第11章『大魔法』

第88話『進軍』

テールを隊長とした、デスピトール殲滅部隊は、黙々と国境へ向けて進軍している。

夜間での強行軍であるためか、余計に緊張感に満ちている。

程よい緊張感は、部隊を強烈に前進させていた。


「ねぇダーリン、私の体の中で精霊たちが暴れているの」

後方部隊に参加しているリスネットが、夫でありアルシャン団長のフィスナーに言った。

彼は明らかに動揺した。


「違うの、何だか奮い立っているの」

彼女の言葉に、フィスナーは不安が増した。

精霊がいなくなれば彼女は死んでしまう。

リスネットが北の都で受けた人体実験は、彼女を精霊なしでは生きられない体にされていまっている。

結婚式当日の事を、生々しく思い出した。


「きっとね、長い時間精霊達の力を借りていなかったでしょ?だから、ようやく恩返しが出来るって興奮していると思うの。かつて無い力が発揮できるかも」

「しかし、おめぇ…」

無理はしてほしくないと思った。


「体はいつになく軽いの。こんなこと初めて。戦うことに不安はないわ。けど、暴走しそうになったら止めてね。」

彼は黙ってうなずいた。

それほどまでの力は、当然見たことが無い。


下界では考えられないような強烈な力に、彼女の体に異変が起きるかもしれない。

だが、この戦いでのキーマンは、何と言っても宮廷魔術師で六大精霊王のテール様と、シャーマンキングと詠われるリスネットである。

二人の活躍次第ではこの窮地をひっくり返してしまうかもしれない。


ただし、リスネットに関しては体を気遣う必要がある。

そして、魔王戦の時のように自分を犠牲にしてまでも呪いを受けるのは、止めさせなくてはならい。

精霊界の王も、二度目は許してくれないだろう。


今は運命を共にする妻であり子もいる。

そんなフィスナーの想いはリスネットには伝わっていた。

ただ、何が起きるか分らないほど興奮している精霊達に、自分が歯止めをかけられるかどうかが不安だった。

暴走してしまったら、どうなってしまうか前例すらない。


その時、後方からの使者が、この部隊に追いついてきた。

最後尾のアルシャン団員がテールに伝える。

「要塞レスモンドより傭兵部隊が後方200mの位置に付けております。その数およそ250!」


これで総兵力が850人になる。

だが、まだ兵力差はある。

対するデスピトール一味は1000人以上と言われている。

「そのまま後方から進軍するよう伝えてください。国境付近で地形を考慮し陣を張ります」


団員はすぐさま引き戻ると、要塞レスモンドの使者に伝える。

この様子だと、夜明け前には戦場想定地に到着するだろう。

徹夜での進攻に疲労もたまり、戦いは辛いものになることが予想される。

しかし、敵とて同じ条件のはず。

それに、これほど速く迎え撃って来るとは思っていないはず。

そこが狙い目だった。


テールの予想では、海賊と黒の戦士率いる部隊に、深夜から明朝にかけて首都を攻めさせ、戦闘がピークに達する頃合を見計らい背後を付く作戦だと踏んでいる。

となると、明朝に国境付近に到着し、小休憩後突撃する算段になる。

休むのを前提に進軍している敵に、士気も高い我が軍が攻め入れば、多少の兵力差も関係なくなると思った。


決戦場は刻々と近付いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る