第33話 開戦、ドブモンバトル!
――休憩時間。
「ミチオお兄様、お弁当を」
「誰が貴様なんかと食うか!?」
知ってるよ。
「いえ、山田さんと田中さんに返してきてください」
「なぁッ!?」
顔を真っ赤にするミチオ。おやおやぁ?
「何を勘違いされたんですか?」
「だ、黙れ!」
ミチオ兄さんは怒鳴ると、肩を怒らせながらどこかに消えてしまった。
はぁ、捧げられたお弁当どうすれば……。
『ワタシが行ってくマス!』
「お、【人形】」
俺の憑霊【人形】さんが飛び出してきた。
なんか珍しくやる気満々だな。
普段は俺の魂内でフィギュア雑誌読んでるんだが。
『返してくるマス!』
「おぉ、じゃあ任せることにするか。二人に必要ないと伝えてくれ」
『ガッテンダー!』
十代半ばの少年コンビ・山田くんと田中くんに捧げられたお弁当を預ける。
『ンショォ~』
ちっちゃい【人形】は自分よりも大きな弁当箱を二つ下げ、少年たちのいる方向にふよふよ飛んで行った。
これでヨシだな。
『カナタ様がイラナイって~。オマエラ〝必要ない〟って~』
「な、なんだよ? ――って頭に
「こいつたしか空鳴カナタの憑霊だ! うわあああああああきっと弁当の中身に不満があったんだぁああ!? 殺されるぅううううーー!?」
『キャハハハハハハ!』
全然よくなかった。
「あいつは何をやってるんだ……」
少年たちをさらに怖がらせていた。
あのキッズたち、〝必要ない〟っていうのを自分たちの命だと勘違いして逃げ回ってるよ。【人形】も追いかけてるしさぁ。
「おい【人形】、そのへんにしてやれ」
『おぉ、カナタ様のお許しが出たゾ! 喜べ少年タチ!』
「「は、ははぁ~~~~ッ!」」
なにをやらせてんだっつの!
「はぁ……(間接的に俺がビビられるような真似してどうするんだよ)」
もしや、俺の二周目人生がドマイナス評価になっていくのを楽しんでるのか?
泣くぞ? 泣くぞ?
「あ、カナタさんいましたね」
とそこで。クール系美少女のセツナさんが声をかけてきた。
「こういう場って困るんですよね。すぐみなさんに声をかけられるんですから」
うんざりと言うセツナさん。肩を落とすと胸が揺れた。
……そんな彼女の横乳は、子供たちのいる場でも全開だった。
すごい視線集めてるぞ? 性癖の破壊者か?
「うーん(これで不知火オウマに見込まれてて、他の霊奏師からも敬愛とか集めてるのは何なんだ?)」
俺とどこで差がついた?
「な、なんでわたくしのこと見つめてくるんですかっ」
「なんでも。それよりどうしました?」
「どうしましたって、お弁当ですよお弁当。マロさんが作ってくださった昼食、みんなで食べましょう?」
おぉ、そうだな。後半の模擬戦に向けて英気を養わねば。
「カナタさんは強い代わりに大食いなんですから。それだけが欠点ですよね。お嫁さんになる人が苦労しますよ……」
はは。二周目の俺の嫁さんになってくれる人なんて現状いないっての。バケモノ扱いだしな。
……それにしてもセツナさんは、俺によく接してくれるな。
出会いは最悪だったはずなのに。
「なっ、なんですか、その目は? またわたくしを罵る気です!?」
「いえ、セツナさんっていい人だなって」
「ふぁっ!?!?」
さーて、お弁当食べますか~~。
◆ ◇ ◆
「ほっほっほ。弁当に大切なのは『冷めても美味い』こと。それといったらやはり、おにぎりと卵焼きでおじゃるな。冷めることで逆に、風味が際立つでおじゃる」
「うめ……うめ……!」
マロさんの料理は相変わらず絶品だった。
絶妙な塩加減で握られたおにぎりは、鮭・梅干し・牛肉・明太子・ツナマヨ・エビ天・たらこ・角煮・高菜・いくらと、十種類もの具材バリエーションが存在。
またふわふわに焼き上がった卵焼きのほうにも、ホウレンソウとチーズ入り・ネギと桜エビ入り・カニカマとマヨネーズ入り・ひき肉とニラ入りと、これまた複数の味が。
それに定番メニューのからあげとウインナーに、魔法瓶入りの味噌汁も用意してくれた。
流石はマロさんだ。シンプルながら飽きず楽しめて、なおかつ美味い。マロさんの料理パワーは特號級だな。
「ふふん、気に入ったでおじゃるか?」
「うめうめうめうめうめうめうめうめうめ」
「って聞けでおじゃる! 相変わらず食いすぎでおじゃる!」
と、俺がおにぎり二十個目を食べていた時だ。
広場の中央から『お゛わ゛っだのじゃぁあ〝あ〝あ〝あ~~~!』と、凄絶な拷問を受けた果てにようやく殺してもらえるような幼女ボイスがハモって響いた。
目を向ければ、そこには地面にぐったり倒れた九人のモヨコ先生と、真新しい巨大水晶が。
「ひぃ、ひぃ、『殺生石』、再形成完了じゃぁ~~……! 霊力測定、再開できるぞぉおぉお……!」
「おー」
思ったよりも早く出来てよかったよ。
さっそくモヨコ先生に促され、待機していた子供たちが測定していく。
「つ、次は拙者の番でごじゃる!」
お、シャロちゃんだ。
俺はエビ天むすびを食べながら見守ることにした。
シャロちゃんのほうも俺に気付き、「カナタく~ん!」と手を振ってくれた。可愛い。
「シャァアアアロォアアアアアアアガンバッテェエエエエーーーーッッッ!!!」
セツナさんはうるさい。
「おぉ、霧雨家のクソガキじゃな」
「クソガキじゃないでごじゃる! キツネババー!」
「クソガキではないか……。それより試験までの自由登校期間、空鳴家で修行してたそうじゃのぉ」
霊奏学園は自由登校期間というのが多くある。
休んでようが授業に出ようがヨシ、という期間だ。
霊奏師資格を取ったらさっさと仕事に入れるようにだな。
また実家に呼ばれて社交パーティーや縁談の処理、あとは他家を出し抜くための秘密特訓にも使われる。
シャロちゃんはその期間にウチに来たわけだ。
「おっと、時間が押しておるな。では霧雨シャロ、始めるがよい」
「ごじゃ~っ」
シャロちゃんがやる気いっぱいで殺生石に触れる。
すると、巨大な水晶が下からジワジワと赤くなっていき……、
「結果、三メートル三分。霊力量はDランクじゃな。まぁ一般的じゃろ」
「ごじゃぁ……」
シャロちゃんはがっくりと肩を落とした。
霊力量についてはしゃーないな。
霊力量を増やすには霊奏経絡の拡張が必要であり、それは血管を増やすようなものだ。
一週間足らずで劇的に増加するわけがない。
……胎児の時なら別だがな。
「えぇ~~ん、カナタくんダメだったでごじゃるー! カッコよくSSSランクとか出してチヤホヤされたかったでごじゃる。Dランクとかカスでごじゃる~」
「おまえ喧嘩売ってるのか?」
「ごじゃッ!?」
あ、しまった。
一周目の人生が霊力量Dだったからキレかけてしまった。
「すみません。その発言は、Dランク以下の方が不快になると思いましたので」
「ななっ、なるほどでごじゃる……! 周囲の方々、しゅみませんしゅみません……!」
涙目でペコペコ頭を下げるシャロちゃん。いい子だ。
なお、その様子にモヨコ先生が「お、おま」と、微妙そうな表情で唸った。
「わらわの注意は聞かんくせに、カナタの言うことは聞くのか……!」
「カナタくんは暗黒イケメン美少女だから」
暗黒イケメン美少女ってなんだよ。
「それに比べたらキツネババアはチビのくせにキーキー言ってきて気に食わないでごじゃる。年下に指図されてるようで腹立つでごじゃる」
「おまっ、わらわは三百歳じゃぞ!? てかそれを言ったらカナタは0歳じゃろがいッ!」
「あとキツネババア、口調も変だし」
「おぬしが言うな!」
……相変わらずシャロちゃんはシャロちゃんだった。
「はぁ、本当にドブみたいな性格のガキじゃな。おぬしにはこれからも苦労させられそうじゃ」
そう溜息を吐くモヨコ先生。
だが〝これから〟なんて、一周目の世界じゃ存在しない。
シャロちゃんは一月半後、【消失】の最上級概念霊に殺されるからだ。
「ふむ……(二周目の世界では俺がどうにかしないとな)」
シャロちゃんはたしかに性格ドブだけど、死んでほしいほどドブではない。
一周目のように突撃しそうになったら絶対止めるさ。
彼女以外にも数十名以上の霊奏師が死ぬ予定だが、それもなんとかしてみせる。
じゃなきゃ、強くなった意味がない。
二十三年後――あるいはそれよりも前に現れるかもしれない【回帰】戦で死なないためにも、多くの仲間が必要だしな。
「ちょっとカナタさん、なにわたくしのシャロを見つめてるんですか!? あげませんよ!?」
「いりませんよ(霊奏師資格を得たら、仕事ついでにあちこち見回ろうかな~)」
ゆすってくるセツナさんを無視し、今後のことを考える。
先日の【
霊奏師の命を直接助けるだけじゃなく、色んなサポートの仕方があると。
たとえばだ。未来では霊媒師に堕ちる者を、今なら助けて戦力にすることも――、
「はぁぁぁああっ!? わたくしのシャロがいらないってどういうことですかぁ~!? 自慢の妹なんですけどぉー!」
セツナさんうるさっ。
「はいはい、じゃあ欲しいですよ」
「っ!? わたくしの妹のシャロを妹にする方法はたった一つ……まさか!?」
「はい?」
セツナさんがわけわからんこと言いながら赤くなっていた時だ。
目を離していた霊力測定の場から、「おぉおっ」という歓声が響いた。
「空鳴ヒナミ、霊力量Aランクじゃあ! 兄と同じくすごいのぉ~」
「ふんっ、じゃぁ弟と比べたらどうなわけ~?」
「こ、これ、イヤミったらしい聞き方をするな」
「チッ」
ヒナミ姉さんだな。
兄ミチオと同じく、性格が大変アレなレディだ。
あちらも大層荒れてらっしゃる。
「はぁ~、まぁいいわぁ。霊力量Aなんて一握りだもんね。ゲームのモブみたいにたくさんいる、Dランクと違ってさぁ~~?」
「ごじゃっ……!?」
ヒナミ姉さんは皮肉を言った。
五メートルほど離れているシャロちゃんに、ギリギリで聞こえるかどうかの声量でだ。
芸術技だな。ネズミのようにみみっちい、性格がドブの者にしか出来ない奥義だ。
「ヒナミッ、拙を馬鹿にしたでごじゃるか!?」
「はぁ~? アンタになんて話しかけてないんですけどぉ?」
「この性格ドブ女! 死ねでごじゃる!」
「はッ!? テメェこそドブだろうが! 死ね!」
……ドブモンバトル始まっちゃったよ。
「シャロォッ! アンタってば名家霧雨の生まれのくせに、ぜ~んぜん術が使えないカスだよねぇ!? お姉ちゃんに才能を吸われちゃったのかなぁ!?」
「おまえだってカナタくんに比べたらカスでごじゃる」
「はぁあああ!?」
どちらも美少女ではある。
だが、下水に住むエビとネズミの勝負に美しさなんて微塵もなかった。
「殺すッ! 後半の模擬戦覚悟してろよシャロガキッ!?」
「おまえがなでごじゃる、ヒナカス」
「誰がヒナカスよ!?」
好き放題に言い合ってらっしゃる。おかげで空気は最悪だ。
でも雰囲気的に、シャロちゃんのほうが優勢っぽいな?
「な、なんなわけシャロ。前まではすぐあーしに泣かされてたくせに……なんで言い返してくるのよ……!」
「シャロは変わったでごじゃる。もうおまえもミチオも怖くないでごじゃる!」
いいぞシャロちゃん。
「おまえらよりもっと怖いカナタくんに、激しいプレイをされたから!」
殺すぞシャロちゃん。
「は、激しいプレイってなによ!? まさかあーしより先に、オトナの階段を……!?」
などと話がセンシティブになってきたところで、モヨコ先生が「やめろぉ~!」と涙声で叫んだ。
子供がいっぱいいる場だからね。
おつかれさまです。
「おい黒服ッ、そのメスガキ共を黙らせろ!」
「ダブルメスガキ承りましたッッッ!」
「「もがぁ~!?」」
変態黒服さんは謎の超高速移動を発揮。ドブの者らを一瞬で制するのだった。
ロリの者の勝利だな。
「はぁ、やれやれなのじゃ……。まぁよい。ちょうど模擬戦の話をしていたから、聞くのじゃ」
手をパンパンと打つモヨコ先生。
俺たちは注目した。
黒服さんはなぜか赤面した。もうそいつクビにしろよ。
「さっきのメスガキ共……今から霊力測定を受ける者らを『後半組』としよう。彼らはこれから運動能力テストを受けなきゃなんじゃが、そうするとテストを終えて休憩を挟んだ『前半組』と、霊力の差が出てしまうじゃろう?」
そりゃたしかにな。
「そこで、じゃ! 既に休憩に入っている前半組は、これから前半組同士で模擬戦を行うがよい!」
あ~なるほどな。
それなら条件はイーブンか。
「そして前半組が模擬戦をしている間に、後半組はテストと休憩を終えれば、万全の状態で戦闘に挑めるからのぉ。そしてそちらも後半組同士で戦えばよい」
マッチングを半分にちぎったわけだな。
つまり、
「カナタァ……! 僕の主役人生を、返してもらうぞぉ……!」
ミチオ兄さんが睨みつけてくる。
俺は彼と戦うかもしれなくて、
「シャロォ……! あーしってば、アンタのことずっっっと気に食わなかったのよねぇ……!」
ヒナミ姉さんがシャロちゃんを睨む。
あちらはあちらで、ドブモンバトル再戦の可能性が高いわけだ。
「ふむ、なんというか」
俺は思ってることを口にすることにした。
「自分の関係者たちって、問題ある人ばかりですね」
「おぬしが筆頭じゃろうがっ!?」
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【Tips】
『ドブ』:「土(泥)腐」もしくは「泥深」を語源とする言葉。
広義において、下水が流される場所全般を指す。
とりわけ地下下水道は危険な場所で、明りに照らされた現代においても闇が満ち、こうした場所には人々からの〝何かが出る〟という意識が収束するゆえ、概念霊が現れやすい。
人々が滅多に近寄らないため、霊媒師らのアジトになることも。
霧雨シャロ:狡猾でイヤミっぽいヒナミのことを、ドブネズミだと思ってる。
ころす~!
空鳴ヒナミ:馬鹿で跳ね回るシャロのことを、ドブに住むエビだと思ってる。
ころす~!
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