第37話『本当の幸福の杖の力』
「幸福の杖よ!今こそ、その名に相応しい力を発揮せよ!!四人の魂と一人の体を元の状態にもどせ!!」
杖は更に激しく回転した。
眩い光を帯び始めた。
その光量、熱量、魔力量は、今まで見たことも聞いたこともないレベルに達している。
名のある賢者が見れば、理解しただろう。
人の手で生み出せる力ではないことを―――
その光が最高潮に達すると、シータは静かに合図した。
「ゆけっ!」
五個の光が上空に向かって飛び出した。
その直後、杖は回転をやめて地面に落ちる。
力を使い果たしたのだろう。
それは、この挑戦が最初で最後である意味も含まれていた。
二人に緊張が走る。
その時コオチャは一つ大事なことを忘れていた。
(リスネットの呪いをはずすには、力が足りないかもしれない)
打ち上げられた五個の光は一度雲の中に消えた。
ほんの少しの間の後、再び姿を現し、信じられないほどの勢いで五人に向かって落ちてきた。
命令通り、すでに生き絶えている四人に光が落ちた。
その直後コオチャに向かって最後の光が落ちる。
その寸前にコオチャは手をリスネットに向けた。
「杖よ!リスネットの呪いをはずすのだ!!」
「!」
シータは焦った。
そこまで考えが回らなかった。
しかし、間に合うかどうか…
それにコオチャもすぐに手当てしないと、いつ昏倒するかわからない。
ひかりは地面を掠めて、リスネットに向かって飛ぶ。
すべての光が着弾した。
第二宮殿跡地は聖なる光に包まれた。
その後強風が吹き荒れ、埃を舞い上げ視界を奪った。
何が起きているかわからないばかりか、二人は息をするので精一杯だった。
シータは飛ばされそうになる体をコオチャに預けた。
精神力を根こそぎ杖に持って行かれ、そのまま意識を失ってしまった。
それからどのくらいの時間がたっただろうか………
暖かい日差し、やわらかな風…
何事も無かったかのような風景。
最初に目を覚ましたのはリスネットだった。
(んん・・・)
目を開ける。
目の前にはフィスナーの顔があった。
最愛の人の寝顔にホッとした。
(フィスナー…)
そっと呼びかけた。が、声にならない。
しかし、気持ちが通じたのか、フィスナーは驚いたようにガバッと跳ね起きた。
つられてリスネットもゆっくり体を起こす。
「ワシは…」
どうして目が覚めたのか分からず、混乱している。
「リスネット…、おめぇ、どうして…?」
リスネットは首を横に二、三回振る。
(私はどうやって生きかえったのか…)
そこまで言おうとして、また声にならないのに気が付いた。
(生きかえることは出来ても、声は呪いで奪われたのね)
不思議なことに、声になってないはずなのにフィスナーが頷く。
「おめぇの声は聞こえねぇが、言いたい事はわかるぜ。ワシも実は死んだはずなんだ」
リスネットはハッとした。
辺りを見渡す。
するとマークがルシャナを起こしていた。
「ルシャナ様!ルシャナ様!!」
呼びかけながら、体を揺すっている。
「ん…?」
ゆっくりと頭を上げた。
リスネット達と目線が会った。
「夢でも見ているのか…」
そう思うしかなかった。
次に全員が残りの二人を探した。
皆がいる場所から外れた所に、シータがコオチャを膝枕をするようにして俯いている。
シータは眠りから覚めると、コオチャと抱き合うようにしていた。
びっくりしたのと助かったとの思いが交錯し、一時混乱した。
少しずつ記憶を辿る。
コオチャは自分を助けるための力を、リスネットにまわしたのだ。
その後、自分を庇うようにして、閃光と強風の盾となってくれたのだ。
しかし、いくら呼んでも返事が無い。
枯れたはずの涙が落ちる。
そこへ、生きかえった四人がやってきた。
シータは そこで初めて気配を感じ振り向いた。
皆がいた。
魔王と闘ったみんながいた。
「うぅ…、リスネット、フィスナー、ルシャナ様、マーク…」
笑顔がかわされた。
しかし、シータはうつむいた。
「コオチャが…、私の盾になって…」
しかし、フィスナーはニヤニヤ笑っていた。
「シータ、おめぇさんはまぁだコオチャの扱い方がわからんようだな。わしに任せてみろ」
そうゆうとコオチャの耳元に顔を近づけた。
「コオチャ!リスネットがまぁだ呪いのせいで声が出ない。どうにかしろ!!」
他の仲間も驚く。
リスネットは静かに頷いた。
だけれど、再び上げた顔からは、今まで見てきた中で最高の笑顔が広がっていた。
リスネットにすれば声が奪われることはどうでも良かった。
ただ、生きかえれた事、そしてフィスナーが傍にいる事、ただただそれだけで嬉しかった。
「んん…、なんだって…?」
寝言のような声がコオチャから聞こえた。
「コオチャ!起きて!!」
勢い良く立ちあがる。
仁王立ちするコオチャ。
そこには懐かしいとさえ感じる仲間の顔があった。
「みんな…、良かった…」
緊張を解く。
そしてリスネットに近づいた。
「ごめん…、力が及ばなかった…」
そう言うと魔王が沈んだ方向を見た。
リスネットはゆっくり首を横に振った。
(どうやって私達は生きかえったの?)
口元からは容易に思いが通じる。
それは苦労を共にした仲間だからだろうか…
「シータが幸福の杖で皆を復活させてくれたんだ」
コオチャはあっけらかんと言い放つ。
しかし、その事を考えればどんな苦労があったかは想像できない。
「私は何も…」
「いや、僕じゃ杖を使えないからね」
(ありがとう、シータ)
ふいにリスネットの声が聞こえたような感じがした。
「不思議なことに、私には直接聞こえるような感じがする…」
ルシャナが言う。
それは誰もが思っていたところだった。
(言葉が無くなっても言いの。フィスナーが傍にいるだけで)
「何を言ってるんだ。これからいろいろ伝えなきゃならないんだぜぇ」
(そんな物はないわ。精霊達の気配も消えているし…)
「いや、ワシとおまえとの子供によ」
(!!)
フィスナーは照れくさそうにそっぽを向いた。
リスネットはその背中にそっと、だけど強く抱きついた。
彼なりのプロポーズなのだ。
ほほえましい光景に誰もが涙した。
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