第57話 オウマ様と別れ/こんにちはドブモンスターズ
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10/4 2:00 前話、オウマへの詰問・リルちゃん買い取り周りなどにちょい追記しました! わかりやすくした感じです!
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「しゅぴぃ~……おとうさま……カナタさまぁ……♡」
「リルは眠ってしまったか」
晩餐会もなんやかんやで無事に終わった。
銀髪犬耳少女・リルをおんぶして石造りの玄関に出る。
食べまくって火照った身体に、涼しい夜風がちょうどよかった。
「ではな、オウマよ。仕事漬けで病に伏すなよ?」
「ふっ……業腹だが善処しよう。もはや俺一人の身体ではないからな」
気遣う俺に、見送りに来た不知火オウマは微笑を浮かべた。
実りある晩餐会だったよ。この人とは『共にニホンを覇権国家にする』って契約を結べた。
そこまではいい。そこまではいいんだが。
「いつか倒すぞ、カナタよ。世界を獲ったその果てに、貴様から未来を守るためにな……!」
「そうか……(えぇ~~~ん……!)」
やる気メラメラって感じで闘志向けられてるよぉ……!
「はぁ(どうしてこうなった)」
俺の目的はだいたい果たせた。
死罪人部隊『八咫烏』とは仲良くなれたし、不知火オウマとも深い話が出来て、いよいよ協力関係になれたよ。
……が、しかし。邪悪判定は未だ継続。
俺が世界掌握を目論んでいると見做されて、〝貴様を殺す〟宣言を受けちゃったよ。
「この不知火オウマとの決戦に向け、貴様はあらゆる手で洗脳奴隷を増やすのだろう。だが、度が過ぎれば誅させてもらうぞ。そして俺もまた部下を育てる」
「あぁうむ……(しらねーよ!)」
いやさぁ。たしかに歴史書き換えて、世界を自分がのんびりできるモノに変えたくはあるよ?
でも俺、全然悪いこと狙ってないからね? 悪いカナタくんじゃないよ!?
「――カッ、カナちゃッ、カナちゃッ……!」
「ぬぬ?」
どうすれば善良に思われるか考えていると、なんか糸目のお兄さんが這ってきた。
シイナさんだ。以前にも会った『八咫烏』の副隊長さんなんだけど、どしたん?
「ぼ、僕にどうか――見せてくれやぁぁあ……!」
まるで、水を求める遭難者のように手を伸ばしてきた。
「一体何を」
「見せてくれや、カナちゃん……! ムカつく連中、気に入らんモンを、全部愉快にぶっ壊していく、『空鳴カナタ』の覇道をォォオ……!」
とだけ言って、がくっとシイナさんは沈んだ。
っておいおい。酔ってるのか知らないけど、そんなところで寝たら風邪を……、
「……それまで、僕と生き抜こうなぁ、カナちゃん……」
「――」
その言葉に……ああ。
「――まったく。アンタは変わらず俺が好きだな」
膝をつき、硬い石床に投げ出された彼の頭をそこに載せてやる。
はは。
「やれやれ。我らがオウマ総帥も不器用なことだ」
「む、何のことだ」
俺はオウマに指摘する。
「死罪人部隊『八咫烏』。この世で最も罪深い戦士団。そこにスカウトする条件は〝稀有な能力を持っていること〟」
「そうだが、それが一体……」
「そして裏条件として、〝更生の余地が極僅かにでもあること〟だ」
「ッ!?」
世の中にはどうしようもなくなってしまった人間はいる。
いわゆる『サイコパス』というやつだ。先天的・あるいは後天的に脳が歪んでしまい、ヒトを心なく殺すようになってしまった者たち。
彼らは始末するしかない。
だが。
「『八咫烏』を設立した不知火オウマ。おまえは強力な手足が欲しかったほかに、まだどうにかなる戦士のことは、更生させてやりたかった。
「それは……」
「そして」
シイナ先輩を見下ろしながら、告げる。
「『八咫烏』の隊員が、千の任務を死なずに乗り越えた時。おまえはその者を赦し、新たな顔と戸籍を与えて送り出すつもりだ」
「ッッッ!?」
まぁ達成者は一人だけのようだがな。
いや、今のところはいないのか?
「そもそも『八咫烏』とは導きの神鳥の名だ。〝贖罪の果てに、新たな道を指し示す〟――そういう意志を込めて名付けたと見えるな」
「……はぁ。貴様は……」
やはり油断できんなと、オウマは呆れたように言う。
それから、
「それは、誰にも言う気がなかった情報だ」
…………えっ。
「答えんだろうが問う。なぜわかった?」
「それは……(未来知識で……いや)」
違う。
一周目の俺はモブ雑魚だ。善人だ。『八咫烏』と絡む機会なんてなかった。
邪悪な部隊の真相なんて知るわけがなかった。
なのに、俺は、何を言っていたんだ?
「貴様の
困惑するうちに顎を指で上げられた。オウマの血色の瞳と無理やり視線を合わされる。
「まさか貴様の瞳……全ての闇を暴く照魔鏡か?」
た、ただの目なんですけど!?
エディットこだわっただけの無課金装備なんですけど!?
「フン。流石は我が宿敵。契約相手に申し分ないな」
などと、謎に燃えているオウマ様。
なんかずっと元気だなこの人。
「本当に初めてだ。俺が恐れを抱きかねないほどのバケモノはな……!」
いや知らんっつの。
はぁ。俺は戸惑ってるっていうのに、一人でハッスルしやがってよぉオウマ様はよぉ。
「……まぁとにかくオウマ。おまえは少し、隠しすぎるということだ」
「む?」
「ロウガが『父上』と呼んでくるのを、否定しなかったこと。あれで愛情を伝えたつもりか?」
「む……」
む、じゃないんだよ。たぶん伝わってないと思うなぁ。
「オウマ……」
ちょっと関係が近づいてわかった。
この人――実は結構すっとぼけか?
こういうの、本人は気付いてないからタチ悪いよなぁ~。
◆ ◇ ◆
というわけで。
「ただいま」
「おっっそーーーーーーいっっっ!」
空鳴邸到着。
玄関をくぐると、エプロンをつけた横乳氷系美少女・セツナさんが仁王立ちで怒鳴ってきた。
ふぁっ。
「そんなに怒ってどうしたセツナ。今日は晩餐会に行くと言っただろう」
「そうですけどぉっ、そうですけどぉっ!」
プキュプキュと怒ってるセツナさん。
いや、マジでどうしたよ。
「カナタさんっ、まさか〝散歩に行く〟って言ったまま、一度も帰らずに向かうとは思わないじゃないですか! 半日以上もどこブラついてたんですかっ!?」
「あー」
たしかにそうだったな。
霊奏機関行って登録済ませたら帰るはずが、リル子のことを知って色々してきた。
「緊縛AV同人とデスメタルCDが並んだ治安の悪すぎる部屋しててわたくしをキャァーッてさせた次は、夜歩きでヤキモキさせるんですか!? 遠距離攻撃ですかぁ!?」
「部屋覗いたのかよ……」
あ~。並んでたのは俺の概念霊【一反木綿】と【空砲】のやつだな。
俺にそんな趣味はないからな?
「おいセツナ、話を」
「問答無用ッ!」
ピシッ、と。チアガールみたいに片膝上げながら指をさされた。
この人も元気だなぁ。
「わたくし知ってますよ。カナタさん、不良夫ってやつですよねっ。連絡せず家を空けたり、妻に相談もせずバイク趣味に走ったり、風俗に行って女性を買ったり……!」
「あー……」
「って、まぁカナタさんは赤ちゃんですからね。後者二つはしてないと思いますが……ん?」
セツナさんが、玄関の先に目を向けた。
――門のところに停められて寝ている、【バイク】くんへと……!
「って、あぁああああーーーッ!? なんか槍みたいな改造バイク停まってるーーー!? そそそそそそ、そういえばカナタさんが帰ってくるとき、バイクのブンブン音がしましたが……!」
「あぁうん、俺のバイクだ」
「ぷぴゃーーーーーっ!?」
セツナさんが聞いたことない奇声を上げた。
っていやいやいや待て待て待て。あれはバイクでも概念霊の【バイク】だ。
だからセーフだろ。……セーフだよな?
「ふ、不良夫! 不良夫赤ちゃん! ダークバブバブッ!」
「落ち着け。とりあえず話を……」
と、彼女を宥めようとした時だ。俺の影がモゾモゾッと蠢いた。
そして、
「ん~……うるさい、の。養豚場みたいな声がするの……」
「あ」
メイド服を纏ったイカぽて園児体型の女の子、リルが影から出てきてしまった……!
亜人【人狼】の能力で、俺の影に潜って寝てたんだが……。
「あっ、あっ、その子って、不知火リルですよね……!? 犯罪奴隷になったと聞きましたが」
「ん、そうなの。吉原でカナタさまに買ってもらったの……♡」
「吉原でッ、買ってもらった!?」
両手の小指と片足を上げ、セツナさんは謎ポーズで「役満じゃないですかァーーーッ!」と喚いた。
「バイクだけじゃなく女まで買ってるじゃないですかぁ! しかもペドッ!」
「ん、十億で買ってもらったの。リル、十億の女なの……♡」
「十億っっっ!? い、いくら裕福な霊奏師とはいえ、そんな額を動かしたんですかっ!? わたくしに言わずに!?」
あぁ、まぁな。
不知火オウマが急ピッチで利用を進めている幻想金属『
まぁこれからも概念霊装や巨大兵器の開発で、ガポガポ金が入る予定にはなってるが。
「ふッ……不良夫の極み……! ロンッ、国士無双ダーク赤ちゃん!」
セツナさん麻雀好きなのか?
「カナタさま、こいつうるさいの……」
「なっ、なんですって!? 不知火リルッ、アナタ、カナタさんを襲撃した犯罪者のドブ犬の分際で……!」
「おまえもなーなの。リル、おまえがカナタさま襲ったの知ってるの」
「なっ」
「カナタさまが許してくれたから無事だっただけなの。犯罪者のドブ豚が自分を棚にあげるな、なの」
「ななななななっっっ……!?」
あ~……。霧雨家のシャロちゃんとセツナさんが襲ってきたとき、ミチタカ父さんがオウマ総帥に電話したからな。
娘ならたまたま近くにいて知り得ることもあるか。空鳴家の敷地内だから模擬戦ってことに出来たが、そうじゃなかったら、セツナさんも断罪されて奴隷堕ちだったかもな……。
「え、えぇええええんっ! カナタさんっ、なんですかこの幼稚園児~!? こんな子が趣味なんですかぁ!?」
「園児じゃないの。これでも、十二歳のレディなのっ」
「どっちにしろ特殊性癖でしょうが!」
「むっ。ちょっと爆乳だからってムカつくの。ビッチなの」
「えぇ!? もしかして悔しいんですかぁ!? プ~クスクス! プギャーーーッ!」
「悔しくないのっ。おっぱいは所詮、育児の道具! 母乳出ない限りは付いてても無意味な駄肉なの……! このデブ」
「デっ、ハァァアアアアアアアーーーーーーッッッッ!? 言いましたねっ!? だったら母乳出してやりますよ! 『幽想肉変』で乳腺いじればイケますよたぶんッ!」
「おまえキショいのっ」
……睨み合う二人。
やがてポコポコ叩き合い「くたばれっ」「くたばるの!」とドブモンバトルを始めた二人からそ~~~っと遠ざかり、俺は風呂に入って寝た。
今日はもう疲れたからね……。
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【Tips】空鳴家人物紹介(カナタ評)。
リルちゃん:セツナ曰く、犯罪者のドブ犬。「可愛いけど口が悪い」
セツナさん:リル曰く、犯罪者のドブ豚。「可愛いけどうるさい」
【雪女】さん:「物静かだけどとても家庭的。ちょうど風呂から上がるタイミングで、ストーブ前で温めた着替えと、冷たい麦茶を持ってきてくれた。『ありがとう』と言うと照れながら消えていった。とても可愛らしい。時代錯誤かもしれないが、ああいう女性はいいなぁと思った」
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