第59話 登場、プリティ~マスコット♡(※前科124犯)

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前話 10/5 14:20

リルちゃん治療シーンで金髪全裸包帯だけ女【一反木綿】のあたりを、

〝緊縛エロ同人見せて目の前でダッチワイフ縛ってる〟という文章から


〝アニメヒロイン緊縛ピンチシーン集(本人編集)を流してリルちゃんをあわあわさせていた〟に変更しました。


よく考えたらロリ相手に教育悪すぎるからです。

よくよく考えたらコイツ恰好からアウトです。

【一反木綿】、おまえ船降りろ。

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 ――霊奏機関・埼玉支部。その受付にて。



『縛っていいすかァ!?』


「ひえっ!?」



 ……金髪全裸爆乳包帯女【一反木綿】が、ここの女支部長、吉田キルヒアイス・サチコさんを脅していた。

 いや正確には口説いてるのか?



「な、なんでありますかっ!? カナタ殿の概念霊でありますよな!?」


「ああ。キルヒアイス支部長はとても流麗で美しいポニーテールをしてるからな」


「えっ、えへへ……!」


「それが縛り布を連想させて【一反木綿】を発情させているんだ」


「なんですと!?」



 概念霊は基本無性だが、コイツはどっちかというと男人格寄りだったからな。

 今はマイペースな妹分【人形】に無理やり改造されて、アレな見た目になっているが。



『縛ってッ、絞めていいっすかァッ!?』


「口説き文句がゴミすぎる。おまえはもう少し喋れるようになれ」


『……我長髪軍人風硬口調女性緊縛調教激好好!』


「黙れ」



 髪ひっつかんで魂魄内に戻した。

 おまえ教育に悪いんだよ。模擬試験の時も、少年たち追いかけ回して性癖終わらせてたしな。



「さ、流石はカナタ殿。あんな霊まで支配下に置いているとは……!」



 すみませんあんまり支配できてないです……!



「ともかく、お疲れ様でありました。……山田くんと田中くんの指定依頼、手伝っていただけたのでしょう?」


「まあな」



 気まずげに言う支部長に肩をすくめる。


 現在、山田中くんらは『【雑草】の眷属・一万体討伐』の完了報告をしているところだ。

 証拠として〝10000/10000体〟と書かれた霊符を提出している。機関保有概念霊【記録】の霊力を受けた札で、任務の達成具合をカウントしてくれる便利アイテムだな。



「典型的な『老中會』のいやがらせ任務でありますよなぁ。優秀な新入りの彼らとはいえ、駆け出しにはキツいであります。カナタ殿がその、現地で居合わせて協力してくれてなければ、何日かかったか……」


「そうだな。たまたま、だったな」



 俺は苦笑して答えた。


 まぁ抜け道だな。支部長が【バイク】を逃がしていたところを俺が仕留めたように、協力してやることはできる。

 ただしあのときと違って民衆に被害が出るような緊急性はない。そのため特別報奨金は出ず、タダ働きになるわけだが。はは。



「「あのっ!」」



 キッズたちが話しかけてきた。

 頭に蛙の霊を載せた執事風コンビ、山田くんと田中くんだ。

 どした?



「今回の報酬、百万ッ!」


「どうかカナタ様がお受け取りくださいッ!」



 えっ。



「いらん。おまえたちが使え」


「「ええっ!?」」



 いや驚かれずとも。



「おまえたちの装備に使うがいい。実家の細い霊奏師は、何かと入用になるだろう?」



 村正製の強靭な武器は一本数百万は下らない。

 また色々便利な呪符は、実は一枚一万円はする。あれ死罪人の皮膚を素材に作ってるからね。

 そして極めつけは幻想素材性の武具類。『業魔絶鋼・地獄鳥』のような特異な装備たちだ。そういうのを手に入れるには、数千万から億単位の金を注がなければいけない。


 ああ、俺も武器以外に装備揃えるのもいいかもなー。



「で、でもカナタ様……! 今回の任務、ほぼカナタ様がやってくれたようなものなのに」


「自分なんて、三億の借金を支払っていただいたのに……!」



 引き下がらない山田中くん。

 だからいいっつの。俺は二人の肩を抱いてやった。



「フッ、気にするな。言っただろう? おまえたちには、無事に成長してほしいと」


「「カナタ様ぁ……!」」



 俺を未来でラクさせるためにな!!!



「まずは駆け出しでもこなせる任務を重ねていくことだ。山田、田中、おまえたちには才能がある。どうか精進するがいい」


「「はいっ!」」



 頷く二人。そんな彼らを見て、吉田キルヒアイス支部長は嬉しそうだ。



「カナタ殿が入ってくれてよかったでありますなぁ! 今回の任務も、面倒なぶん貢献度は上々。埼玉支部の名声も上がるであります!」



 貢献度とは、どれだけ国家に役立てたかだな。

 概念霊【雑草】の眷属をプチプチ倒しても貢献度は推して知るべしだが、流石に一万体を一気に片付けたとなれば、しばらくは増殖して人里に降りてくることはなくなる。

 そのぶん、数減らしに出される霊奏師の手が空いて、他の任務に勤めれるようになる。無視できない功績だろう。



「よかったよ、キルヒアイス。出会った日のアナタは憂いていたからな」


「カ、カナタ殿……!」


「どうかこれからも笑顔でいてくれ」


「はひぃっ!」



 モチベ上げてガンガン働いて、未来で俺を助けてね~!




 ◆ ◇ ◆




『――おぉ、おぉッ! 流石は空鳴カナタ殿下……! すでに支部長の女は、アナタ様なしでは生きられませんなぁ……! 少年たちもさらに心酔した様子ッ!』


「む?」



 支部から出た時だ。埼玉の雑踏の中、どこかから少女の声が響いた。


 ……おいおいおい。また厄介ごとの匂いがするぞぉ。



『おぉっと。驚かせてしまったようで申し訳ない』



 謝る声。よく言う。

 驚かせて会話のイニシアチブを握るつもりだったんだろう?



『では自己紹介を。わたくしめは』


「霊媒師組織『逆十字』の長、平賀ナシロだな」


『なッッッ!?』



 逆に向こうが驚いたようだ。出鼻をくじいちゃって悪いな?



『な……なぜわたくしめのことを……!?』


「今の俺は『気配遮断』状態。霊力を抑えて命の気を消し、生命体ひとに感知できないようにしている」



 民衆の混乱を抑えるためだ。俺は恐怖の対象、もうご近所騒がせ無双はゴメンだからな。

 で。逆に言えば、



「今の俺に気付ける者。それはよほどの探知系霊能力者か――生命体以外に限られるわけだ」



 そして性別。芝居がかった口調。それらを踏まえれば対象は絞られる。



「禁忌の実験に手を染め、不知火オウマに断罪されたという元天才霊奏科学者」


『ッ……』


「だが死に際――そいつは自身の意識を電子上にコピーして、逃げおおせることに成功した。それが今のおまえ、形而上意識体:ナシロだ」



 そこまで言い当てる。

 すると沈黙の後、懐の携帯が震えた。取り出してみると……、



『あァああぁアァッ、素晴らしいッ! 大正解でございますッ、カナタ殿下ッ!』



 画面が勝手に光る。

 そして表示されたのは、いかにもアニメチックな、丸~い白猫の顔面に蝙蝠の羽が生えた、なんとも珍妙なアバターだった。



『予想以上! 予想以上ですッ! 流石はわたくしめの見込んだ御方っ!』



 うげっ。なんかホログラムになって飛び出してきた。

 携帯にそんな機能あったか?



『あ、携帯ですが改造しました』



 改造するなっ。修理受け付けてくれなくなるだろうが!



『いやぁハッハッハ。カナタ殿下は全てを見通してしまいますな。あの憎き不知火オウマが〝照魔鏡の瞳〟と評するわけです。……そもそもわたくしめが生きていることに、よもや気付いていたとは……!』


「買い被るな」



 未来知識によるものだ。


 この顔だけネコちゃんは現状、ネットの海に隠れ潜んでいる。

 再び社会に現れるのは三年後。自身の組織『逆十字』を復活させ、理性の沸いた狂亜人軍を世界中に放つのだ。

 生殖器の徹底改造されたソレらは男も女も際限なく犯し、孕み孕ませ、ウサギのごとく一か月程度で新たな亜人を多産量産させた。あの年はもう地獄だった。



「はぁ……(逆にそのおかげで亜人研究が進み、リルの治療に役立ったのは皮肉だが)」



 ――ともかくコイツはとんでもないことをやらかす女だ。

 だが、そんなことをした目的は、



「『人類の覚醒』だ。おまえは人間を、〝上位の領域〟に導きたかった。強くしたかった。だからこそ亜人という、不安定な存在に可能性を見出した」



 亜人兄妹・ロウガとリル。彼らを生み出した者こそ、このネコちゃんコウモリだ。



『あぁっ、大正解でございます、カナタ殿下ぁぁ……!」



 恍惚とした声音で鳴いた。人間の姿ならとろけきっているだろう。



『そう。不安定ということは、どうなるかわからないということ! 実際、ロウガめはアナタとの戦闘で狂乱し、上級概念霊へと進化しかけました。親となった【人狼】は、せいぜい中級だったというのに……! 【人狼】の劣化コピー体なのにですよっ!? 素晴らしいッ!』



 デフォルメボディでぽんぽん跳ねている。

 やれやれ、楽しそうにしてるな。

 超怖い犯罪者女のくせによぉ……。



『フフッ、フフフフッ……! 間違っている自覚はありますがねぇ。それでも、ヒトという概念を破壊したかったのですよッ! 子供の夢見る最強の存在に変貌させたかったのですッ! そのためにわたくしめは霊奏機関を裏切りっ』



 ――は?



「間違ってないと思うぞ?」


『っ!?』



 俺は彼女を肯定した。

 間違っている? 何を言っているんだ?



「たしかに、おまえは罪を犯したな。霊媒師に堕ち、違法に人体実験を繰り返した。同情の余地はないさ、殺されたのも当然だ。恥を知れ」


『は、はい』


「だが、〝人を進化させたい〟という願いは何も間違っていないだろう?」


『ッッッ!?』



 罪と理想は別の話だ。

 マラソンでドーピングするのは最悪だとしても、〝速く走りたい〟〝一番になりたい〟という願望は、決して間違いなんかじゃない。



「人の進化。覚醒。結構じゃないか。問題もまぁあるだろうが、弱いよりはマシだ。なにせ人類は、概念霊という存在に振り回され続けているのだからな」



 世界中に跋扈した【雑草】。

 未知の生命を生み続ける【海洋】。

 徐々に地球を温暖化させていく【太陽】。

 全人類を洗脳し、永劫成長する【資本主義】。

 消えた瞬間の混乱こそが恐れられる【統一言語】。

 そして……永遠に概念霊を生み出し続ける【概念霊】。



「『旧支配者』と呼ばれる霊たち。それらを屈服させられない限り、ヒトは永遠に苦しむことになるだろう」



 弱さは苦痛だ。スペック不足なら前世で山ほど味わった。

 何度も何度も思ったさ。もっと、強く生まれたかったと。



「だからナシロ。おまえの願いは正しいよ。誤りがあったとすれば、ただ焦りすぎたことだけだろう」



 彼女は人を強くしたかった。

 逆に言えば、今の人類は弱いと思っていたわけだ。

 つまり。



「おまえは、優しい女だな」


『なっ――なぁっ!?』


「倫理的なルール下では、無法に比べたら結果を出すのは遅くなる。そうなれば弱い人類は滅んでしまうかもしれない。だから焦った。霊媒師に堕ちた」



 全ては。



「ヒトの未来を、思ってこそだろう?」


『……!!!』



 アバターの猫は、震えた。

 そして。



『あっ、あぁあぁぁあっ……まさか……! まさかわたくしめのことを、ここまでわかってくださる方がいるなんて……! 優しいとまで、言ってくれるなんて……っ!』



 少女は声を涙に染める。それから彼女は喚き散らした。



『誰も聞いてくれなかったっ。いつ人類が滅びるかわからないッ、もっと自由な実験をと吠えても、誰もが言うのですよ。〝悪い想像をしすぎだ〟と。そして――〝もしものときは、オウマ様がいる〟と! なんだそれはふざけるなァッ!?』



 ネコアバターがフリーズし、ざざざっとノイズが走るばかりになる。

 彼女の激情に仕草が対応できないのだろう。

 それほどまでに、研究者ナシロはキレているのか。



『たしかに彼は強いでしょうッ。人類の外れ値でしょうッ! だからとて、依存してどうするのかと! そのオウマも人間である以上、いつどんなことがあるかわからないのですよっ!?」



 あぁ正解だよ。

 実際オウマは、約五年後に帝国リベルタリアの手で廃人となる。



『だからこそわたくしめは……!』


「霊媒師に堕ち、違法な実験を繰り返した、と」


『ええ……。今回アナタ様に接触したのも、組織を作り直すためでございます」



 申し訳なさげにナシロは告白する。



『今や自由な電子生命となったわたくしめですが、過度な移動やプログラム改ざんは負荷が蓄積しましてねぇ。日に三時間ほどしか起きれず、組織の再編にも時間がかかりますゆえ』



 なるほど。だから俺を代行者に選んだわけか。


 電子の海に潜ったナシロは、逆に言えば、現実の物体に干渉することが難しい。

 亜人を作るための装置設営だの基地の作成だの母体の拉致など、それには人の手が必要になる。

 


「ああ、いいだろう。おまえと契約してやろう」


『カッ、カナタ殿下……!』


「ただし、ルールを破るのはなしだ。無許可の違法は全て禁ずる」


『っ!?』



 彼女はショックを受けている様子だ。

 それでは結果が出るのがいつになるのか、と。殿下もつまらないルールに縛られるのかと、呻いていた。

 おいおい、勘違いするなよ?



「ルールなど、変えてしまえばいいだろうが。未来の世界の支配者の下でなぁ……!」


『んんっっ!?』



 驚くことじゃあない。

 そもルールとは、強い者が決めるモノなのだから。



「いずれ世界には明確な支配者が現れる。その者の敷く新たな法の下、合法的に、全面の協力と称賛を受ける形で、今度こそ研究に励めばよかろう?」



 違法は所詮、違法。

 短期の加速は出来ても、合法のマンパワーには最終的に劣ってしまう。

 隠れ潜むための労力もダルいしな。


 だからこそ、未来の世界の支配者――不知火オウマの下で、堂々と研究すればいいってわけだ!



「世界を牛耳るほどの支配者なれば、倫理を多少緩めたとて、〝概念霊に勝つために〟と絶対正義を振り翳せば黙殺できる」


『は』


「実験道具も各国の死罪人から選び放題となるしなぁ。なにより、研究者だって優秀な連中を世界からダース単位で集められる。それらを全て合法に行えるのだ!」


『は、はは……!』


「どうだぁナシロよ? まだ、違法にこだわるかぁ? 人類を救う大業を、子ネズミのようにコソコソと行いたいかぁ!?」


『ははははははっ!』


「チンケな犯罪者じゃぁなく、誰もが憧れる大科学者になりたくはないかぁ!?」


『あっははははははぁーーーーっ!』



 彼女は爆笑した。心の底から楽しそうに。そして。



『あぁ殿下ッ! ナシロは、胸を張って大科学者となりたいです! 世界の支配者様の下でッ!』



 力強く答えてみせた。

 アバターネコのラクガキみたいな瞳が、輝いているように見えた。



「いいだろう。どうせ本物のおまえは死んでいる。みそぎは命で果たされた。ならば生まれ変わったつもりで正体を隠し、正義のフリをするがいい」


『ハハァッ! 全てはアナタ様の命じるままにっ!』



 一頭身のネココウモリボディで黙礼するナシロ。


 それから、



『カナタ殿下――未来の世界の支配者様ぁッ!』



 ん、んんんんんんっっっ?



「いや(おまえ何言ってんだ!? 俺じゃないぞ!?)」



 世界を獲るのはオウマだぞ!? だって支配者の座なんて俺いらねーし!



『うおおおおおおおッ! カナタ殿下を絶対に支配者にしてみせますゆえぇ~~~ッ!』



 やめろ!



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【Tips】


電子意識体ナシロちゃん:可愛いネココウモリちゃん。

オンライン環境なら、あらゆる電子領域に可愛く潜入できるぞ!

前世は前科124犯くらい起こして死んだぞ!


※カナタにふわっと近づいた瞬間に素性から目的まで全部言い当てられたうえで自分の欲しい言葉と目標をドチャクソ与えられて秒で好感度60%くらいから120%オーバーになった。



不知火オウマ:「!? またカナタが邪悪に勢力を拡大した気配が……! うおおおおおおお負けんッッッ!」(気力+120%ブースト)

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↓途中でも『ご感想』『こうなったら面白そう』『こんなキャラどう?』という発想、また『フォロー&☆評価』お待ちしております!

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