第9章『語らぬ街』

第79話『サマリアタワー突入』

魔物の巣窟である暗黒の森を警戒する為の、いつもは静かなサマリアタワーは、過去に例が無い程の喧騒に包まれていた。

両者の陣営は、ジイール国側が王ルシャナと兄のコオチャ、神官のシータ、騎士団長マーク及びエルナイト3個師団300人+サマリアタワー守護騎士、さらわれたデファー国王女ルシファー、王女を救出しようと最高司祭ラーファ、そして司祭団10人で、敵方は突如現れた黒の戦士率いる部隊50人+太古の国のスケルトン500体が激しい戦闘を繰り広げていた。


「突撃!!!」

先頭に立って指揮するルシャナ王。

彼は密かに恋心を抱く隣国のルシファー姫救出の為、眼前に迫るサマリアタワーを目指していた。

ルシャナ王自ら騎士団を率いるのは初めてだが、魔王討伐を共に戦ったマーク騎士団長が巧くサポートしている為か、見事に統率されている。

だが、太古に滅ぼされた国の者達と思われるスケルトンは、よく訓練されており、その力は並大抵のものではない。


始まったばかりの戦況は、ジイール軍が有利に戦っていた。

スケンルトンの数は多い。

が、森に囲まれた狭い空間では数的有利を発揮できないでいた。


消耗戦が続く中、コオチャはラーファ救出に成功すると、最後尾のシータの元へ連れて行った。

ラーファは後方にて前線への支援を行っていた仲間を一人呼び戻し、重傷のストランディの容態を時々確認するよう指示する。

そして、疲れきった体を持ち上げると、再び前線へ行こうとした。


「ラーファ様!少し休んでください。いずれ戦況が動きます。その時まで後方で頼みます!」

コオチャはここまで駆けてきた疲れも見せず、今度はシータの元に走った。

耳打ちをする。

「出来るかい?」

大きくうなずくシータ。


コオチャはシータの手を引くと、前線に向かって走り出した。

後方部隊として戦況を補佐する第3師団に到着すると、師団長を探した。

師団長クラスの騎士になると、オリジナルの武器・防具を付けることを許される。

目的の人物はすぐに見つかった。


「第3師団長!奇襲を仕掛けるぞ!」

地面に簡素に絵を書き指示を下す。

師団長はすぐに理解し行動に移した。


「第3師団、第1大隊は戦場の左辺よりシータ様を先頭に、第2大隊は右辺よりコオチャを先頭に奇襲をかける!第3大隊は後方部隊の盾となれ!!」

後方部隊とは、ラーファを筆頭とするデファー国の舞台である。

彼らは司祭が多数いるため、貴重な回復手として期待されていた。


師団長は、素早く指揮を執ると、自らはシータの方へ加わり行動に移した。

大隊は30人、3個小隊を合わせて成り立っている。

1師団は100人だが、のこりの10人は師団長が人選する者達で成り立っている。ある師団長は策士や魔法使い、ある師団長は司祭団、ある師団長は射手等を選んでいる。


第3師団が左右に展開し、それぞれの森の中を突き進み始めた。

シータが行く森は一般の森だが、コオチャの行く森は暗黒の森である。

流石のエルナイトも気が引ける者が多かった。

「前王は騎士団を編成し、果敢に暗黒の森を攻略しようとした!今はただ突き進むのみ!気後れするなよ!!」

コオチャからの激が飛ぶ。

確かにジメジメしているが、森の外が見えるルートを進むため、それほどの恐怖は感じなかった。


「一気にいくぞ!」

躊躇せず、スケルトン部隊の裏に出る。

コオチャは真っ先に、魔法使いや司祭の格好をしたスケルトンを一刀両断していく。

「恐れるものは何も無い!」

オォォォォォォォォォ!!!


反対側からもシータ達が躍り出たようだ。

前線にばかり目が向いていたスケルトン部隊は、突如現れた後方の敵に陣形が崩れていく。

逃げ場も無く後方支援部隊も壊滅され、ひたすらやられていく仲間を見ているほか無かった。

戦況は大きく動いた。

目に見えて、前へ進めるようになる。


それを確認したルシャナは、馬を降りマークの元に駆け寄った。

「サマリアタワーに乗り込むぞ!」

「ハッ!」

伝令より、ルシファー王女はサマリアタワーに軟禁されている事を知っていた。


二人は邪魔なスケルトンの群れをこじ開けながら一転突破する。

その前方では、コオチャとシータが扉を開けようとしていた。

上手く事が進んでいるように思えた。


扉の前にコオチャ、シータ、ルシャナ、マークが終結する。

シータが扉をハンマーで叩く。

ドォォン

「!?」


しかし、トールハンマーでさえ、その扉は壊れることはなかった。

特殊な魔法で保護されているようだ。

スパンッ!

そこへ、サマリアタワーの上層階より矢が降ってくる。

遮る物の無いこの場所では、かなりの精度で矢が向かってくる。

これでは扉を開けることはおろか、この場に留まることさえ困難になってきた。


ヒュイーーーーンッ

暗黒の森より、一本の矢がタワーの窓に目掛けて飛んでいく。

直後、窓から人が降ってきた。

矢が命中している。


その人物と目が合うと、彼女は素早く扉の近くに躍り出てきた。

先ほどのワイバーンを打ち抜いたダークエルフである。

「ミル!!」

コオチャの顔が弾ける。


「上からの攻撃は私に任せなさい!その扉を破壊するのです!」

直後、再び矢を射る。

遠くで人が落ちるのが見えた。


時々振ってくる矢はマークの古代武具アテネによって防がれる。

身の安全は、辛うじて確保できた。

が、扉が開かない。


「これは魔法によりロックされています。開錠の魔法が使える人がいないと開きません…」

シータの分析だ。

残念ながら彼女は出来ないようだ。

それに開錠の魔法は色んなタイプがあり、経験がものを言う。


「私に任せなさい」

そこへラーファが来た。彼は精神力が限界に近づきつつあるようで、肩で息をしていた。

「………」

コオチャは無言でラーファを受け入れる。

本当ならば彼は休んでいないと危険な状態にある。

これ以上の体の酷使は自滅を招く。


司祭が自滅する時、それは精神の崩壊、体の機能が維持できなくなるか、はたまた理性を無くす。

だが、今はそんな事を心配している場合ではないのも理解できる。

彼はデファー国最高司祭、西の都が誇る英雄司祭なのである。


ラーファは扉の前まで来ると左の掌を当てる。

暫らくの後、カチッと乾いた音がした。

開錠したようだ。


コオチャがノブに手をまわす。

扉の正面にはマークがアテネを構えている。

他の者は壁際に控えた。


「行くぞ!」

勢い良く扉が開くと、中から矢や魔弾が飛び交った。

全ての攻撃は魔王の攻撃にも耐えた、アテネにより防がれる。

敵からの攻撃が一段落した隙を付き、中に滑り込んでいく。

一斉に飛び交う怒号と刃―――


コオチャはターンしながら、その攻撃を跳ね除けた。

正確には剣や槍を彼の持つドラゴンスレイヤーで破壊してしまった。

「突撃!」

その声と共に他の5人がなだれ込んでいった。

部屋中にあふれるスケルトン………

息を呑む光景に、冷や汗を感じても仕方がなかった―――

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