第87話『宮廷魔術師の息子』
コオチャは城門に到着する。
そこには生死を共にする仲間がいた。
「コオチャ、本当にルシャナ様は来るのですか?」
リーダーのシューは、相変わらず鋭いところをついてくる。
「いや、来ないよ」
そう言っても誰も不安になる者はいなかった。
武器を改めて確認するタカ。
長い髪を掻き分けながら海を見つめるアラマ。
腕組をして瞑想にふけるJ。
月に祈りをするカル。
傍らにバトルハンマーを突き刺し静かに物思いにふけるシュー。
コオチャに寄り添いながら海を見つめるシータ。
そして全身に包帯を巻き腕組をしながら海を見つめるコオチャ…
ウルフチームの面々は、静かにその時を待つ。
そんな時、背後から人の気配を感じた。
「はじめまして、ユーイと申します」
そこにはローブをまとい、白いハチマキをなびかせた少年が立っていた。
「はじめまして、コオチャです」
ユーイと名乗った少年は、物腰も柔らかく、不意に前に出ると海を覗き込むような仕草をした。
「大分近付いているね。後1時間もしないうちに上陸してくるかも」
どうやら遠いところを見る魔法を使ったようだ。
「そうそう、宝物庫から武器をお借りしましたよ」
「いや、あげるよ」
コオチャはそう言うと何を持っていったのかも聞かずにユーイの隣に並ぶ。
「どう戦う?」
「敵の戦力は?」
「不明。大型船3隻」
「種族や戦闘スタイルは?」
「海賊。それ以外は不明」
「海賊かぁ…」
短い会話が続く。
しばしの沈黙。
「前線に高い建物はある?」
「ある。見張り台付き前線基地」
「そこで一度応戦しましょう。リーダーどうですか?」
シューに同意を求めた。
ウルフチームである限りシューがリーダーである。
「ここで戦うよりも良い条件です。移動しましょう」
8人は足早に中央広場の海側にあるセンターに向かった。
ユーイ以外は一度来ている。
「これはいい」
ユーイは屋上に上がるなりそう言った。
「ここで魔法系の人は戦いましょう。剣士系の人は、その補助を元に下で応戦します。」
「私は?」
カルが質問した。
ユーイがチラッと見る。
「魔法剣士なのですね…、しかも月の力を借りるのですか。最初はここで魔法にて応戦してください。その後は臨機応変に動きましょう」
素早く返答した。
見ただけで的確な判断を下した内容に、カルは納得しているようだ。
「応戦するって言ったってよ、敵が100人も大挙してやってきたらどうすればいいのさ」
タカが質問した。
ユーイは静かにうなずくと作戦を言い渡した。
「わたしが魔法で作る盾を、センターの背後に作ります。そして敵をおびき寄せ密集させます。その後大型魔法でダメージを与える。剣士系の人は戦いながら徐々にセンター屋上に下がってください。あくまでも引き寄せるのが目的です」
彼のどこから沸いてくるのか分らない自信に、有無を言わさず納得してしまう。
だが彼はにこやかに、そして有り余る自信を持って言い渡した。
「大軍で押し寄せる地形ではありません。ゲリラ戦ならこちらも苦戦しますが、多ければ多いほど戦いやすい。大ダメージを受けた大軍は烏合の衆と化すでしょう」
ユーイは、初めて見るはずの首都リクレクルの複雑な道路などを瞬時に把握し、戦術を立てた。
こちらは知り尽くしている地形なのも考慮されているはずだ。
彼の思慮の早さにリーダーは舌を巻いた。
(出来る…)
「その後はどうするのですか?」
カルが質問した。
烏合の衆と化した敵にどう追加ダメージを与えるのか、気になるところだ。
「わたしは逃げます」
センター屋上には、海から吹く気持ちのいい風が吹いていた。
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