第83話『何も語らない街』
稲妻の騎士団は、先頭の第1師団にラーファを向かえ、第2師団にマークとルシャナそしてルシファー、第3師団を後方への備えとして配列し、出陣時のように駆けることは無いが、出来る限り急いでデファー国へ向かっていた。
馬上ルシファーは不安を隠せない。
手綱を握るルシャナに必死にしがみついていた。
(お父様、お母様…、どうか無事でいて…)
今は神に祈ることしか出来ない。
右手の暗黒の森が視界から消えると、平野が現れる。
まだ、視界に何も写らない。
デファー国首都デミックまでは、まだまだ時間がかかる。
今日は野宿になるだろう。
案の定、夕方になってもデミックには付かない。
大部隊の行進でもあり、なかなか先に進まない。
そもそも馬を使った商人部隊でも、2~3日はかかる距離だ。
怪我を負った者はサマリアタワーに残してきた。
使者を一人城に走らせたから、直にサマリア司祭団が来るだろう。
その中、ストランディだけが大怪我を負ってまでもこの部隊に参加している。
補給部隊の荷駄に寝ている状態で運ばれていた。
近くには部隊に追いついたアイリーンが付き添い、看護していた。
結果的に彼の判断がこの部隊を引き寄せた。
もしも城からの応援が少人数でサマリアタワーに来ていたら、敗走は免れなかっただろう。
誰もが不安と緊張を隠せないでいる中、部隊の進行は二日目に入る。
平野の為、敵襲を発見するには都合が良かった。
が、発見が遅れた場合隠れる障害物も無い為、守勢には厳しい条件と言える。
陣形を整えて戦う戦法、いわゆる兵法が大事になってくる。
簡易的な陣形をラーファより教えてもらい、大隊長以上の幹部は頭に叩き込むことになる。
特に守備に特化した戦法を覚えた。
こちらから奇襲・攻勢に出ることは考えにくい。
とにかく首都デミックに辿り着くのが目的だ。
二日目が過ぎ、三日目…
永遠と続くかと思われた平野に変化が現れる。
ジット王が考え出した平野を広範囲に見渡す為の高台が見えてきた。
これは首都デミックに近付いたことを示す。
高台はデミックの四方八方に12箇所設置されている。
これらは見張り台となっており、有事には狼煙を使って急を知らせる仕組みとなっていた。
ところが、ラーファは驚愕の事実を目にすることになる。
高台はある。
だが、その見張りは殺されていた。
そして代わりの見張り役もいない。
それは首都から交代の要員が来てない事も示し、そして城が機能していないことも同時に意味する…
「ムーンブルック城は近いです。急ぎましょう」
珍しくラーファは焦りを感じていた。
ルシャナも数度来城したことがある『ムーンブルック城』。
別名『月の守護城』とも呼ばれる。
薄いピンク色をした城壁は、今でも忘れはしない。
そして、この平野に唯一変化のある三日月の形をした湖『ムーンリンクス』、別名『三日月湖』があり、その中に城は建っている。
首都が見えてくた。
最初はおぼろけながら建物の形が見えていたが、徐々に形がハッキリしてくる。
しかし、いつも聞こえる街の喧騒はない。
不安は信じがたい真実へと変わりつつあった。
破壊された建物、殺された住民、焼きただれる木々…
ついにルシャナ率いる騎士団は、ムーンリンクスに辿り着いた。
城は目前である。
ここから城へ向かって、真っ直ぐに石で出来た橋がかかっている。
俯いたままのルシファーをそっと抱き寄せ、ルシャナは前進を命じた。
第3師団はこの城への入り口で護衛に当てる。
第2師団は首都を偵察し、敵がいた場合は速やかに本軍に報告し、少数であれば敵の殲滅に当たるよう命じた。
第1師団はルシャナ達と共に登城する。
そんな中ラーファは細かいところを見逃さなかった。
掲げられていない国旗、門番の不在、駐在所の破壊…
軍施設から破壊されているようだった。
黒の戦士は迅速かつゲリラ的に攻撃して来たに違いない。
橋を渡りきると門番として第1師団第3大隊を当てる。
そして城門を開け、そして城内に入る。
大きな空間があり、そこには無数の司祭団の死体が転がっていた。
ここには同じく第2大隊を当て死者を弔うよう命じた。
いよいよ本体は王の間に辿り着く。
「敵の気配はない。ここから先はわたしとルシファー姫、そしてラーファ様のみ進む。マーク達はここで待機せよ」
静かに御意の礼をとるマーク。
ルシファー姫の心情を察し、静かに振舞った。
全員を回れ右させ剣を収める。
戦う必要はすでにない。
ギィィィ~………バタンッ………
扉が閉まり一時の静寂の後、大声で泣く少女の声が城に、そして何も語らない街に響いた。
その声はデファー国に暗く大きな影を残すことになった―――
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