駆逐されていく。

同じ人間とは見なされなかったからだ。


 新人類達の無謀で強烈な力の操作に、旧人類達は立ち上がる。

新人類同士の覇権争いも始まり、旧人類達は地球、そして宇宙の存在すら危ぶんだからだ。

各地で戦争が起き、世界は更なる混沌の時代を迎える。


幾億人もの犠牲者を生み、一向に先の見えない戦いが、世代を越えて続いた。

サイバーテロ、マシーン同士の戦い、DNAレベルでの争い…


 究極の泥沼と化し、人類が滅亡しない限り戦いが収まらないと気付き始めた時、一人の旧人類によって全ての戦争が終止符を迎えたと言われる。


後に語られる「大浄化」である。

超大型魔法の暴発とも、幾兆とも言われるミサイルによる自滅か、はたまた恐竜をも滅ぼした巨大隕石の落下が起きたのだともとも伝わる。

地上の8割が荒野と化したが、そのおかげで、地球は静寂を手に入れた。

 

 それからどのくらいの時が経っただろう…

数百世紀とも言われるゆっくりと流れた時間は、地球に少しばかりの安らぎを与えた。


その恩恵に自然が蘇り、生物達も再び姿を現し進化していく。

食物連鎖が形成され、虫が鳴き、鳥が飛び、獣が走り、そして人が立つ。

「大浄化」を逃れた少数の人間の末裔だ。

各地に点在していた彼ら人間たちは、徐々に集まり、新しい社会を形成していく。


 しかし彼らは驚愕な事実をつきつけられた。

人間の形をした別の生き物「亜人」とも「デミヒューマン」とも「魔物」とも呼ばれる存在。


亜人達は、有効的な人種から無差別に攻撃する人種まで存在し、腕力は見劣りするが、知能が発達した人種、その逆の人種、他の動物的な特徴を取り入れた人種と、種類は様々だ。

人を食らう人種も発見されることになる。


まったく新しい生命連鎖に人は猛然と立ち向かった。

そう、旧時代に全世界を掌握したように…

再び長い長い戦いが始まった…

そして―――


 人は知恵と勇気と力で生物界の頂点に近づいていく。

その原動力になったのは、皮肉にも人をここまで貶めた「魔法」の力と、石ころからはじまる「武器」の歴史。


―剣と魔法の世界―


戦い、勝利することが誇りとされるそんな世界に、一人の少年が誕生する。

彼こそがこの伝承の中心人物である。

 

世界には、いくつも点在する村、町、国や都市が存在する。

「大浄化」が起きた爆心地とされる場所から見て、東西南北に存在する大都市がある。

それぞれ東の都、南の都、北の都そして西の都という。

その西の都に少年は降臨した。


西の都に存在する「ジイール国」

そこは自由と平和を重んじる国。

その自由と平和を問う戦いが、日々行われている場所。


近い昔、この辺りは独立国家が乱立し、いくつもの戦いが同時におきる不安定な場所だった。

しかし、大きな二つの山脈に囲まれた一つの国が、自由と平和を掲げ、賛同する国を取り込み、抵抗する国を滅ぼし拡張してきた。

今のジイール国の前身、サマリア国である。


世界的な動きからこの場所を「西の都」と定める時、最後の戦いに勝利し今のジイール国が誕生した。


 西の都は、ほぼ正六角形をしている。

六角形の各頂点より中心に線を引くと、六つのエリアが出来る。

その隣り合った二つのエリアを1国が統治し、この都は3国からなる連立統治された場所となっている。


『北に位置するゼムビエス国、東南に位置するデファー国、西南に位置するジイール国、そして中央山岳地帯を聖域バルディエットと呼ぶ』

西の都を表す時に、よく使用される謳い文句だ。


この伝承の舞台となるジイール国は、唯一海に直接面しているが、目の前の海は荒れ狂っており、海路を切り開く為には、新たなる魔法を完成させるか、新しい技術を盛り込んだ船を作るか、沈没を覚悟しながら強行突破する必要がある。


だが、この荒れ狂った海のお陰で、山脈に囲まれた旧サマリア国は『天然の要塞』という地の利を生かし、ジイールという大国の建国を成し遂げた。


二つの山脈の東側は隣国デファー国と接しているが、現在では闇属性種族が多数生息する『暗黒の森』が広がっている。

そのため道が限られ、デファー国側からも、ジイール国側からも、隣国へ攻め入る為の大量の軍隊を投入しづらい状況なのも幸いした。


そもそも旧サマリア国は、デファー国に対して友好な関係の維持に努め、不可侵条約を結ぶことが出来たからこそ、背後を気にせず統一に向けて戦うことも出来たのであった。


そんなジイール国の気候は温暖で、時折海から吹いてくる風が新鮮な空気を運んでくる。

春夏秋冬が存在するものの、冬は北方のゼムビエス国よりはかなり温暖で、一年を通じて暖かく穏やかな印象がある地域だ。


山脈以外は平坦な地が続き、それは畑や森や牧場といった、農業を営む条件が整っている事を示している。

豊富な食料は増えていく人口を支え、他の2国よりも高い豊かさを示している。


 そんなジイール建国から1511年たったのち、物語は始まる。

現在の国王は、すなわちジイール9代目国王アンスラックス=マナ・トゥ=サマリアという。

数年前に勃発した、『魔王バルバトス』と呼ばれる魔界の王の一人との大規模な戦いに勝利し生還した、六人の英雄『6大精霊王』と讃えられる内の一人、『聖王騎士』の称号を持つ者である。


アンスラックスは英雄としてジイール唯一の城『サマリア城』に凱旋後、王妃として同じく6大精霊王が一人『雷帝』の称号を持つ、ニッキー=ラルファーを迎い入れた。


結婚後すぐに男子が産まれた。

ジイール国にとって、久しぶりの明るい話題に民は喜んだ。

魔王バルバトス討伐戦記として、最高のエンディングだったからである。

しかし残念ながら、その平和はわずか数日しか続かなかった。


ジイール史に、建国以来最悪の出来事として記された、事件が起きたのである。

サマリア城内の謀反、そして時を同じくして次期国王、つまり産まれて間もない赤子の王子の誘拐に続き、その時果敢に戦った出産後間もない王妃ニッキーの死によって幕を閉じることになる。


王はすぐさま謀反を制圧し、王子の大捜索を開始する。

しかし、ジイールに限らず、どの国にも立ち入りが厳しい区域が存在する。

そう、上級闇属性種族の生息地域。


魔物の巣窟―


ジイール国東部、デファー国との国境に広がる『暗黒の森』である。


この超危険地帯を除き、ジイール国内はくまなく探索された。

1年にも及ぶ捜索にもかかわらず王子を見つける事が出来ないことに、王としてのリーダーシップを疑問視する国民が不安を募った。

王は一旦諦めざるを得なかった。


彼の右腕で、共に魔王討伐に赴いた6大精霊王の一人、サマリア城『宮廷魔術師』テール=ザン・テルは遠い王族の女性ミレリア=シス・ファンとの再婚を勧め、王はしぶしぶ受け入れた。


1年後、王位継承者=『皇太子』ルシャナ=パティ・トゥ=サマリアが誕生した。

ようやくこの事態は一応の終止符を打った。


そして、事件から14年の月日が流れた…



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