第6話 全身魔改造カナタくん! そして、誕生へ――



「うおおおおおおお……ッ!」



 あれからたぶん二か月近く。俺は特訓気絶部になっていた。


 起きた瞬間に瞑想を開始。自身の肉体のシルエットと魂を思い描き、ひたすら魂から経絡を張り巡らせ続ける。



「ゆっくりと……だが着実に……圧力を加えて……! そして、ひねりも加えるのだ……ッ! 属性付与の着色作業も忘れずに……!」



 俺の脳裏では、魂からうようよと伸びた霊奏経絡が謎の動きをしていた。

 ①まず極太経絡をビョンッと生やします。魂変化の軽めなショックで一時間気絶します。

 ②次に、ビョンッと生えた経絡を圧縮することで、通常の何倍もの密度を持った経絡を生み出します。ショックで一時間気絶します。

 ③生やした経絡に属性を付与します。前世じゃできませんでしたが、今の胎児状態の魂は変幻自在なので、経絡に〝おまえは火属性になれ~~~!〟と強く念じてると、赤くなったりします。


 あとはループです。

 ①の作業をもう一回やります。気絶します。

 ②の作業もやります。気絶します。

 ③の作業も以下略気絶。


 ④そして何セットか霊奏経絡が出来たら、それをおさげのようにギュギュギュギュ~~と縛り上げて、一本の束にします。

 これで肉体内部にまだまだ経絡を張り巡らせれるスペースが出来ましたね。

 なお、作業終わりにはもちろん気絶します。



「ふぅ。また充実した一日を送ってしまった……!」


『カナタ、キモ~イ』


「うるせえ」



 憑霊トリオにいじられつつ、俺は自分改造をずっとし続けてきた。


 おかげで肉体内部は圧縮した経絡でギチギチになりつつある。

 透過図出したらだいぶキモいな。寄生虫詰め合わせセットみたいだ。

 霊奏経絡は非実体だから、臓器を圧迫したりすることはないんだが……。

 ちょっとやりすぎたかも?



「あっ、まだ指の一本一本に経絡這わせそうじゃん。伸ばしとこ!」



 まぁ経絡があれば霊力も増強するからな。霊力はあればあるほどいいさ。

 身体強化を長く強くできるようになるし、魂を直接傷付けるような『呪詛』系の攻撃にも強くなるし。

 これくらい全身に経絡がブヨンッブヨンッにあったら、並の呪いとか跳ね返しちゃうかもねぇ。



「あと、自分の概念霊に霊力を喰わせることで、一時的な概念の強化も出来る」



 たとえば【マッチ】の概念霊だ。普通なら指先程度の火しか出せないが、霊力という名のガソリンを与えれば、それだけ激しい炎を出すことができる。


 また霊力を喰わせた概念霊は、一時的に自分と同一の存在とみなされ、操ることで色々な現象を起こすことができる。


 それが、四種の『霊術』だ。



「自分に霊を宿らせる『巫術』」



 概念霊を憑依させ、その力を振るえるようになる術だ。

 たとえば【筋肉】の概念霊を宿したらムキムキになったりな。


 技術ランクをあげるほど霊力の消費効率が上がり、極めれば溢れ出した霊力が仮の細胞となって肉体を纏い、概念霊と完全に融合した姿になれるという。


 例題の【筋肉】の概念霊憑依を極めたら……全身から筋繊維出まくったバケモノになるとか? ちょっと嫌だね。



「霊を関連物体に宿らせる『付術』」



 霊の力を宿すことで、物体を変異させる術だ。

 たとえば【刀】の概念霊を、刀っぽい定規に宿したら、実際にモノが切れるようになるとかな。


 これも極めるほどムチャクチャになる。憑依物体が霊力の衣をまとい、巨大で複雑な変化を起こせるようになる。


 先ほどの例なら、定規が巨大な太刀になるとかな。



「あとの『符術』と『負術』にも霊力は必要だ。もうガス欠は勘弁だからなぁ……」



 二か月ほど前の肉天使戦を思い出す。


 雑魚モブだった俺は霊力が少なく、全力全開で戦ったら数秒で霊力切れになってしまった。


 霊力は魂の熱。なくなれば魂が昇天を始める。……しかもそんなリスクを覚悟してまで戦ったのに、敵には傷一つ付けられなかった。


 天災的存在、最上級概念霊との差をわからされたよ。




「念のため、もう少し強くなりたいが……うーーーーん、これ以上は難しいよなぁ。術の修行は、流石に現実じゃないと出来ないし」



 魂の内部、『霊域』で出来る修行は、あくまで精神的作業に特化している。

 霊域の内では俺が王様だ。マンガ本を出したり、美味しい料理を出すこともできる。

 が、しかし。それはあくまで〝過去の経験や感覚〟を再現しているだけに過ぎない。


 未知のマンガや、味わったことのない料理を出すのは無理だ。


 魂の檻の中では、人は前に進むことができないわけだな。



「新しい肉体で、増強された霊力で術を振るう感覚……。そんなもんは現実でやってみないとわからないからなぁ。産まれるのを待つとするか~~」



 さて、出来ることはあるかなぁ。

 いよいよ出産まで一か月を切ったぞ。大胆な自己改造が出来るのもこの時期が最後だろう。



「肉体は改造しきったな……。見た目は、【人形】のおかげでどえらいことになったし」


『エライ!?』


「ぁーえらいえらい」



 引っ付いてきた【人形】を雑に褒めつつ、俺はあの肉体を思い返した。

 ベースはモブの俺だが、もう徹底的にエディットし尽くして、白髪金眼赤眼の重課金盛り過ぎアバターになってしまった自分。

 アレで産まれなきゃぁなのかと思うと、うーーんプレッシャーが重い……!

 天使だか女神の幼体の中身がモブとか嫌すぎるだろ。



「霊奏経絡も全身ギチギチに詰め込んだ。最初はただ全身に伸ばしただけだったが、圧縮して密度を上げる手法を思い付いたのはよかったな。はは」



 あんなん誰もやったことはないだろう。

 だってそもそも、全身を経絡で満たすこと自体が出来ないんだからな。


 霊奏経絡の圧縮を出来るようになったヤツなんて、きっと俺が初めてで――は!?



「そうか……今の俺は、自由にナニカを作れるんだ……! それは、霊奏経絡だけに限らないッ!」



 俺はウィンドウを表示させた。

 とっくにイジり終わって放置していた、肉体の透過図を!



「綺麗な筋肉配列だ……骨格も美しい……まさに理想的だろう。が、それはあくまで『現実的』な理想に過ぎない。今の俺なら、そう、たとえば……!」



 俺は、胎児の両腕を意識する。そして、



「両碗骨格、削除」



 赤子おれから腕の骨を消した。これで程なくしてこの命令が実行され、俺は腕の骨がなく生まれ落ちるだろう。

 いやそれは勘弁だがな。なので次は、



「両碗筋、圧縮」



 骨がなくなったスペースを埋めるよう、筋肉を中心にぎゅっと引き寄せた。それから……!



「外骨格、形成!」



 皮下脂肪の内部――圧縮された筋肉を包み込むように、外骨格が形成された。


 完成だ。俺は自分の両碗の皮膚の下を、外骨格生物――昆虫へと改造してみせた!



『ナンダソラッ!?』


「虫の腕だよ。特にゴキブリをイメージしてみせた」


『ゴキ!?』



 一瞬の瞬発力が強い生物。それは哺乳類ではなく、昆虫だ。


 昆虫はすごいぞ。外骨格が筋肉と連携して動作を補助するため、自重を超える凄まじい高強度の運動が可能となる。

 柔軟性のなくなるデメリットはあるが、手首から肩までの骨……上腕骨・尺骨・橈骨に柔らかさなんていらんからな。

 肘さえ動いてくれればいいから、ここらへんを限定的に大改造してみた。要はすげーパンチできればいいのよ。



『ゴ、ゴ……!?』



 んあ、【人形】がなんかショック受けてる。ゴキと聞いて、女の子的にショックだったか?



「安心しろ。皮膚と脂肪はそのままだから、外観的にはおまえがエディットした天使ボディのままだぞ」



 むしろ太い血管は外骨格の中に隠れるから、人形みたいにめっさ白い腕になるかもな。



『ナラヨシ!』


「ならよしなんかい」



 流石は空っぽの性質を持つ【人形】の概念霊だ。

 外面が綺麗なら、中身は人間離れしてようがどうでもいいらしい。



「強くは産まれたいが、異形に生まれて迫害されるのは勘弁だからなぁ。外見はちゃんと取り繕うさ」



 それを踏まえて次だ。次は足を魔改造する。


 

「足については虫を参考に出来んな。外骨格の動きは力こそすさまじいが、常時二本足で自重を動かさなければいけない人間には、負荷が大きい」



 虫のように複数本の足で地を這うのとは違うからな。


 外骨格は自重が重くなることも相成り、二本足で重力に逆ら続けていたら、あっという間に足がダメになってしまう。


 そこで……、



「足については、蛇を参考にするぞ」


『ヘビ!?』



 【人形】がまた驚いた。表情は変わらんが、〝一体自分の神デザインをどうするつもりじゃワレ!?〟と目で訴えかけてくる。

 安心しろって。



「多関節の力はすごい。運動する際、各関節部が『鞭』の働きをすることで、外骨格と同じく筋肉を補助してくれる」



 ただしデメリットもある。



「二足歩行動物の足には向かんがな。なにせ関節は『曲がる』。脚に四つも五つも膝があってみろ、重力に負けてクニャッてなっちまうよ」


『ダメジャナイカ!』


「そこで、だ」



 改造するのは、腿から足首じゃなく――、



「足裏だ! 踵骨、舟状骨、立方骨、楔状骨、中足骨。これら足指以外の部分の接骨部位に軟骨を仕込み、しなるようにする! 表向きにはわからん!」


『ナラヨシ!』


「ならよしか!」



 キャラデザ担当の【人形】さんからOKが出たので、透過図内の俺の足裏骨格を多関節とした。

 はたから見たら普通だが、地を蹴る際には足裏が鞭のようにしなり、すんごい力を発揮してくれることだろう。



「ふぅ……生物的にちょっと人間を超えちゃったな……。ま、これでさらに霊力が……」



 と、そこで。なんだかふわふわと眠くなってきた。



「ぁ~……最近、魂をいじりまくったもんなぁ……。魂が疲れが溜まってる、みたいな感じか……?」



 こりゃもう一回、深く寝たほうがいいな。


 霊奏経絡は伸ばし尽くした。肉体改造もいよいよ終えた。


 あとは出産される時まで、寝ますかぁ~~~……。



『……!』


「あぁ、なんだぁ【空砲】くん? は? 声を綺麗にいじりたい? あぁ、【空砲】って概念には、喜びの祝砲とか制圧の威嚇とか、音も深く関係してるからなぁ~……」



 あーーダメだ。頭がもう完全に働かん。魂自体がシャットダウンしようとしてるんだから当然か。



『~~~♡』


「はぁ、きれいで、いあつてき、にぃ……? もうよくわからんが好きにしろ~……」



 うつらうつらとする俺。そんな俺に【一反木綿】と【人形】もまとわりついてきた。



『シバッテイイスカーーッ!?』


「は、あんだよ【一反木綿】……。は……? 髪質めっちゃさらさらピカピカロングにぃ……? あぁ、【一反木綿】の概念には、なびくという現象が……ぁーどうでもいいわ勝手にしろぉー……」


『カナタ~!』


「【人形】さんはなんですかぁー……? は、しんけいを……なに……? もうよくわからん……」



 とにかくもう全部オッケーだと言っておく。もう眠い、もう限界だ……!



『『『ヤッター!』』』



 騒ぐ三匹に(うるせー)と思いつつ、俺は意識を落とすのだった。


 じゃ、おやすみなさい……。




 ◆ ◇ ◆



 そして。



「お、鬼の子が生まれたぞォーーーッ!?」


(は?)



 次に目が覚めた時、俺は霊奏師らしき連中に取り囲まれてました。


 なんだこれ!?

 




 

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第一章:胎児編、完。

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