第45話『入村当日の出来事』
コオチャとシータは、王都リクレクルへ向かっている。
半年前までは二人とも住んでいた所だ。
「久し振りだわ」
シータは嬉しそうに呟いた。
両親の思い出がいっぱい詰まっている場所でもある。
「そうだね」
コオチャも懐かしさでいっぱいだった。
15年もの間、ダークエルフの里に監禁され、辛い思い出ばかりだったが、義盗賊団アルシャンのフィスナー団長に助けてもらってからの時間は、実に充実していた。
たった1年ぐらいだったが、いろんな事があった。
「私、コオチャと会って安心した事があるの」
不意に話題を変えてきた。
「どんなこと?」
「てっきり一人で修行しているのかと思ったの」
「?」
「友達とか全然関係無くて、ひたすら修行に打ち込んでいたら、怒ってやるって考えていたの」
シータはイタズラっぽく笑った。
長い年月、たった一人で闘ってきた少年にとっては、仲間を作ることは不得意だった。
アルシャン団員時代も苦労した経験がある。
「実は僕も心配していたんだ。村に着いてみたら、同年代の人がいっぱい居るし…」
「頑張ったのね」
コオチャは初めて村に来た時の事を思い出した。
僕はアルシャン本部を旅立ち、双神山脈の「フィルス」側のトンネルを抜け、一日歩き要塞レスモンドへ向かった。
持っていった荷物は、魔王との戦いに使用したレイピアと、テールに魔力加工してもらったバスタードソード、弟ルシャナから貰ったブルーの耐魔法型マント、そして少々の着替えと、必要最低限の生活用品の入ったバック、そして忘れてはならない青色のバンダナ。
雷神剣はサマリア城の王の間に突き刺さっている。
要するに置いてきた。
持っていると身元がばれてしまうほどの代物だからだ。
そうそう、フィスナーからは入村用にと推薦状を貰った。
向かっている村は「要塞レスモンド」
ジイール国の前身、サマリア国時代に築かれた要塞が、現在村になっている。
要塞時代から腕に覚えのある人が集まってきては国の為に戦ってきた。
その為か、今もその風習は受け継がれ、修行を目的として村にやってくる人は絶えない。
つまり、ジイール国にとってレスモンドとは、傭兵達の集まる場所と認識している。
ここを訪れれば、ジィールの底力がわかるとも言われている場所でもある。
そんな村に住むに当たって、村で独自に定められた試験がある。
まったくの素人は住むことはゆるされない。
ある程度の腕があるかどうか試されるのだ。
そんな訳で推薦状は大きな役割を果たしていた。
コオチャはそんな意味のないしきたりに腹立たしくも、修行の場としては最高の所だと薦められて来た。
村に近づくと、激しくぶつかる金属音や、時折魔法の攻撃音が聞こえてきた。
(想像以上に激しいな)
期待以上の場所だと想像すると、喜びを隠せない。
僕の目的は六大精霊王の一人、ギルクを倒すことだからだ。
生ぬるいやり方では手遅れになってしまう。
門の前に到着した。
木々が生い茂る場所から、突然大きな木造の門がある。
しかも、大きい。
(でも…)
要塞に関しては素人の僕でさえ、門が古く役に立たないことは分かってしまう。
ジィール国民の平和慣れが、こんなところにも現われているのだと感じた。
そんな事を考えつつ門を潜ろうとした時、不意に村外に人影を見た。
そこには何人もの人が、村の外に簡易な家を構え、生活をしているように見える。
(何故村の外に人が住んでいるんだ…?)
近づこうとしたが、一斉に鋭い視線を浴びせられる。
踏み出そうとした足を止めた。
あえて行くのをやめる。
改めて村の中に入った。
そこは戦場さながらの光景だった。
飛び交う怒号、飛び散る火花…
そこには戦闘意外のことは行われていないと思うほど活気にあふれていた。
近くに、休憩をしている盗賊風の男に村長の居場所を聞く。
「あぁ、あいつなら、このまま真っ直ぐ進んだところの表札が出てる家だぜ。行けば分かる」
ぶっきらぼうに教えてくれる。
「ありがとう」
男は軽く手を上げて答えた。
言われた通りに村の奥に進む。
暫く歩くと広場に出た。
中央には噴水があり、その噴水を囲むようにベンチがいくつかあった。
広場の周囲には武器、防具、小道具、食料品などのお店が連なっている。
村人達はベンチに腰掛けて、新しい武器の話題や、軽く食事をとったりしていた。
そんな光景の中『村長 アデル』と書かれた表札をつけた家を見つけた。
(あそこだ…)
はやる気持ちを押さえつつ、村長の家に向かおうとしたその瞬間、背後からとてつもなく大きいプレッシャーを感じた。
!!!
体が勝手に反応した。
背後からは手が伸びていたが、僕に触れる瞬間にはしゃがみ込みつつ、その手を交わし、素早くレイピアを抜き、振り向きながら間合いを測った。
武器を構えた瞬間、周りの村人達も機敏に反応する。
背後に居たのは老人の男だった。
今までにない緊張感に浸っていた。
(魔王以来かもしれない)
それほどのプレッシャーを受けつつ、背中には冷や汗を流していた。
いつのまにか村人達に囲まれていた。
その中の一人が話し掛けてくる。
「おい小僧。見かけない顔だが、この広場で武器を構える事がどう言う意味を持っているのか知ってのことか!?」
「………」
話す余裕もない。
「死合いをする事だぞ。もし負ければ大きなマイナスポイントを受ける。下手をすれば村外に追い出されるぞ」
「………」
どうやら、村の中では成績によって順位があるようだ。
村の外に居た人達は順位から大きくはみ出した者達かもしれない。
しかし、瞬時に答えを導き出した。
「僕の負けで結構です」
そう言いつつレイピアを鞘に収めた。
これには村人が驚いた。
「おまえはとんでもない根性ナシだ!」
「負け犬め!!」
罵声が飛び交う。
しかし、僕は考えた。
(残念だが、勝てる見込みは無い相手だ。大怪我をして時間を取られる方が損だ)
自分なりの答えだった。
そう思うほど相手の老人は強者だと感じていたからだ。
だが、この出会いが僕の運命を大きく変えていくのであった。
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