第31話 胃袋が限界モヨコちゃん!

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※22:30まで霊力量AランクはDランクの二倍と書いてましたが、ご指摘を受け八倍としました。

一メートルごとに倍です。

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 殺生石を爆散させちゃった後のこと。



「こッ、この不良キングがぁ~~~! 霊力測定どうするんじゃぁ~~~!?」


「すみませんでした。悪気はなかったのです」


「悪気はない!? これくらい悪事の範疇に入らないということか!? おぬし将来何する気じゃぁ~~!?」



 モヨコ先生が涙目でめっちゃ吠えている。

 まぁーしゃあないよねぇ……。



「ああああああああああド鬼畜カナタめ~ッッッ! これで誰か大怪我してたら責任問題じゃぁ~~~! 模擬戦試験の前に、どーしてこうなった~~!?」



 現在、試験広場は大騒動となっていた。


 十メートルもの巨大水晶が大爆発して降り注いだんだからな。もう女性や幼い子供たちは阿鼻叫喚だ。

 黒服さんたちが「落ち着いてください!」と必死に宥めたり、だれか怪我してないか呼びかけている。

 しまったなぁ……。



「不知火オウマの魔犬め……! やはりアイツと同じくトンチキなのかぁ~……!」


「オウマ総帥のことが苦手みたいですね」


「あぁ、アイツは不良どころか善人だったが、〝祖国の癌にしかならない〟と言って不良と半グレといじめするヤツをボコグチャにして校舎を血塗れにして、クリスマスの夜には暴走族五百人とドンキで決闘して血の海にしてわらわはド責任問題に……」



 えっ、オウマ総帥の学生時代、メッチャ気になるんですけど……!



「そんなあやつが、ロウガやリルという亜人の子を預かって、今やヒトの親をやっているとは……って」



 しみじみとしていたモヨコ先生が、キッと俺を睨んできた。



「今は試験をどーするかじゃぁ! バカバカバカ~!」



 おぉう怒鳴られてしまった。

 霊力測定はもちろん一時中止だからね。ごめんね先生。くぅん。



「――モヨコ様、怪我人はおりませんでした。可愛い子供たちはみな無事です」



 と、そこで。

 ロリコン黒服さんがそう告げに戻ってきた。可愛いって形容詞いる?



「マジでか!? ほっ、なのじゃ」


「霊力持ちばかりゆえ、上手く防いだのかと。それにしても奇跡的ですが……」



 あーそれな。 



「大きな破片は、咄嗟に自分が砕きましたからね」


「なんじゃと鬼畜王カナタ!?」



 鬼畜王じゃねえよ。



「まあ、このように」



 俺は手をかざした。その指先からは、キィィイイイインッと超振動する極細の糸が伸びていた。

 それを見たモヨコ先生が目を見開く。



「うげっ、なんじゃその怖いの。それで破壊したのか?」


「安全のためです。これで自分が善良だとわかっていただけたかと」


「たしかに……って、そうなるかボケェ!」



 手を振り上げて怒られた。解せぬ。



「元はと言えばカナタッ、おぬしが殺生石を砕くからじゃろうが!」



 それはそうだった。反省してます。



「うぐぐぐぐ……。かといって、霊力を限界以上に注げばどうなるか説明しなかったわらわも悪いか……。〝備品の説明不足による破損〟となると、このモヨコの監督責任かコレ……!? いやでも、殺生石をパンパンにするヤツなんてこれまでの試験で一人もいなかったしぃ~~~……! うー!」



 いよいよ頭を抱えてしゃがみ込んでしまったモヨコ先生。キツネ耳もへたり込んで見える。


 うーーん真面目な人だ。

 すぐに自分の落ち度を見出したり、そこに責任を感じたり、本当に教師の鑑のような人だな。

 元社会人として好感が持てるよ。


 早くこの人に善良だと信用されたいな……よし。



「改めて、誠に申し訳ございませんでした」



 俺は真摯に頭を下げた。



「この空鳴カナタ、事態の収拾には全力で協力させていただきます」


「カナタよ……」


「なので」



 視線を上げて、俺は受験者らのほうを見た。


 ……その中のパニック状態で泣いている幼い子たちを。



「子供たちをあやしてきますね?」


「って、おぬしが近づいたらもっと怖がるわ~~!?」




◆ ◇ ◆




「――えー、というわけで。『一部の邪悪な受験者』が合法的に試験を破壊して他受験者らを恐怖させる脱法大惨事を起こしたので、予定を少々変更するぞ……」



 疲れ顔のモヨコ先生。彼女曰くこういうことになった。


 ①『霊力測定』が終わっている者らは、即『運動能力テスト』に移る。

 ②測定が終わってない者らは一旦休憩(先に運動能力テストをすると、霊力を消費するため)。その間に殺生石の再形成を行う。



「なお、運動能力テストを見るのは引き続きこのモヨコじゃ。黒服らに任せてもよいが、どっかのド不良がまたなんかするかもじゃからな……!」



 俺のほうをジーーーーーッと見られた。

 うぅ、善良だと思われたくて頑張ったのにどうしてこうなった……。



「ちなみに殺生石の再形成も急ピッチでやるから安心せい。あの通り、な」



 モヨコ先生が指をさす。

 そちらでは、九人のモヨコ先生が円を作って『ふぉぉぉおお~~~……!』と霊力を結晶化させていた。

 すごい光景だ。



「妖術、『瑞式・九影分身』じゃ。仮の肉体を九つ生み出して操ることが出来る。脳疲労するからあんましたくないがのぉ~……」



 お~流石は特號級霊奏師。便利な技を持ってるな。

 てか、可愛いし。



「一人貰っていいですかね?」


「やるか鬼畜ッ!」



 冗談ですから。

 ……でも黒服さんのほうはすごい残念そうにしてるな。そんなに欲しかったのか。



「ともかく九人がかりなら、数時間以内に殺生石は出来るじゃろ。その間におぬしらは運動能力テストをせい」



 よかったよかった。試験は中止にならず済むようだ。



「代わりにわらわは疲労困憊。さらに霊力はスッカラカンになるがの。……はぁ、特號級は国土防衛の要……〝戦闘任務外で霊力を五割以下とすることを禁ズ〟ってルールを破ることになる。どっちみち始末書確定じゃよぉ~……」


「ご迷惑をおかけします」


「ほんとになっっっ! この霊力量EXおばけがぁ~~~!」



 モヨコ先生に負担をかけてしまったが、ともかく試験続行は決まった。

 よし、それなら俺は前を向いて全力を尽くすだけだ。


 霊力量がすごいことはわかった。

 だがモブとして慢心はしないさ。

 二周目試験、改めて気合入れるぞっ!



「運動能力テスト、頑張りますね」


「おぬしはもう頑張るなっっっ!」



 気合を否定された。くぅん。




 ◆ ◇ ◆




 ――運動能力テストが始まった。


 内容は簡単だ。一般の学校でもやるように、


 ①ソフトボール投げ

 ②五十メートル走

 ③立ち幅跳び

 ④持久走

 ⑤握力


 を測るわけだ。


 なおこれは霊奏師としての試験。

 霊奏術の使用は模擬戦までお預けなものの、全ての項目において、『霊充四肢』と『霊力変換』の使用が認められる。

 つまりは概念霊に依存しない、『霊奏師としての素の戦闘力』を見られるわけだ。



「重要な要素だな」



 霊奏術を使用せずとも強いんなら、そっちのほうがローコストだしな。

 何より霊奏師が弱いと、己が憑霊に舐められて反逆されるケースもある。

 霊より強いくらいのところを見せつけないとな。



「では次のグループ、ソフトボール投げに移れ」


「おうさぁ~!」



 モヨコ先生に促され、数名の者たちが一斉にボールを投げる。


 ちなみにボールはヴァイキング商国製アラクネ繊維による特殊仕様。

 幻想素材から出来ているため、かなりの無茶に耐えることが出来る。



「見せてやるぜッ、正義の一投!」



 子供たちの中でも、元気に返事をしていた赤髪の少年が際立つ。

 大胆な投球フォームを見せる少年。前脚に踏まれた地面が軋む。『霊充四肢』により肉体が強化されているからだ。

 そして、



「燃えろオラァーーーッ!」



 ソフトボールが炎に包まれ、一気に空へと投げられた!


 投球する瞬間に『霊力変換』で炎を出したのだろう。それをブースターとして、ボールは前へ、前へと進み続けた。



「おぉっ、結果は――五五〇.五メートル! 村正ショウゴ、現状最高記録じゃのぉ~!」


「しゃオラァァアアーーーッ!」



 ガッツポーズを取る少年。本当に元気だ。

 てか村正ってことは、あの村正組の一族なのか。

 若頭のヒノスケさんには武器を作ってもらう予定だからな。手を振っておこ~。仲良くしようぜ~。



「むむッ!」



 お、こっちに気付いた。やぁショウゴくん。



「俺の刃がッ、いつかおまえを断罪するぜッ!」



 カッコよく宣戦布告された。なんでやねん。



「これ、カナタにちょっかいかけるな」



 モヨコ先生が注意してくれた。

 そうだそうだ、人を邪悪扱いするなって言ってやれ。



「こいつの瞳の奥の闇は深すぎて見えん……。たぶん性癖もイカれとるわ。怒らせると、緊縛調教ドM雌豚奴隷にされて家で飼われるぞ?」



 飼わねーよ。闇ねーよ。



「さて、次のグループに移るぞい。次は……げげッ」



 とそこで。モヨコ先生が嫌そうな顔を二段階した。

 まさか、



「山田、田中、それと空鳴ミチオに空鳴カナタじゃ」


「「む」」



 瞬間、俺と隅の方にいたミチオ兄貴の視線が合った。


 俺はまぁ、奇遇だねぇ~よろしくねぇ~って感じだ。

 反面ミチオのほうは……、



「クソッ、僕の主役人生の邪魔者めぇ……!」



 射殺さんばかりの眼光で睨まれました。

 くぅん。





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【Tips】


『鳥羽家』:京都の名門。官位は正一位。当主は二十四代目の鳥羽モヨコ。

皇族・鳥羽天皇を祖に持つ名家中の名家。

平安末期、鳥羽天皇が死闘の末に鎮めた最上級概念霊【九尾の妖狐】を代々の憑霊とし、『陰陽寮』および『霊奏機関』の重鎮としてその名を連ね続けた。

そして江戸時代に生まれた少女・鳥羽モヨコは【九尾の妖狐】と過去最大の同調率を誇り、三歳の頃に老化の否定と九回の蘇生復活権を身に宿して以降、三百年間当主を務めている。

五本の尻尾は、これまで五回死んで蘇った戒めの証。


なお、如何にもコスプレっぽい安物のキツネ耳とキツネ尻尾を身につけているのは、特號級霊奏師ゆえ戦場に引っ張りだこであるため。

「すぐ壊れるから、高いもん用意するよりそこらへんのドンキで買ったほうがマシじゃ~!」

とのこと。

教育者らしく、意外と質実剛健である。



ドンキ:正式名称は『貧瞋癡・喜捨商店ドンジンチ・キシャしょうてん』。

大東亜圏・十万か所にヤケクソのように店舗を広げるディスカウントストア。

仏教連合大総裁があらゆる欲を捨てた証とするべく、私財を尽くしてあらゆる商品を殺人的な安さで売っていることで有名。経営者利益を経営に全還元しているため逆にヤケクソみたいな勢いで膨れ上がった。


上級霊奏師ともなれば海外に派遣されることも多く、外国の味や製品に翻弄されることもある。

そんなとき、お菓子から猥雑なコスプレ品までニホンの商品を何でも取り揃えているドンキは、戦う霊奏師らの大きな味方になる。


二十年前には、ある店舗が不知火オウマの手により血の海となった。

鳥羽モヨコはド責任問題になった。


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