第18話 霧雨家RTA攻略カナタくん
「寝取られた寝取られた寝取られた寝取られたよくもよくもよくもよくも……!」
霧雨家のクール横乳お姉さん、霧雨セツナ。
十八歳にして壱號級霊奏師の才女。不知火オウマの覚えめでたい、未来の『霊奏機関』の重鎮だ。
「可愛いシャロが、こんなヤツに歪まされたぁ……!」
冴えない前世ではかすりもしなかった霊奏界のお嬢様。
そんな彼女が今、妹のシャロちゃんを俺に奪われたと勘違いしてキレていた。
死んだ目で俺を見つめながらブツブツなんか言っている。
え、きしょ。
「セツナお姉様! カナタくんは何も悪くないでごじゃるっ! ぜんぶ拙が悪いんでごじゃるっ!」
「うふふふふふ、そうですかそうですか。シャロはちょぉっと離れていてくださいねぇ……?」
シャロちゃんが俺を擁護してくれるが、セツナさんはまったく聞いていない様子だ。
ちなみにシャロちゃん、その言葉は『DV彼氏に洗脳された子が言いそうなセリフ』ベスト1だからやめてほしい。
「……空鳴カナタ。わたくしの妹シャロは、たしかに褒められた性格ではありません」
は、はぁ。
「野菜は食べないし、おやつは独り占めするし、末妹なのに一番風呂じゃないと気が済まないし」
「あの、霧雨セツナさん?」
「見た目だけは可愛い自覚があるから幼稚園では逆ハーレムを作っていたし、実家のケンタ(犬)のお尻に木の枝を入れてよく叱られていました」
「あの」
「ですがッッッ! アナタのようなツラだけはいい邪悪なバケモノに引っかかるなんて惨酷すぎます!!」
「聞いてくださいよ」
引っ掛けてねえよ。クールキャラはどうしたんだよアンタ。
「……村正製のクナイが、砕けていますね……」
セツナさんは地面に散った刃の破片を見た。俺がぶっ壊したやつだ。
「空鳴カナタ。どのような経緯があったのかは知りませんが、妹に手を出したのは事実なのでしょう。彼女を追い詰め、正気を奪い、それから優しくして篭絡した。まさに洗脳の常套手段」
あってるけど違うんだが!?
「わたくしの可愛いシャロに……生意気だけど、そこが最高に可愛い妹に……!」
彼女は横乳に手を突っ込むと、そこから無数の『呪符』を取り出した。
さらに傍らには冷気を放つ白無垢の女性が現れる。彼女の憑霊【雪女】だ。
っておいおいおいおい。
「セツナさん、まさか」
俺とやる気なのかよ……!?
「壱號級霊奏師、霧雨セツナ。愛の下にアナタを殺処分します――!」
そう言うとセツナさんは呪符をばらまき、高速でいくつもの掌印を結んだ。
そして、
「符術天蓋――咲き誇れ、【絶し命摘む氷柩庭園】!」
彼女を起点に、『空間』が変わった。
天は荒れ果てた寒空と化し、氷の城と花園が具現。一瞬にして俺は、セツナが作り上げた氷結の舞台に取り込まれた。
寒い。吐く息が、白を通り越して氷の塵となる。激しい吹雪が俺に向かって叩き付けられる。
これは。
「符術天蓋……。Aランク以上の符術使いが可能となる、空間そのものを霊的効力で染め上げる術か」
「ええ、よくご存じで」
付術の奥義が付術顕装なら、これはまさに符術の秘奥か。
薄目を凝らせばドーム状に呪符が張り巡らされている。
その向こうではシャロちゃんが空間の壁を叩きながら『お姉様っ、愛の形に口を出さないで! 他の人にはわからない絆があるんでごじゃる!』と叫んでいた。
DV彼氏に洗脳された子が言いそうなセリフやめろ。
また父さんは焦ってどこかに電話していた。もう父さんだけが良心だ……。
「ふむ……(セツナの背後に現れた城。よく見れば大量の呪符が内部に埋まっているな。あれが核か)」
世界を形作る呪符と、世界のシンボルとなる象徴。
それらを起点として特殊な結界を生み出すのが、この術だ。
一時的に空間全てが俺の敵となる。
「この『天蓋』はわたくしの世界。そして、アナタの死に場所です。この場所でならこんなことも……!」
鋭く剣指が向けられる。すると俺の手足が氷に囚われた。さらに、
「出てきなさい、氷像たちよ!」
セツナの周囲に、何百体もの氷像の武士が現れる。
氷の城と武士。それらに囲まれたセツナの姿はまるで、
「まるでお姫様のようですね」
「わたくしまで口説く気ですか!?」
ってちげーよ。アンタの中の俺の評価どうなってんだよ。
「この淫魔め。これ以上害を広める前に消してあげます! いけっ、武士たちよ!」
『――!』
声なき声を上げ、甲冑の軍勢が俺へと攻めかかってきた。その手には氷の太刀が。
「なるほど……」
前世なら絶体絶命の状態だ。
手足を凍らされ、何百体もの武装した相手に襲われて。それで平気なわけがない。
……だが。
「甘いな」
「!?」
俺の身体は平然と、氷の拘束から脱出した。
術なんて使っていない。全ては胎の中で構築した肉体スペックによる力だ。
そして、
「
達人の技術を模倣し、身体が駆動を開始する。
まずは『震脚』。地が揺れるほどの踏み込み。それによって爆発的なエネルギーを膝に貯め込むと、雷鳴のような勢いで氷像武士へと一気に接近し、肘を鋭く突き出した。神速の『頂肘』だ。その技は一撃で武士の胸甲冑を砕き、吹き飛ばした。放たれた武士はボーリングのごとく後方の軍勢を吹き飛ばす。
さらに右から刀を振るってきた武士には、瞬時の『双撞掌』で対処。攻撃を両手で挟むように捌き、カウンターの掌底を叩きこむ技だ。
それによってそちら側の武士たちもまとめて吹き飛ばすと、そのまま身体を流して左側の武士に足払いをかけ、一瞬だけ浮かし、
「八極拳・八大招式『絶招通天炮』」
無防備な胴体へ、掌底と拳撃の二重砲撃を叩きこんだ。一連の動作を亜音速で行うことで、武士共は総崩れとなった。
「なッ、なんですって……!? なんて、強さを……!?」
「セツナさん、ありがとうございます」
「えっ!?」
先に礼を言っておく。
「次は符術の修練をしようと思ってましたので、いい修行になりそうです」
煽りでもなんでもなくそう言った。
この身体にとっては、これくらいの死地の舞台こそが修練場になると思ったからだ。
「ほら、次の武士たちを出してくださいよ。これから符術で戦いますので」
「こっ、このぉ……!」
セツナの顔が、一気に赤くなる。横乳も少し赤くなった。
「へえ」
その変化にちょっと驚く。
未来では常に表情が変わらず、冷めた瞳をしていた彼女。
ずっと未婚でもあったことから、『氷の女』と揶揄している者もいた。
それが今はこんな表情をしてくれるのか。
「……シャロさんのことが、本当に大好きだったのですね」
なぜああなったのか二周目でわかった。
概念霊【消失】に殺されたシャロ。霧雨家の汚点。
そんな愚かな妹のことが、本当に本当に、大好きだったからか。
「いい顔をしますねぇ、お姉さん?」
「ッ~!? あ、アナタにお姉さんと呼ばれたくはありませんっ!」
おっと怒らせてしまったか。
彼女の怒気と共に、氷像共が再び大量に生み出され、さらに激しく突っ込んでくる。
それらを前に、俺もまた懐から呪符を取り出した。さぁやるか。
「符術発動、薙ぎ払え【空砲】」
『――!』
数十枚の呪符に分散憑依。それらをバラ撒くと、まるで爆弾のように空中で弾け、衝撃波によって何十体もの氷像を打ち砕いた。
そこからさらに、
「新技試すか。符術発動、操れ【人形】」
札の一枚に【人形】を宿し、適当な氷像武士に張り付ける。
瞬間、氷像武士はその場に固まると、氷がドロドロと解けて形状を変え、麗しい剣姫となった。
間違いなく【人形】の趣味だ。
『キャラデザ修正完了! イクゾォ!』
姫騎士――に宿った【人形】は満足そうに叫ぶと、周囲の武士たちを斬り刻んでいった。
スペックはほぼ同等だが、技が違う。ぎこちない氷像武士らと違い、【人形】の宿った氷像は鮮やかな剣技で無双していた。
ありゃ『
氷像が氷像に滅ぼされていく光景に、セツナが絶句する。
「なっ、わたくしの氷像が……!?」
「コントロールを奪いました。【人形】という概念には『操作』の意味合いも含まれますから。成功してよかったです」
他者の使い魔などの奪取。それは『負術』の範疇にも当たる高難度な行為だ。
おかげで【人形】こと剣姫が暴れるたびに霊力がゴリゴリ減っていくが、あまり気にしないことにした。
二周目の俺はバケモノだからな。
慢心する気はないが、前世のようなケチ臭い戦い方で小さくまとまる必要もあるまい。
リソースとは時に傲慢に使うものだ。アンタの妹との戦いで思い至れたよ。
「符術発動。揺蕩え、【一反木綿】」
さらに複数枚の呪符に【一反木綿】を宿し、周囲にばらまく。
するとそれらは俺の前で曼荼羅のようになり、怪現象を起こした。俺に吹き付けていた吹雪の『
「うぐぅっ!?」
腕を盾のようにするセツナ。無数の雪に激しく叩かれ、彼女の身体が白く染まっていく。
冷たい世界が創造主を追い詰めていく。
「わっ、わたくしの天蓋なのに、なぜこんな……!?」
「油断してはいけませんね。『符術天蓋』とは、限定された環境を作る技。環境なんて風向き一つ変われば、創造主にも容赦なく牙を剥くモノですよ」
「風向きって……まさか!?」
セツナは理解したようだ。
「【一反木綿】は自律飛行する物体の概念。その効力の宿った呪符に飛翔物が触れれば、たちまち【一反木綿】の支配下となる」
それによって吹き付ける『吹雪』を支配。
雪の散弾は方向を変えてセツナに襲い掛かるわけだ。
『あの女の子、絞めていいっすか!?』
あー……やめとけ【一反木綿】。
セツナを絞めたら、極一部がボンレスハムみたいになっちゃうから。
「くっ……やはり、バケモノ……!」
いつの間にか霧雨セツナは跪いていた。
身体は震え、露出した肌は真っ青だ。こりゃ低体温症を患っているな。
「ぁ、アナタのことは、お腹にいた時から恐ろしかった……! 魂に複数体の概念霊を宿し、日々霊力が際限なく倍増し、肉体もまた異様な変質をする始末……」
そりゃぁ、な。その恐怖心は理解できるさ。
俺もちょっとやり過ぎたって反省してるよ。
「不知火オウマが席巻する以前より、ニホンを守り続けてきた『霧雨家』の者として、見過ごせなかった……。アナタが少しでも暴虐の兆候を見せれば、殺す気でいた。霧雨の次期当主の責任として……!」
それは立派だな。けど、
「その責任、果たせそうにないですね?」
「うぐっ……!」
ついに倒れ伏すセツナ。
顔だけを上げて俺を睨みつけてくるも、もう限界みたいだな。武士も全滅状態だ。
「ありがとうございました、セツナさん。いい符術の勉強になりました」
俺は再び礼を言うと、剣指を結んで霊たちに呼びかけた。
俺の下に集え、とな。さて終わらせるか。
「巫術発動、宿れ【人形】。付術多重奏、響かせろ【一反木綿】【空砲】」
身体に【人形】を宿して糸を出した。
糸に【一反木綿】を憑依させると、自律的に動いて武士共の刀剣を拾い上げる。
さらに【空砲】を糸に宿し、何度も激しく発動すれば、糸を通して全ての刀剣が振動刃と化す。
それを見たセツナの表情が、恐怖と覚悟の入り混じったモノとなった。
「くっ、なんて凶悪な技……!? いいでしょう……殺しなさい……!」
「殺しませんよ」
やれやれ、邪悪扱いはやめてほしいものだ。
「う、嘘です! アナタのようなバケモノが慈悲などっ」
はぁ……。
「――いい加減に黙れよ
「っ!?!?」
あっ、なんかすごい悪口出ちゃった!
おぉう。イライラすると丁寧フィルターが外れるんだなぁ。セツナさん、絶句してプルプルしてるや。ごめんて。
「め、めっ、めすぶっ、雌豚ぁ……!? そ、そんな酷いこと、一度も言われたこと……っ!」
あーそりゃセツナさん美人でお金持ちだしな。ごめんごめん。
フレンドリーさをアピールするために、俺は出来る限りの笑顔を浮かべた。
そして、
「じゃあお姉さん。妹さん共々、どうか仲良くしてくださいね?」
そう言って、無数の振動刃を射出。
セツナの背後の城を爆散させ、氷結の天蓋世界を打ち砕いた。
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【Tips】
【雪女】:霧雨セツナの憑霊。物語などが形となった伝承的概念霊。
『万雪の中、男と共に暮らす』という概念情報的に『符術天蓋』とは相性がいい。
無口だが、妖怪だとバレるまで夫と暮らしてきた伝承から、実は温厚。
シャロにせがまれて氷の棒とか出している。が、シャロがそれを犬のケツに入れようとして、【雪女】はキレた。めっちゃキレた。
無口なのに「シャロガキッッッ!」と吼えた。
横乳:霧雨セツナの謎のファッション。
ボリュームたっぷりな横乳のまろび出た特殊な和服を着ている。
これは彼女が変態の雌豚なわけではなく、憑霊の【雪女】に合わせて体温を下げるため。
全ては『霧雨家』の次期当主として。
真面目に横乳を出しているのだ。
ボンレスハム:霧雨セツナのIFエンド。ちなみにカナタの好物は豚肉。
『符術天蓋』:符術の極み。霊的効力を宿した呪符でドームを作り、特殊な空間を作り出す技。これを
空間を形作る呪符と、巨大な象徴を以って創造される。
【絶し命摘む氷柩庭園】:霧雨セツナの天蓋。氷の庭園を生み出す。
空間は氷気に満ち溢れ、任意の個所を凍らせることができる。
また動く氷像も作成可能。
相手の体温を奪うこともできる強力な天蓋だが、セツナ自身が冷気を回避するために、常に象徴たる城上部から吹雪を出し、相手だけが冷気を受けるようにしている。
そのためセツナのいる城の下に辿り着くか、何らかの術で吹雪の方角を変えれば攻略可能。
マロの顕装【
カナタの出来る限りの笑顔:どう取り繕っても、暗黒オーラが出ている。
雌豚:セツナ。
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