第3章『伝説への旅立ち』

第119話『伝説に挑む一人の少女』

『これ 竜戦士伝説 なり』

少女は降りかかる運命の重さを、感じつつあった。

『勝てれば繁栄

 負ければ滅亡』


負けてしまえば、そのまま滅亡すると警告している。

自分は生まれる前から、重要な任務に運命付けられていたのだ。

それを考えると、大きなプレッシャーを感じる。

今のままで良かったのか…


それに、竜戦士伝説の最後の方は、うまくいくかどうかわからないような表現を使っている。

伝承通りに、事が運ぶかどうかさえ検討が付かない。

それに気になる文章も多い。


『そして 戦いは

 男たちの 死をもって 終結する』


集められた竜戦士達は、皆死んでしまうと言い切っている。

そんな悲しい結末は迎えたくない。


それに、

『男を集めし女も 天へと 舞い上がる

 この地 天より 見守るだろう』

とも伝えている。


自分自身も、死んでしまうような感じを受ける。

生にこだわるわけではない。

けど自分には、やりのこした事が沢山ある。

一生そばにいたい人もいる…


その人の事を考えた。

彼は現実主義だけど、思いやりがあり、何事にも一生懸命。

自分の事は二の次で、躊躇無く死地へ飛び込んでしまう。


そんな彼を助けたい。

それは、一人では救うことが出来ない人々をも救うことにもなり、自分の理想にもつながる。

特別な感情が無いわけではない。


けど、今はそれがお互いの重荷になると思った。

不器用な考え方だけど、今は自分達に出来ることが先決だと割り切っている。


(そう言えば…)

『三つの戦いが生じ 一人の男を

 一人の女が 助ける』

の、一人の男とは、コオチャのことではないかと考えた。

彼も三つの戦場全てに姿を現した。

コオチャとシーク王と立場は違うが、二つの立場を利用して全ての戦いに参加した。


(二つの立場………?)


竜戦士の一人の特徴である、「二重人格者」に当てはまるような気がした。

伝承は古代語で書かれているので、解読には長い時間と豊富な知識、それに勘が必要である。

正確に訳す事は難しい。


まずはコオチャを訪ねることに決める。

それと、もう一つ気になることがあった。

(コオチャは父であるアンスラックス様から、背後に迫る陰謀を阻止するよう言われていたはず。その敵と、竜戦士伝説の敵は同じなのかも…?)


そうなると、ますます彼に会わなければならない。

コンコン…

不意にドアをノックする音が響く。

自室に来客のようだ。


旅立ちの準備を進めていたシータだったが、手を止めてドアを開ける。

そこには長老ミトエベが立っていた。


「これを持っていくのじゃ」

小さなペンダントを渡される。

「この首飾りが伝承に出てくる首飾りなのかもしれん。こいつはキルス様の石像にかけられていたものじゃ」

古臭く、飾りにしては不似合いなペンダントが、暗影魔神キルス・リンクの石像にかかっていたことを思い出した。


過去に何度か取ろうと試みたが、ペンダントの鎖は細いながら切ることが出来ず、しかも鎖の長さには余裕が無くて、はずす事は出来なかった。


皮肉にも伝承の合図として頭部が無くなると取れたのだ。

これは偶然なのか、伝承の一部なのか…

「分りました」


ペンダントを観察する。

ベースの部分は金属のようなもので 近くで見ないと分らないような細かい彫刻が施してあった。

形は星型で中央に石が埋め込まれている。

石は普通の石で、特別な感じは受けない。


「ん…?」

不意にどこかで見たような、錯覚を起こした。

「毎日見ていたのじゃ、心当たりがあっても当てにはならんぞ」

ミトエベに心を読まれたような気がした。


「はい。まずは会ってみたい人物がいます。それにサマリア城にも相談しに行きます」

大きく頷くミトエベ。

「全てをおぬしに任せる。それは無責任ではなく、おぬしの運命を信ずるからじゃ」

「運命―――」


こんな時に聞くと、なんて不運な運命なのだろうと思ってしまう。

「それと、竜戦士達を集めここに帰ってきた時点で、 おぬしを司祭として昇格させる試練でもある。勿論、竜戦士が存在しないことが判明してもじゃ。くじけず前に進め」

「はい!」


全ての旅立ちの準備を整える。

準備といっても、揃えた物は必要最低限の物ばかりで、かなりの部分で現地調達を想定した。

揃えると言うより、省いたと言った方が合っているかも知れない。

それほどまでに身軽にしたのは、この旅が予想や想像通りに進まないことを予感しているからだ。


「なんじゃ、竜戦士を集める旅には見えんぞい。首都にでも行くようじゃ」

誰かが心配した。

だが、シータは覚悟していた。

危険な旅であることを。

だから荷物は少ないほうがいい。


「首都には連絡を入れた。おぬしが連れて来たワイバーンに手紙をつけて帰してある。直に対応するじゃろう」

「ありがとうございます。ミトエベ様。」


全てが動き出した。

もう後戻りは出来ない。

小さめのリュックを背負うと、彼女の代名詞にもなってきた、トールハンマーを肩に担いだ。


「行って来ます」

そう言い残した彼女の姿を、見送った全ての人々が忘れることが無かった。






そこには伝説に挑む、






一人の少女の姿があった―――





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