第11話 今後の方針:歴史改変!
「二周目の生き方について考えねばな。どこか落ち着けるところに行くか」
霊奏機関総帥・不知火オウマの猟犬になった後のこと。
地下を出た俺は、とりあえずトイレに入った。しょんべんしてた男の子がビクゥッと俺見てビビッてしまった。
「なっ、なんで女の子が――って、『空鳴カナタ』!? ひああっ!?」
「いちいちフルネームで呼ばなくていいぞ」
「えッ、じゃ、じゃあ、カナタさん……?」
「それでよい。あとパンツを履け」
「わぁっ!?」
焦る男の子を放置して個室に入る。
そして、心臓の前で剣印を結びながら目を閉じて――、
「霊域、入界」
己が魂の中、霊域に入ることにしました。
落ち着いて生き方を考えるのと――あと、このクソボディを作った概念霊どもに、説教するためになぁああ……ッ!
◆ ◇ ◆
「……よくもあいつら、俺の身体をおかしくしてくれたな……!?」
霊域に入った俺は、自由に喋れるようになっていた。
姿形こそプヨプヨな人魂モードだが、あの凶悪ボディよりはマシだ。
「おーーい、出てこい概念霊トリオーーー!」
白い空間の中で怒鳴り散らしてみる。すると、
『あ、カナタだーーー!』
『っ……!』
『絞めていいっすか!?』
そいつらは頭上からふよふよと舞い降りてきた。
まず白ロリドールの【人形】。ちょっとだけ流暢に喋れるようになったらしい。
うん、こいつはいい。こいつはいいんだが……、
「あとの二体、誰だよ!?」
そこには知らない女の子たちがいた……!
一人はヒラヒラのミニチャイナを着た黒髪少女だ。顔はベールがかかっていて見えない。
その子の広い袖からは、腕の代わりに大口径の砲筒が覗いていた。
「……おまえ、もしかして【空砲】か?」
『っ、っ!』
コクコクと頷く【空砲】さん。
ってマジかよ。おまえ砲筒顔のブラックバスとかいうアホのキャラデザしてたじゃねーか。
そのツルペタボディどこで拾ってきた。
「で、そっちは【一反木綿】なのか?」
『絞めていいっすかー!?』
もう一人は……全裸の身体に包帯を雑に巻いた金髪巨乳痴女だ。ずっと笑顔ですげー怖い。
いや、おまえマジでどうしたんだよ?
前は布一枚のクッッッソシンプルな見た目だったのに、一気に立体化しすぎだろ。
その肉ボディどこで拾ってきた。
「おまえら……まさか『進化』したのか?」
『『『進化~!』』』
三匹の頭上に、天使の輪のような光の方陣が現れた。
「っ、
進化。それは概念霊に稀に起こる、魂の昇華現象だ。
多くの霊力を取り込むことで起こり、霊的効力が高まるという。
単純に火力が上がるのはもちろん、【草】の概念霊が薬液や毒液を出せるようになるなど、概念に関連する範囲で色々できるようになるとか。
『カナタの霊力、食べてソダチマシタ~!』
とフィリピンキャバ嬢みたいなイントネーションで言ってくる【人形】。
あーなるほど。俺が産まれてからずっと黙ってたのは、進化に必要な繭状態になる必要があったからか。
「ふむ……【人形】は『不変』の意味合いも含むからかあんま変わってないけど、他二体はヒト型になったか。下級霊からマジで一気に進化したな」
霊は進化するほど巨大になるか、あるいは逆にヒト型になるケースがある。
後者はおそらく、【人間】という概念は『神の似姿』と聖書で意味づけられているため、逆説的に
「【空砲】と【一反木綿】がメスだったことには驚いたな。まぁ概念霊に正確な性別はないけど、おまえらオスっぽかったし」
『『繭の中に手を突っ込まれて【人形】にイジられました……』』
「あっ」
二匹が初めてまともに喋った上、目が死んでる表情を見せた!
そ、そうか、おまえらもキャラデザ担当【人形】さんの被害者だったか……!
「って、そうだよオイ! おまえら、俺のリアルボディが偉そうなこと喋るんだけど、これおまえらの仕業だよな?」
『『『マスターには胸を張って生きて欲しいので脳神経イジりました』』』
「発想がこええよ」
の……脳神経って。それで心から身体に出力される言動がおかしくなってるのか。
くそっ、そういえば産まれる前に気絶したとき、神経がどうのこうの聞いて来てたな。
生返事で許可しちゃったよチクショウ……!
「じ、事情は分かった。生返事で許可した俺が悪い。それにたしかに卑屈なところはあるからな、俺。そんな俺を思っての行動なら大きくは叱れん」
それを踏まえて、だな。
「あー……性格を考えたのはお前ら三匹として、実際に神経をイジったのは、【人形】だよな」
『ハイ、工場長デス』
工場長ってなんだよ。
「あのぉー、子宮から出荷した後で悪いんですけど、俺の肉体、今から神経を元に戻すことは……」
『誤発注ッッッ!』
「!?」
『誤発注後の責任は負いません。どうかご了承ください。サヨナラ』
と言うだけ言って、人形はどこかにプカプカ飛んで行った。
……って、
「おい待てッ、そもそも意識朦朧な俺に神経イジる提案してきたおまえも悪いだろッ!?」
そもそも発注依頼を考えたのおまえ自身じゃねーかよ! 責任少しは負えコラッ!
「おい工場長!」
『定時なのでカエリマス』
「ホワイトゴミ企業!」
【人形】はそのままマジでどこかにプカプカ消えていった。くっそー。
「はぁ、あいつ自由過ぎるだろ……。まぁどうせ、産まれた後に脳神経を改造するのはリスク高かっただろうからなぁ……」
それで二度目の死とか勘弁だ。
どうにかこの身体と付き合っていくしかないか。幸い、スペックだけはあるから早々には死なないだろうしな。
「よし、この件は一旦終わり。おい【空砲】に【一反木綿】、二周目の人生について考えるぞ」
『『???』』
こてっと首を捻るチャイナ美少女と金髪痴女。
こいつら、知性面はあんまり成長してないのかもな……。
「じゃあ一方的に喋ってくぞ。まず、二十三年後に現れる【回帰】の概念霊についてだ。時空さえゆがめるような前代未聞の存在……アレは霊の出現ルールに基づき、公には出来ない」
多くの者、あるいは意志の強い個人が特定概念を意識することで、霊は現れるからだな。
――そもそも俺と、霊三体。
こいつらが出現を意識しちまってる時点で、二十三年よりも早く現れる可能性があるが。
「ともかく【回帰】のことは話せない。でも手を打たないわけにもいかない。だから俺は、自分自身と、出来れば周囲を育ててやると決めた」
そこで、だ。
「途中で死んじゃうような有能な人材。その人たちを、助けてやろうと思う」
『『!』』
霊二匹が驚いた様子を見せた。
わずかに上がった知性で、察したようだ。
「そうだ。俺は、歴史を変えていこうと思う」
有能で優秀なのに、概念霊との戦いで死ぬ人。そんな者は後を絶たない。
直近なら、もうすぐ【消失】の概念霊が現れるはずだ。
そいつとの戦いで霊奏師が大勢死ぬ。だがそこで、俺が手を貸せば……、
「優秀な人材を残して、いつか現れる【回帰】との戦いに備えられる。それが俺の策だ」
だから出来る限り、そうした人たちを助けていこうと思う。
「あと、死なないまでも衰弱する霊奏師だな。そいつらも助けていく予定だ」
中でも筆頭は……不知火オウマだな。
彼は将来、大国『リベルタリア』の霊騎士大隊と一対十万で戦うことになり、勝利するも衰弱する。
四肢を失い、数多の霊に呪われ、臓器全てを毒に犯され、五感も総て脳機能ごと焼失する。
……なのに〝ニホンのために〟の一心で生きてんだからヤバいわ。
そもそも十万騎相手に勝利できてる時点で、バケモノだよ。
俺みたいな中身モブのニセモノとは違う、本物のバケモノだ。
「最強の霊奏師……不知火オウマ。彼を万全の状態で未来に生かすことが出来たら、大いに頼れる」
今の関係は最悪だがな。『貴様のような邪悪は初めてだ』とまで言われてしまった。
けど俺がニホンを害さない限りは殺さないだろう。
「歴史から退場する霊奏師たちを助けまくる。それが今後の方針だ。おまえらも、どうか協力してくれよ?」
『『ハァイ!』』
いい返事だ。それじゃ、
「帰りますかぁ。久々の我が家にな」
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【Tips】
進化:概念霊に起こる超現象。多くの霊力を摂取することで、より概念を自在に振るう存在へと変貌を果たす。
繭:進化中の概念霊の状態。敵性概念霊が進化を始めた場合、ここで叩くのが絶対の好機とされる。
なお【人形】は肉体的変化が少ないので高速で進化を果たし、他二匹の繭をイジった他、空鳴カナタの退廃的ワンピースドレスも(勝手に)デザインした。
霊研究者らはどういう意味のある物体なのか調べ続けたが、近年、特に意味はないことがわかった。
可愛いだけ。
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第二章:誕生編、終了。次回より第三章:霊奏術・特訓編!
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