第2部『The will of kings』
第1章『手紙』
第43話『懐かしい人からの手紙』
『コオチャへ
お元気ですか?突然ですが手紙なるものを送ります。
アルシャンの方々の協力を経て、
あなたの元に届きますように…
雷神剣を使いこなせるよう修行を重ねていると思いますが、
その準備段階として剣を作ることを助言したく、この手紙を送ります。
それと、雷神剣と一緒に保管してあったスモールシールドが見つかりました。
時間がありましたら、是非、里に寄って下さい。
お待ちしています。
ミルより
追伸、あなたの元気な姿も見たいです。』
少年は手紙を机の引き出しに片付ける。
ドッサと椅子の背もたれに寄りかかりながら、懐かしくも苦い記憶を思い出した。
しかし、苦い記憶は過去の事と割り切っていた。
それよりも懐かしさに突き動かされた。
ドアを激しく開ける。
そして まっすぐ師匠の所へ走っていった。
ここは西の都、ジイールの首都リクレクルから西へ約1日歩いたところにある、「レスモンド」と言う名の村である。
ジイール国の前身サマリア国の頃から、国を守る為に作られた見張り用要塞が、後に村になったところである。
その為か、昔から剣豪が集まり腕を競い合っていた。
コオチャはレスモンドに来て半年を過ごした。
同じ日に入村した「ガルバ」と名乗る老剣士に一目惚れし弟子入りした。
それからメキメキと腕を上げ、少数だが友も出来た。
毎日が厳しい修行で、寝ても覚めても剣を振るう少年に、村内の誰もが畏怖した。
そんな中、コオチャは黙々とある人物との闘いだけを考えていた。
「ギルク…」
西の都で最初に魔王が降臨し、都中を恐怖に陥れた。
ギルクとは、その時魔王討伐に立ちあがった一人で、最後まで生き延びた六人の英雄達「六大精霊王」と称される中の一人である。
六大精霊王とは、もっともポピュラーな神達を称するものであり、その神達と同等だと、都に住む人々は賞賛したのだ。
その中でもギルクは、剣の腕前はリーダーだったジイール国前9代目国王「アンスラックス」を凌ぎ、その勇猛果敢な攻撃は、アンスラックスの妻となり実質魔王にとどめを刺した「ニッキー」を超えていた。
コオチャはそのアンスラックスとニッキーの、唯一の子である。
余計に六代精霊王であるギルクに対し、魔王に取って代わって西の都を制覇しようとしている事実に怒り、そして無念でもあった。
が、とにかく相手は都を代表する剣士である。
いくら修行しても物足りなさを感じる。
その一点がコオチャを過酷な修行へと走らせた。
そうして半年、師匠ガルバの元で剣技、筋力、体力、精神力、集中力とすべてにおいて力をつけていく。
振り返ってみれば、その他何も無い。
しかし、育ての親のミルからの手紙に、流石のコオチャも居ても立ってもいられなくなった。
自分の家の扉を勢い良く開ける。
偶然に彼に立ち寄ろうとしていた友人「キャハラ」が目の前にいた。
「やぁ、コオチャ」
見た目はごく普通の少年で、年の頃はコオチャと同年代である。
彼は寝たきりの母と二人で暮らしている。
この村に来たのは、幼い頃父と一緒に離ればなれになった兄を探す為にいる。
冒険者ならば、各所に行くことにもなるからだ。
父は兄を守ろうとして死んだ。
しかし、助かったはずの兄は行方がわからなくなっていた。
「そんなに急いでどこへ行くんだい?」
キャハラは急ぐコオチャを止めた。
「防御の訓練をしたいのだけど、相手をしてくれないかい?」
コオチャは首を横に振る。
「ごめんよ。急を知らせる手紙が来たんだ。師匠に了解をとったらすぐに旅立たなきゃ」
「そうかぁ。それなら急いだ方がいい。気を付けてな」
キャハラは心配そうな目でコオチャを見送る。
急いで師匠の家へ向かう。
「あら?コオチャ?」
今度は村の中央広場で声をかけられた。
「ミュー?」
そう呼ばれた少女は微笑みながら振り返った。
小麦色の肌を露出させた服装にショートヘアーがよく似合う。
彼女も年はコオチャと同年代で、家族はいない。
一人で生きる力をつけるためにこの村で修行を続けていた。
訓練の帰りなのか、汗が引いていなかった。
腰には練習用の切れない剣が下げてある。
「訓練の帰りなの。後で寄っていい?昼食を一緒に食べましょ」
そう言いながら少し照れた表情をしていた。
だが、後ろめたさを感じつつも断った。
「ごめんよ。手紙が来て急用なんだ。師匠に許可を取ったらすぐに出かけなきゃいけないんだ」
「わかったわ。どこへ行くの?」
流石に「ダークエルフの里」とは言えない。
パニックになるどころか追い出されるだろう。
「リクレクルにね」
ジイール国の王都である。
ここにはジィールの半数の人々が暮らす大都市である。
用事と言えば疑う余地は無い。
「じゃぁ、すぐに戻ってくるのね。気を付けて」
右手を顔の高さまで上げ手を振ってくれた。
この村でのコオチャは、強さへのひた向きさが尋常ではないので、この平和な国に何をそんなに求めるのかと敬遠されがちだが、逆にその姿勢は若者の中では支持されている。
「ありがとう。行ってくるね。」
後ろを振り返りつつ走り出す。
この村では、今は首都であるリクレクルを守る前衛要塞である。
ジイール建国前は、サマリア国の見張りとして機能していた歴史がある。
敵が攻め込んでくれば、狼煙で連絡しつつ防衛をこなしていたのだ。
そんな村には、当然だが腕自慢が集まってくる。
今では修行の場所との認識が高い。
その為、この村に対して仕事を依頼される。
所謂、冒険者ギルドとして機能していた。
冒険者ギルドとは、仕事を受け斡旋する組織である。
ソロでこなせる仕事もあれば、多人数でなければ難しいものまで、仕事内容は多種多様だ。
自然とパーティを組む流れとなる。
そうして報酬を得つつ、自らを鍛える。
要塞レスモンドには、コオチャが望む環境が揃っていると言えた。
今はギルクの情報は一切得られていない。
だが、いずれ尻尾を掴めると、そう思わせるだけの熱量が、ここには溢れていたのだった。
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