第37話 エアプカナタ「暴力性のままに蹂躙せよ!」

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【ボツシーン】武器名が悪役だったことを微妙に引きずってるカナタくん

https://kakuyomu.jp/users/mazomanzi/news/16818093084842757138

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「貴様たち、山田と田中なのか!?」



 蛇塚シャガナが叫んだ。


 無理もないわ。山田くんと田中くん(?)、体形や輪郭で本人とはわかるが、顔付きと覇気が違いすぎるしな。

 従僕として無理やり着せられていたであろう燕尾服も、今ではとてもよく似合って見える。



『おっ、おーーーっと! 蛇塚家の御子息に呼ばれた二人、とんでもなくクール系美少年です! 名のある家の跡取り様でしょうか!?』



 テレビリポーターも大盛り上がりだ。撮れ高高そうな絵面してるもんな。



「はい、蛇塚様」


「山田と田中にございますよ」



 恭しく答える二人。格好も相まってまさに有能執事って感じだ。


 その様に、シャガナくんが「たしかにその声は……」と呻った。

 そして鼻を鳴らす。



「ふんっ、なるほどな。テレビが来ていると聞いて身だしなみを整えたか。まさかそんなツラをしていたとは……チッ、色気づきやがって……!」



 わかりやすく嫉妬か。彼は爪を噛みながら二人を睨んだ。



「まぁ、いい。キレイなツラをボコボコにしてやったほうが、周囲に我が力ぞ示せるからなぁ……! では、正々堂々と戦おうか!」


「「ははァ」」



 何が正々堂々だか。

 白々しいことを言うシャガナに、突然進化した二人は応えるのだった。




 ◆ ◇ ◆




「ではおぬしら! 模擬戦闘試験、第一試合『蛇塚シャガナVS山田&田中』を始めるぞ~~!」



 肩車されたモヨコ先生が叫んだ。


 戦闘の舞台となる大枠の中には向かい合う三人が。

 俺たち受験者は白線の外より見守る形だ。



「さてどうなりますかねぇ、この戦い?」


「む……むッ!?」



 俺は十五歳くらいの赤髪の少年に聞いてみた。


 村正ショウゴくんだ。『俺の刃がッ、いつかおまえを断罪するぜッ!』と主人公セリフを吐いてきた子だな。



「空鳴カナタッ、いつの間に!?」


「ああ、『気配遮断』で近づきました」



 騒がれると面倒だからね。



「ショウくんどうしたの……って、ひえぇえええぇえっ!?」



 こちらに気付き、ショウゴくんの隣にいた女の子が叫んだ。


 和風美少女の藤堂アザカさんだな。

 霊力測定でAランクを出してたのに、妙に自信なさげだった子だ。


 俺なんて一周目はDだぞこのこのこのこのこの。



「カナッ、空鳴っ、カナっ、どうしてここにぃ……!?」


「アザカッ、安心しろ! おまえのことは俺が守る!」



 ショウゴくんがバッと腕を広げてアザカさんを庇った。



「幼馴染の俺を信じろ。どんな凶悪な敵だってブッ倒してやる……!」


「ショウくんっ……!」



 え、なにこの主人公とヒロイン。めちゃ青春してんじゃん。

 俺が敵扱いなのは気に入らんけど、甘酸っぱいねぇ~。

 思わず笑みが零れちゃうよ。



「フフッ、警戒しなくてもいいですよ。自分とも仲良くしてくださいな、ショウゴくん?」


「むむっ……!?」


「それでどう思います? 試合のほうは」



 改めて問いかける。すると彼はなぜか咳ばらいをしたのち、こちらを最大限警戒しながら、



「……そんなのは、蛇塚の勝ちに決まっているだろう」


「へぇ?」


「俺も元は村正家の人間だ。官位・従一位の家の者として、霊奏師界の闇はそれなり以上に知ってるさ。権威や金でヒトを従わせるヤツばかりということも……蛇塚家がその代表例ってこともな」



 ショウゴくんは蛇塚シャガナを睨み、次に山田くんと田中くんのほうに哀れみの目を向けた。

 察しているのだろうな。あの二人が脅される立場にあることを。



「なるほど。では自分は山田くんと田中くんが勝つことに賭けましょう」


「な、なに?」


「もし自分が勝ったら、ショウゴくんの〝元は村正家〟って部分について教えてくださいな」



 そう言うと「だ、誰が教えるか!」と怒られた。

 いやすまんね。気になったもんだから。



「というか勝つわけないだろ。十中八九、あの山田と田中は脅されていて……」


「大丈夫ですよ」



 ショウゴくんに告げる。

 俺が善良な人間だと信じてもらえるように。



「自分が、二人を自由にしましたからねぇ?」




 ◆ ◇ ◆



 そして蹂躙が始まった。

 モヨコ先生の「はじめぇーーー!」という言葉と共に、シャガナくんが動く。



「いくぞぉ! 巫術発動ッ、我が身に宿れ【アオダイショウ】!」



 腕に半透明の蛇を顕現。それを自身の内に取り込むや、彼はまさに蛇の軌道で素早く駆けた。



「シャァアアアーーーーッ! 嬲り殺してやるぞォッ!」



 相手は抵抗しないと思ったか。両手を同時に振るい、山田くんと田中くんを同時に殴ろうとするも――、



「「死ね」」



 瞬間、二人は同時にストレートを放った。

 クロスカウンターとなってシャガナの顔面に突き刺さり、彼は「ぶひゃぁあああああ!?」と喚きながらぶっ飛ばされた。

 鼻から大量に鮮血が噴く。



「いぎぃいいいぃいいっ!? おまっ、おまえらっ、何を!?」


「「ハッ」」



 鼻を抑えて喚くシャガナ。対する二人は微笑んだ。それは『嘲笑』だった。



「何をって、なんですかぁ蛇塚様?」


「正々堂々とした試合をお望みなんでしょう?」



 クスクスと笑う二人。


 そんな彼らに蛇塚シャガナは顔を赤くし、「ふざけるなふざけるなふざけるなっ!」と怒鳴った。



「わ、わかっているんだろうなぁ!? 俺は蛇塚の跡取りだぞ! おっ、おまえらの家と、アレだぞぉ!?」



 カメラの手前、咄嗟に言葉を濁すシャガナ。


 だがその様子から『何かある』というのは丸わかりだ。

 リポーターが訝しげな顔をし、他の霊奏家の者らが「やはりな」と鼻で笑った。

 シャガナと風貌の似た父親らしき男は「そうだっ、下僕どもに言ってやれ!」とシャガナを応援していたが。



「山田ァッ、田中ァッ! おとなしくやられないと、おまえたちの家を……!」


「「ハハッ」」



 再び、嘲笑が返る。

 山田くんと田中くんは笑った。それから深く溜息を吐いた。



「つまらない男だ。こんな男に仕えていただなんて、虫唾が走るよ」


「〝あの方〟に比べたら、まさにゴミだ。許せないな……」



 ぶっ殺してやろうか――そう呟かれた瞬間に爆風が起きた。

 轟ォオォッ! と異音さえ上げながら、二人の身体から凄まじい霊力が湧き上がったのだ。

 蛇塚シャガナが「ひぃいッ!?」と喚いた。



「来い、【ゴライアスガエル】」


「やるぞ、【ヤドクガエル】」



 二人の両手に現れる概念霊。知性のなさそうな蛙の霊だ。


 頼りない下級霊に見えるが、そんなものは問題じゃない。

 どんな霊だろうが――霊奏師が圧倒的なら、立派な武器になるのだから。



「巫術発動、穿つぞ【ゴライアスガエル】ッ!」


「付術発動、侵すぞ【ヤドクガエル】ッ!」



 それからはもう、血みどろだった。


 山田くんか田中くんかどっちかわからん。とにかく【ゴライアスガエル】を宿したほうは、その瞬間に圧倒的な脚力を発現。

 一瞬でシャガナくんの下に迫ると、超強力な蹴り上げで彼を打ち上げた。



「ごぱぁああっ!?」



 次に片方は【ヤドクガエル】を水鉄砲に宿すと、宙に浮いたシャガナくんに乱射しまくった。

 噴き出される液体は死を思わせるような毒色だ。浴びた個所が瞬く間に爛れる。



「ぎゃぁあああああッ!? やっ、やめぇッ!?」


「「やめねェよ糞野郎がァアアアアーーーッ! 今まで散々コキ使いやがってよォオオオオオオオーーーーーーッ!?」」


「ひいいいいいいいいいいいいいいいい!?」



 あとはもうボコボコだ。

 それぞれが巫術・付術・符術・負術を霊力の限り使いまくり、シャガナくんをバッキバキにしていった。


 足舐めさせやがってよォオッ!? と叫びながら、大腿骨を蹴り砕く。


 その手で何度ぶちやがったァア!? と叫びながら、全ての指が散り散りになるまで手の甲を踏んだ。



「オレたちのッ、青春をッ、返せよォオオッ!」


「死ねよッ、死ねよォッ、クソボケがぁあああーーー!」



 涙さえ流しながらボコる二人。


 そしてついに、「「オラァーーーーーーーーッ!!!」」という裂帛の叫びと共に、どてっ腹に鉄拳一閃。

 シャガナくんが「ゴブァアアアアアーーーーーーーッッッ!?!?!?」と何リットルもの鮮血と内臓の断片を吐き出したところで……、



「しっ、試合終了ーーー! 勝者、山田と田中じゃぁああ!」



 モヨコ先生がドン引き顔で決着を告げたのだった。



「はは……(ひえぇえぇえ~~~、俺もここまでするとは思わなかったよ……!)」



 いや、嬲れとは言ったけどさぁ。完全に殺す勢いだったじゃん……!

 まさかここまで鬱憤が溜まってたとは思わなかったよ。

 これも因果応報ってヤツなのかねぇ。



「あぁっ、ああぁああっ、シャガナーーーッ!?」



 ギャラリーの中から男性が飛び出した。

 シャガナくんの父親だな。



「ごぱっ、ぁ、ああぁ~……?」


「シャガナッ、しっかりしろ! 我が息子よ!」



 全身爆散状態のシャガナくんを抱き抱えるパパさん。そうしながら彼は、山田くんと田中くんのほうをキッと睨みつけた。



「おっ、おまえたち、よくもこんなことをしてくれたなっ!? この下僕共が! 主家の跡取りに、可愛いシャガナに……こんな……こんな……!」


「「黙れよクソ親父」」



 二人は吐き捨てるように男を罵った。


 テレビカメラが映す中、山田くんと田中くんは悠々と歩むと…………ん?



「今の主君は貴様ではなく――この方だ……!」


「あぁっ、我らが王たるカナタ様……!」



 って、ええええええっ!? なんかうやうやしく片膝突いてきた!?


 いや主君ってなに!? 王ってなに!?



「こらこら、おまえたち。畏まる必要はないと言っただろう?(俺、友達になりたかっただけなんだけど!?)」


「「お戯れを」」



 戯れてねーよ!



「聞くがいい、蛇塚家の当主よ! 我らの鎖は、このカナタ様に断ち切っていただいた! もはや脅迫は通じんぞ!」


「カナタ様が我らを変えてくださったのだ! 殺意を解き放ってくださったのだぁっ!」



 あぁカナタ様カナタ様と喚く二人。

 その様子に、周囲の観客やテレビクルーは真っ青だ。



『なッ――なんということでしょう! 凶悪な戦いぶりを見せた美少年コンビッ、どうやら蛇塚家に脅されていたところを空鳴カナタに救われ、洗脳されたようですッ!』



 洗脳はしてねーよ!



「やれやれ……(なんかとんでもないことになっちゃったぞぉ……!?)」



 いや、たしかに声はかけたよ……!?

 脅されてたから助けてあげたし、俺が守るからボコボコにしちゃえ~~とは言ったよ?


 でも、まさかここまで心酔するとは思わないじゃん……!?



「洗脳とは失礼な! 我らがカナタ様に捧げる忠義は本物だ!」


「首だって捧げれるぞ!」



 いらねーよ。その過激っぷりが洗脳に見えるんだからやめろって~……!



「さて……」



 俺は隣を見た。

 善良な人間だと思われたかった、村正ショウゴくんのほうを。



「というわけで、山田くんと田中くんの勝ちですね。自分の言った通りでしょう?」



 俺が助けたからねっ。だから俺を善良だと信じてっ。


 そう思っていると、ショウゴくんは震えながら俺を睨んで……、



「やはり貴様は、邪悪な人間だ!」



 そそ、そうなりますよねぇ~!



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【Tips】


周囲の反応(放送後含む):


受験者たち「……邪悪だ……!」

テレビクルー「……邪悪だぁ……!」

視聴者「邪悪だぁぁああ……!」

テレビ見た不知火オウマ「やはり、邪悪か」


テレビ見たシイナさん「やったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああやっぱりめちゃくちゃ邪悪やあああああああああああああああああああああああああ―ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


総評: や っ ぱ り 邪 悪 な 魔 王


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