第58話 おだやかな朝!/空鳴カナタという恐怖

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前話、シイナさんセリフなどを、投稿後一時間くらいで数文字修正。

赤ちゃん相手に痙攣ブリッジしてるだけのアラサーなのに

ヒロインみたいになってしまった・・・。

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 朝。空鳴家のキッチンにて。



「流石はマロさんがオススメしてくれたフライパン。すぐにちょうどよく火が通るな」



 中火にかけたフライパンにバターを落とす。じゅわっと心地よい音がして、豊かなバターの香りが広がった。

 よし。溶けたバターを薄く広げて、光沢のある下地ができたところで、卵をパッパカ割り入れる。つややかな黄身と濁りない白身。マロさん一押しのメーカー品なだけある。火が通ってすぐにプクプクッと焼けていった。



「おっと、こっちのフライパンも世話しないとな」



 別のコンロでは肉厚ベーコンも焼いていた。じゅうじゅうと肉の脂が溶け出し、フライパンに向いた面がカリカリになるまで熱を与える。油が跳ねる音。朝の静かな空気をほどよく賑やかす音色を聞き分け、それが小さくなったタイミングで裏返す。

 おっ、完璧だ。

 焦げ目は上々。香ばしさは抜群。カリッとした表面具合とジューシーな中の肉質の食感が一体となるよう仕上げられた。



「よし。卵のほうも見事に半熟。黄身が完全に黄色くなるまえに盛り付けて……はいできた」



 ふぅ。いい仕事したな。

 マロさんなら実際に口に並ばれるまでの時間も考え、『余熱すら利用して仕上げる』という謎技が使えるんだが、流石に無理だからそこは妥協だ。

 あの人すごかったな~~。



「さて」



 俺は鍋のほうを管理してるエプロン横乳空気嫁・セツナさんのほうを見た。



「味噌汁の調子はどうだ? 風味を崩さないために、沸騰する手前の具合を維持するんだぞ?」


「……って……」



 んん?



「な、なんでカナタさん料理できてるんですかぁ~~~! わたくしっ、必死にお勉強したのに!」



 うぉう。おたまを振り上げて怒ってきた。



「わたくしより手慣れた感じだしぃっ! エプロン似合ってるしぃ~~!」


「すまんな」



 プッキューッと怒るセツナさん。朝から元気だ。高血圧か?


 晩餐会の翌日。俺はそんな彼女と並んで料理していた。


 二周目ボディは大食漢だ。彼女一人の調理ペースだと俺を満足させるまで時間がかかりそうだからな。



「もうもうもうっ。カナタさんの飛び級チョモランマ赤ちゃんっ! おっぱい飲んでる時期の赤ちゃんが固形物食べれるだけすごいのに、『創る側』に回ることありますかぁ~~! 社会の歯車になるの早すぎぃ!」


「はは……(一周目では独身なのと、あと霊力が足りなかった。だから概念霊トリオによく料理を振る舞ってたんだよなぁ)」



 概念霊は擬獣化や擬人化しているパターンが多い。なので霊力が食えず空腹な時は、持ち合わせた舌でお菓子などの嗜好品を味わって気分をよくする傾向にある。



『オキャクサーン、リンパが滞ってますねェ~』


「んっ、んん~っ……!」



 居間に目を向ければ、チビロリドール【人形】がリルちゃんを極楽マッサージしてあふあふさせ、目隠れチャイナ美少女【空砲】がファックだの昨日母さん犯したぜだの歌ってる猥雑極まるデスメタルをリルちゃんに響かせてビクビクさせ、金髪全裸包帯だけ女【一反木綿】がアニメヒロイン緊縛ピンチシーン集(本人編集)を流してリルちゃんをあわあわさせていた。


 地獄かな?



「変態の光景だな……」


「カナタさんの霊たちはいやらしいですねぇ……。アレで全員、頭に霊光輪ハイロゥのある上級霊なんですから驚きですけど」



 かつてはよほど飢えていたのか、俺によくお菓子作りを求めてきた下級概念霊ズ。


 あいつらも今や霊力たっぷり食って上級霊になってんだから、まぁ嬉しいよ。

 俺がバケモノ扱いされるくらい霊力アップさせてよかったと思える点だ。相棒たちには満腹になってほしいからな。



「でもカナタさん。あの変態プレイが不知火リルに必要ってマジです?」


「マジですらしいぞ。【人形】の見立てによるとな」



 リルちゃんの体型は少々不健康だった。

 手足は細く、あばらが浮き、お腹だけは内臓が降りてぽてっとしている。

 ありゃ栄養状態の悪い幼児の体型だな。



「オウマが子供を食わせてないとは思えない。実際に晩餐会の席で、世話係だったという老執事にコソッと聞いてみたら、ちゃんとしたモノを食べさせていたそうだしな」



 あと老執事さんには『どうかまた来てください』と言われた。

 やだよぉオウマ総帥めっちゃ闘志ぶつけてくるもん……!



「食べているのに栄養失調ですか。それはやはり、不知火リルが亜人だからです?」


「だろうな。亜人とは概念霊との合いの子。現実の肉体が、



 人の細胞と、概念霊を構成する半霊体――つまりは幻想物体が交じり合った肉質を持つ。

 物理法則から軽く逸脱してしまうってことだ。今より少し未来で、霊奏研究者・『平賀サイナ』が発表していた。



「ちゃんと食事を摂っても、栄養が半霊体部分に飲まれて消えてしまう。逆に極めて小食でも、半霊体部分が多ければ平気なパターンもある。そのどちらかだとしたら、リルは前者だな」



 つまりは人間寄りの亜人ってわけだ。


 で、後者は概念霊寄りだ。先ほど思い返した様に、概念霊にとってヒトの食事は『嗜好品』。別になくても、霊力さえあれば生きていけるからな。



「なるほど。亜人とは不安定なんですね……。でもなんで、そこからあんな変態プレイを……?」


「ああ。【人形】曰く、〝ならば現実の肉体細胞を活性化させるノダー〟とのことだ」



 だからこその変態プレイ。

 マッサージされたり、デスメタル聞かされたり、ヒロピン緊縛アニメを見せられれば、なるほど肉体が刺激されまくるわけだ(後者二つが猥雑すぎる……)。

 半霊体と混ざり合った細胞。その中のヒトとしての部分が刺激されて発達すれば、栄養を多く取り込めるようになるだろう。

 いずれリルの身体も復調するさ。



「まぁ、俺的には【人形】のマッサージだけでいいと思ったんだがな。あいつのツボを押す手際は正確極まる。そっちのほうが刺激がソフトなぶん、今よりは時間がかかるかも知れないが……」



 そのことを話すとリルは断った。そして。



「『カナタさまの趣味、受け入れたいの……!♡』って言われて、ハードなほうを選んだよ……。俺にそんな趣味はないってのに」


「で、でもカナタさん邪悪ですし、実はちょっとくらい緊縛やスパンキング趣味があったりしませんっ!? わわ、わたくしは別にあっても……!」


「あるか馬鹿」



 セツナさんには何度も否定してるんだが、なぜか信じてくれない模様。

 なんでだよ!



 ◆ ◇ ◆



 朝食後。秩父山中にて。



「「本日は来ていただきありがとうございます、カナタ様……!」」



 俺は執事服の少年コンビ、山田くんと田中くんに頭を下げられていた。

 模擬試験で出会ってなんか覚醒した二人だ。彼らは無事に受かって霊奏師になっていた。

 所属は俺に合わせて埼玉にしたという。



「いいさ。それよりもさっそくいやらしい任務を振られたな」



 ――彼らは主家『蛇塚家』に反逆した。

 それにより蛇塚家に縁を持つ有力者、特別監督部署『老中會』のメンバーより、さっそくみみっちぃ指定任務を受けていた。



「〝【雑草】の眷属を一万体倒せ〟、か。まともにやったら数日かかるな」



 ――【雑草】。それは最上級概念霊の内の一体だ。

 地球環境を一変させ、古くより生きながらえ続けている存在。

 人類の言語を一つにした【統一言語】の概念霊などと同じく、『旧支配者』と呼ばれる内の一体だな。



「【雑草】の眷属は、今やほとんどの森林にいる。狩っても狩っても仕方ないんだがな……」



 ちなみに眷属とは、リルちゃんが出していたような血冥狼みたいな存在のことだ。


 本体の霊力や肉体の一部を与えられた分霊。それゆえ倒したところで、本体に痛苦はないってわけだな。



「あはは……でも定期的に狩らないと、増殖して街に降りてきちゃいますからね」


「報酬も安いですが、必要な仕事ですよ」



 二人はそう言うと、同時に視線を尖らせ、左右から『ザソ~~~ッ!』と喚いて飛び掛かってきた眷属に蹴りを入れた。


 太い草の束に手足が生えたような、妙に可愛らしい見た目だ。

 こいつらは数はヤバいけどとにかく弱い。人間の子供程度の力量か。等級としては最下級霊以下のため、駆け出し霊奏師用に討伐任務が常時受けられるようになっている。

 霊力少なめで懐の厳しい一般家庭出身者にとっては、安全な小遣い稼ぎにもなるな。



『ザ、ザソォ~……!』


「その鳴き声はどうにかならんのか?」



 蹴飛ばされた雑草らは消えていった。同時に山田中くんの胸ポケットに入った札がポッと光り、『1/10000』と刻まれる。

 機関の保有する概念霊【記録】の力を受けた呪符で、任務の達成具合をカウントしてくれるわけだ。便利だけど途中で投げ出すことも出来ない。



「相手は雑魚。だが流石に一万体狩ってこいというのは、いやがらせ以外の何物でもないな」



 それだけ倒すまで森の中を駆けずり回っていたら、疲労から負傷したり囲まれてリンチにあう、ってこともあるだろ。

 だから俺が来た。



「今日は任せておけ。有望な霊奏師にはすくすくと育ってほしいからな……!(俺を未来でラクさせるためにも!)」


「「カナタ様っ、やはり王の器……!」」



 感動する二人をよそに、俺は手にしたアタッシュケースを掲げた。

 そして、



「目覚めるがいい、『業魔絶鋼・地獄鳥』――!」



 赤い粒子を噴き出し、ケースが散って変形を果たす。

 腰の周囲を浮遊する十二の殺刃翼となり、さらに俺の頭には、魔法陣の如き疑似霊光輪ハイロゥが現れた。


 人間性の進化、超越――あるいは堕天。


 冒涜の『半概念霊化』をもたらす異能こそ、この概念霊装ケースの最大の脅威だ。



「さぁ、目につく限り吹き飛ばすぞ――!」



 幻子力破壊光――疑似核分裂の光を滾らせ、山中を翔ける。

 そうして俺たちは、数時間とかからないうちに【雑草】の眷属を滅ぼしたのだった。


 最上級概念霊【消失】が現れるまで、まだ一か月以上。

 この調子ならたくさんの霊奏師を助けて、しっかり準備して挑めそうだな!



 ◆ ◇ ◆




 ――暗い、暗い、世界のどこかの地の底で。


 老いぼれたひげ根を結い合わせ、ヒト型にしたような存在――最上級概念霊【雑草】は震えていた。



『オォ、オォ、我が傀儡が、消されていく……!』



 知覚するはニホン列島。その山中にて、瞬く間に消し飛ばされていく眷属たち。


 増えるよりも圧倒的に早い速度で死滅していく子らを感じ取り……【雑草】は、恐怖した。

 農薬を超える殲滅性――疑似核分裂の光を放つ『空鳴カナタ』を見て、こう思った。した。



〝このままでは、我は、消失けされてしまうのではないか……?〟



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・おだやかな朝(変態治療法実施中)


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