第17話 襲来の横乳!!!!!!!!!



「せっ、拙を殺すって……!?」


「嫌われていればいいんだろう?」



 気弱な父が。

 気弱ゆえ【鳩】の概念霊と波長が合うような空鳴ミチタカが。

 気弱すぎて、損な役回り押し付けれて死ぬ予定の彼が、ガチギレていた。



「この場に限るなら、私はキミのことが嫌いだ。あと一人、誰かがキミを嫌ってくれたら、私も手を出せるんだけどね?」



 父さんの袖口から無数の【鳩】の羽が舞う。

 それらは右手に収束すると、翼にも見えるような巨大な刃となった。



「ひぃいっ!? げ、現役霊奏師がそんなことしては、犯罪者でごじゃるぞ!」


「犯罪者はキミだろう」


「!?」



 父の目は、どこまでも冷たい。



「……そもそもキミ、霊奏師資格を持っていないだろう? 資格なき者が許可なく術を振るうのは、立派な違法行為だよ」


「うぐぐっ……!」


「私が通報すれば、キミは『霊媒師』認定だ」


「そんなっ!?」



 霊媒師――それは霊奏術を違法に使う者のことだ。


 捕まれば基本は死刑。

 よくても無期懲役か……あるいは、不知火オウマ専属の贖罪奴隷部隊『八咫烏ヤタガラス』に配属され、徹底的に使い潰されるかだ。


 オウマ総帥がニホンの霊奏界を総べている限り、慈悲はない。良家の子女であろうとな。



「そんなっ、霊媒師認定って……そんなことになったら……!」


「未成年ゆえ処刑はされないだろう。でも間違いなく、霧雨家の評判は傷付くだろうね?」


「そっ、そんなあぁあぁあああぁ……!?」



 シャロちゃんはいよいよへたり込んでしまった。


 うっ、うっわぁぁ……。父さん、気弱属性が薄まると結構こわいな……。


 よく考えたら霊奏師としてはベテラン。いくつもの殺し合いをしてきた人だしな。

 心の弱さが消えれば、中から出てくるのは刃に決まってるか。


 二周目の俺との出会いで、とんでもない人材になっちゃったかも……?



「カナタ」


「(!?)」



 呼ばれて内心ビクッとなってしまう。


 表向きには無表情クールな身体くんだが、魂はドキドキだ。

 俺も怒られたりするんだろうか……?

 そう思っていると、



「偉いね、カナタは」


「え」



 不意に、頭を撫でられた。



「結局キミは、彼女を一度も傷付けなかったね。自分を殺しに来た相手なのに」


「それは、まぁ」


「あと、『年上の相手には敬語を使う』。お父さんの注意を、こんな子相手にもちゃんと守れてた。カナタはいい子だ。霊の予想外な使い方を思い付いたことも含めて、父さんの自慢の子だよ」



 ……抱き締められて、背中をよしよしとさすられた。

 父さんの顔を見上げる。俺を抱き締める彼の眼差しは、とても穏やかだった。


 が、



「――さて、霧雨シャロさん」



 少女に向き直った瞬間、再び冷たいモノになった。

 彼女が「ひぅっ」と呻ってしまう。ギャップでもう風邪ひきそう……!



「な、なんでごじゃるか……!?」


「キミのお姉さん、霧雨セツナさんとは面識がある」


「!?」


「冷徹に見えて思いやりもある人だ。才能もある。きっと総帥の副官として、華々しい人生を送るはずだろう。ゆえに……彼女の家名に泥を塗りたくはなかったんだが、ね」



 父は、意趣返しのように自分の携帯を取り出した。そして躊躇なく三つのボタンが押される。


 ――どう見ても通報です。本当にありがとうございました。


 シャロちゃんが「それだけはぁああーーっ!?」と泣き出した。



「さぁ、あとは通話ボタンを押すだけだ。これでキミは犯罪者に……」


「すっ、すっ……!」


「す?」


「すみませんでしたでごじゃるっ! 拙が悪かったでごじゃる~~~~っ!」



 深々ァァァッと頭を下げるシャロちゃん。


 そんな彼女を見て数秒、父さんは「……はぁ」と溜息を吐き、



「だそうだけど、どうするカナタ? 迷惑をかけられたのはキミだ。キミの裁定に任せるよ」



 父さんは俺にそう言ってきた。



「ふむ……(霧雨シャロちゃんの処分か)」



 落ちこぼれで、焦ったあまり俺をぶっ殺そうとしてきた女の子。

 まぁ、端的に言えば自分の出世しか考えてないアレな子だ。好感は持てない。


 けど、



「今日のところは、シャロさんを許そうと思います」


「ふぇっ!?」



 俺はシャロちゃんを責めないことにした。


 俺の中身は凡才モブだからな。気持ちはわかっちゃうんだよ。焦りとかそういうの。



「いいのかい、カナタ?」


「はい」



 父ミチタカに頷き返す。


 ……この人が死んだ後、空鳴家は大きく発展する。


 俺の姉さんと兄貴は天才で美形で、テレビにも引っ張りだこになるような人気絶頂の霊奏師になるんだ。まさに花形。主人公だ。


 反面、俺はあまりにも凡庸。

 周囲から期待されて、それを裏切り続けるのはとても苦しかった。

 主人公かれらに比べて自分は『モブ』なんだと諦めるまで、しんどかったよ。焦ったよ。


 だから、



「シャロさん。自分たちは、お父様許可の下で模擬戦をしていました」


「えっ、え」


「それなら何の罪にもなりません。シャロさんが家名に泥を塗ることも、ありませんよね?」


「っ――!?」



 俺は彼女に手を差し伸べた。


 思うところは色々あるが、ミチタカ父さんがボコボコにしてくれたからな。

 今日のところはもういいさ。



「あ、あの……!」


「はい?」


「その……そのぉ……!」



 おずおずと俺の手を取るシャロちゃん。そして、



「ごめんなさい、でしたでごじゃるぅ……!」



 涙目で、明らかに慣れていない様子でそう言った。


 変な口調だなぁ、やっぱり。



 ◆ ◇ ◆




「こ、怖かったでごじゃるぅうううぅうう……!」


「よしよし」



 えぐえぐと泣くシャロちゃんを慰めてやる。よっぽど心に堪えたらしい。



「せっかくです。一週間後の試験に向けて、一緒に修行しませんか?」


「ふぇっ?」



 どうせなのでシャロちゃんを誘ってみた。


 このままだとこの子、たぶん試験に落ちるだろうしな。

 それでまーた無理して最上級概念霊【消失】に突撃して剥きエビになるのは、忍びないし。



「自分も修行中の身ですが、ご教授できることもあるかと。それは自分の成長にも繋がりますので」



 他人のフリ見て我がフリ直せ、だ。初心者のプレイを見るのはなかなかタメになる。



「ぃ、いいんでごじゃるか? 拙、おぬしを……カナタくんのことを殺そうとしたのに……」


「はい。全然気にしてませんので」


「カ、カナタくん、優しい……!」



 なんか感動してる様子のシャロちゃん。そりゃ殺そうとしてきたのをチャラにされたら器広いと思われるか。


 ……でもそれは勘違いだ。

 今のハイスペボディな俺的には、子猫がじゃれついてきたくらいの危険度だったからな。

 水弾を喰らってようがクナイで刺されようが、霊力強化した筋繊維が間違いなく致命傷を止めていただろう。

 だからあんまり感謝されても困るんだが。



「カナタくん、犯罪者になるところを庇ってくれたし……! 実は天使だったのでごじゃるな……!」



 お、おう。

 限界まで追い詰められていたところで優しくしてやったせいか、めっちゃキラキラな目で見てきおる。



「カナタくん、カナタくん……♡」



 んー、まぁ好かれてる分にはいいか。



「あっ、一緒に修行は喜んででごじゃる~!」


「それはよかったです。シャロさん的にもちょうどよい機会かと思いましたので」



 シャロちゃんは思ったよりも戦えていた。霊力量と身体能力は悪くない。

 だが資格試験後半。そこがネックになるだろう。



「『霊奏術の技能検定』は、他の受験者との模擬戦形式で行われます。それに向けて緊張感ある相手がいたほうがよいでしょう」



 霊力測定や身体測定とは違う。

 術の披露は、他の受験者との戦いの中で行わなければいけないわけだ。



「うぅ、術構築はじっくりやらせてほしいでごじゃる……」


「実戦の場ではそうも言ってられませんからね。術の精度だけじゃなく速度、それと緊張する中で出来るかというところも含め、腕を見るのでしょう」



 ちなみに模擬戦での敗北=失格ってわけではない。

 倒されたとしても、それまでに実力を示せていれば受かることもある。

 だが、



「勝利したほうが審査員からの覚えもいいですからね。相手受験者は全力で来るでしょう。それゆえ、毎年死者も出る」


「ひぅう……!」



 ハードな試験だよなぁ。


 けど未熟な霊奏師を概念霊の前に出してみろ。

 それで霊力を喰らわれちまったら、【人形】たちのように敵の概念霊が進化してしまう可能性がある。

 だから冷酷な足切りが必要なわけだ。



 というわけで、



「シャロさん、自分のことを殺しにきていいですよ」


「って、えええええええっ!?」



 驚いてビョンッと飛ぶシャロちゃん。

 カスなのに身体は可愛いな。



「な、何言ってるでごじゃるかカナタくん!? そんなことしようとしたら……」



 シャロちゃんは父ミチタカのほうをチラッと見た。

 その視線にニコッと微笑で答える父さん。シャロちゃんが「ひぅっ!?」と小さく悲鳴を上げる。

 完全にミチタカ父さんにわからされてるな……。



「大丈夫ですよ。お父様も言ってたように、実力差は明確ですから。むしろ殺す気でドーンときてくれないと」


「ふぁぁ、肝が据わってるでごじゃるなカナタくん……!」



 中身は人生二周目の霊奏師だからな。

 任務をいくつもこなしてきたら、ビビリの俺でも多少は図太くなるさ。



「わ、わかったでごじゃる。全力で挑むでごじゃる。……あっ、でもその前にセツナお姉様に電話しないと!」


「そうでしたね。誤解を晴らしていただかないと」


「うんっ、カナタくんは天使でごじゃる!」


「天使じゃないです」



 ピコピコと画面を押して電話しようとするシャロちゃん。

 が、その時。



「――シャァアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーロォオオオオオーーーーーーーーッッッ!?」



 頭上よりこちらに迫る声が。

 見上げてみれば、青髪の横乳和服お姉さん・霧雨セツナさんが、ガンギマリの目で氷板でスケボーしながら空から降りてきた!

 うわキモッ。



「シャァアアアアアアアア~~~~~~~~~~ッ!」


「お姉様っ!?」



 地面に滑り降りるや、シャロちゃんをひったくって距離を取るセツナさん。

 そのまま俺を睨みつけてきた。こわい。



「空鳴カナタッ! どうやらバケモノの本性を現したようですね!?」


「いやセツナさんあの」


「シャアアアアアアアーーーーーーッ!」


「うるさ……」



 あっ、ダメだこれ。この人頭パーになってるわ。

 未来ではクールビューティーとして有名なのに、妹が絡むとこんな人なのかよ。


 ミチタカ父さんも「こんな人だったっけ……?」と戸惑っている。



「アナタの邪悪な笑みを見た時から、どうしようもない悪人だとはわかってましたよ……! そのうち暴走するだろうと思ってましたが、よもやわたくしのシャロを毒牙にかけるとは……!」



 かけてねーよ。


 そう弁解しようとしたところで、シャロちゃんのほうが「違うでごじゃる!」と叫んだ。



「えっ、シャ、シャロ?」


「たしかにカナタくんは、めっちゃ顔はいいけど目に光はないし無表情だし、笑うと暗黒微笑でごじゃる。闇のオーラが出てるでごじゃる」



 出してねえよ。



「でも、実はとっても優しいんでごじゃる……!」



 お、おおっ。シャロちゃんが俺を庇ってくれてる!?


 よしいいぞ。そのまま俺の印象を回復してくれ。



「ちょっ、シャロッ!? 乱暴なことをされたんじゃないんですか……!?」


「たしかにちょっとはされたけど……でもっ」



 俺のほうをチラッと見るシャロちゃん。

 そして、頬をポッと赤く染めて、



「痛くはされなかったから……それから優しくしてくれたから……♡」


「シャロ!?」



 おいシャロちゃん言い方ッ!



「拙だけは、カナタくんのことを信じてるから……っ♡」



 そう言って身をくねらせるシャロちゃん。


 その光景に、セツナさんは白目になって石のように固まり……そして、



「あ、愛する妹が、でぃ……っ!」



 でぃ?



「DV彼氏にッ、洗脳されちゃったあああああああ!!!」



 誰がDV彼氏だよ。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【Tips】


贖罪奴隷部隊『八咫烏ヤタガラス』:霊媒師認定を受け、捕まった者たちの集団。

不知火オウマにより結成された特殊部隊。

全ての人権が剥奪され、身体中に爆弾が埋め込まれている。

そのため逆らうことも出来ず、死に果てるまで危険な任務を請け負うこととなる。

全てはニホンのために。



シャロちゃんエンド№1【もはや〝生きろ〟と願われない】:


シャロちゃんのバッドエンド(複数ある)。

空鳴ミチタカとマロの交流が足らない場合に分岐。

自信のわずかに足らないミチタカは彼女を叱れず、シャロは傲慢なまま【消失】出現を迎え、前世と同じく突撃してまた死ぬ。

空鳴カナタも彼女への鬱憤が晴れず、関わるのはコリゴリとなっているため、救われることはない。


回避条件→夜、ミチタカがマロに話しかけておくこと。


『どうしたら立派な父親になれるか』とミチタカが問いかけ、

『知らんでおじゃる。寝るでおじゃる』とマロが雑に答えることで成立。


〝そうか! カナタの父は私一人! 『他人にあり方を聞いているようじゃダメ』ということですねマロさん!?〟


とミチタカが勝手に解釈して勝手に覚醒する。



霧雨セツナ:ちょくちょく出ていたクールお姉さん。十八歳。横乳。

ワガママな妹が大好き。お小遣いをねだられたらホイホイあげちゃうくらい好き。

よく耳の穴とかレロレロ舐めてる。


そんな妹を『空鳴カナタ』に奪われたことで、脳が破壊された。

やはり彼は邪悪!!!


空鳴カナタ:←暗黒DV彼氏!!!(byセツナ)←ちげーよ(byカナタ)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る