第二章:白き魔王、爆誕編
第7話 二周目人生スタート!(生まれて一分で成長してバトル)
――『空鳴カナタ』。
その名は今や、霊奏師らの恐怖の代名詞となっていた。
胎児の段階で、三体の概念霊を魂に飼っているという異常生物である。
当然ながら放置などできない。
霊奏師らの総本山『霊奏機関』本部は、かの男児の監禁と観察を決定。
母体ごと身柄を預かり、万が一の事態には〝殺処分〟が出来るよう、優秀な霊奏師らが側に置かれることになった。
だが――その判断が、混乱を起こした。
「あぁッ、『空鳴カナタ』の、魂の波動が、今日も……ッ!」
「魂魄がっ、狂う!?」
「もうやめてくれぇぇええええッ!」
霊奏師らは次々と疲弊していった。
強大な霊力は、音波のような波を周囲に放つ。
その波が発生するタイミングは、上級の概念霊が新たに出現した時か――霊奏師が、ありえないほどの急成長を遂げた時である。
後者のケースは極稀だ。限界の戦いの末、霊奏師の魂が進化を果たした時に起きる奇跡とされるが……しかし。
「こ、こんなのが毎時間なんて、耐えられんッ!」
上級霊奏師の一人が吐瀉物を吐きながら逃げ出した。
そう、毎時間である。『空鳴カナタ』は日々異様な霊力増強を果たし、霊奏師らに激震をぶつけまくっていた。
結果、魂の波長が同じである母体以外は、次々と恐慌・悶絶・逃走・気絶する事態に発展。
胎児の段階でそのような騒動を起こした『空鳴カナタ』の名は、日本中に悪名として轟いていくのだった……。
そして、
〝母体が産気づいた!? 『空鳴カナタ』が、ついに産まれる――!?〟
そのニュースは、霊奏師界を震え上がらせた。
◆ ◇ ◆
どうも俺です。人生二周目モブのカナタです。好きなものは回転ずし。
いやーーー光陰矢の如しと言いましてね。
自分改造と気絶を繰り返して、あっという間に三か月。
いよいよこの世に生まれたっぽい俺ですが……、
「つ、ついに生まれたぞッ、『空鳴カナタ』が……!」
「産声も上げず、既に両目を開いて、我々を見ている……!?」
「ぅ、うつくし――いやッ、全霊奏師は霊力を滾らせよッ! 対象のアクションに備えるのだ!」
どうしてこうなった……?
な、なんか俺、大量の霊奏師に取り囲まれてるっぽいんですけど……!?
わけがわからなすぎる……とりあえず状況を聞いてみよ。
「ぁ――」
俺は口を開き、〝どういう状況ですか? まずはみなさん落ち着いてください〟と言おうとした。
すると、
「――
「「「!?」」」
「(!?)」
俺の口から、めっっっちゃ綺麗だけど冷たい声で、めちゃ偉そうな言葉が出た――!
えっ、なにこれ、なにこれ。第一声が最悪すぎる赤ちゃんなんですけど!?
「(あのっみなさん違うんです!)」
と言おうとした刹那、さらに異変は巻き起こる。
全身が霊力の青白い光に包まれ、俺の身体が成長を開始したのだ……!
当然ながら周囲はざわめく。
「なっ、何が起きているのだ!?」
「(俺が知りたいんですけど!)」
まさか、生命エネルギーである霊力量を増やしすぎた結果なのか……? それで細胞が急発達していると……?
そう考察する間にも、十歳児ほどまですらっと手足が成長し、純白の髪が、まるで雪の結晶が舞い降りるように柔らかく伸び、背中へと流れた。
「(な、なんかすいませんね。俺みたいなモブの変身バンクみたいなの見せちゃって……)」
急に成長する赤ちゃんとか怖すぎるしね……。
霊奏師らもそう恐怖しているのか、周囲がゴクッと喉を鳴らす中、さらに霊力が糸となって身体に絡まり、黒く退廃的なゴシック風のワンピースとなる。
そして最後に、前世でも愛用していた白いマフラーが首に絡まって、異変は収束するのだった。
赤ちゃん俺、一瞬で二足歩行である。
「(って……えぇ~~、なにこれぇ……?)」
周囲の霊奏師さんたち、戸惑って口を開きながら固まってるんですけど。
そして俺も戸惑って固まってるんですけど。
でも表情筋がなぜか動かず、冷たい表情でみんなのアホ面を見ているような場面になってるんですけど。
この身体、失礼過ぎない……?
「(と、とりあえず、〝俺は怪しい者じゃありませんよ?〟と弁解してみよう!)」
せーのっ、
「――俺を誰だと心得る?」
「「「!?」」」
「(!?)」
だ、ダメだこりゃーーー!
「(めっちゃ威圧的な言葉になった~!)」
こんな赤ちゃん嫌すぎるだろ……!
ほら身体くん、偉そうなこと言っちゃダメ。頭を下げてみんなに謝って!
せーのっ、
「――
「「「!?」」」
「(!?)」
ど う し て そ う な っ た !?
「(違うよ身体くん……キミが頭を下げるほうなんだよ身体くん……!)」
困惑する周囲。
そんな彼らを見下すような表情をしながら、実は一番困惑している俺。
空気が死んだ。
「ふん……(だ、駄目だ……このままじゃ話が進まない)」
さてどうしようと無駄にキメ顔で考えていた時だ。
一拍遅れて、「ぶッ、無礼者でおじゃる~ッ!」と、沈黙を破って叫ぶ者がいた。
「おのれ鬼子……バケモノの子、『空鳴カナタ』め。おぬし、黙っていればよくもマロをコケにしてくれたでおじゃるな……!?」
と言いながら一歩前に出てきたのは、白塗りの平安貴族風男だった。
あーこの人知ってるわ。大昔から続く名家で、めっちゃ血統主義の霊奏師さんね。名前はたしか、
「五大院ウジマロ、といったか?」
「なっ、なぜマロの名前を……!?」
あ、ビビらせっちゃった。ごめんね。そんなつもりなかったんだよ。
むしろみんな戸惑って黙る中、俺と話してくれて嬉しいよぉ……!
「気に入ったぞ、マロよ」
「なにゆえ!?」
「貴様に状況を説明する権利をやろう。泣いて喜べ」
「なにさま!?」
あいっかわらず偉そうすぎる身体くんである。
だがマロさんは「こっ、この、オス(?)ガキャァ……!」とキレそうになりながらも、鼻を鳴らして語り出してくれる。
「決まっておろう……。貴様が、魂の中に概念霊を宿したバケモノ胎児であるからでおじゃる……っ!」
「ほう(むむっ!?)」
あー……なるほど。ついてきた概念霊トリオの気配に、気付いちゃったわけか。
そりゃ警戒するわな。魂に霊を宿すには、霊奏師として霊域を自覚できるほど修行した後、波長の合った霊を自ら招き寄せる必要があるから。
なんも知らん胎児が概念霊を宿してスヤスヤしてたら、そら注目されるか……。
「しかも、日々異様に霊力が激増していく始末……! そんな危険生物を放っておけぬわ!」
「ほほう(あっ)」
あー……そうじゃん……!
いつの間にか調子こいて霊力上げ過ぎたわ。
ずっと霊域に籠ってたから、周囲が戸惑ってることにも気付かなかったしな。
「そして、いざ生まれてみれば、急成長する異常性に、その万人を狂わせるような金眼赤眼の妖しき美貌ッ! 間違いおじゃらんッ、貴様はバケモノでおじゃる!」
そう言うとマロは鞭を抜き、霊力を込め始めた。ちょちょちょちょちょっ!?
「鬼の子、『空鳴カナタ』め!」
人の子だが!?
「この壱號級霊奏師、五大院ウジマロが成敗してくれようっ!」
マロの背後に現れる半透明の巨大ダコ。間違いなく【蛸】の概念霊だ。そしてマロは鞭を掲げ、
「付術顕装、【
手に持つ鞭が霊力を纏い、太く長く赤く蠢く、八本に分かれた触手バラ鞭となった。
「付術顕装……Aランク以上の付術使いが可能となる、武器の大変異か(あわわわわわ)」
「ほほほっ、その通りよ! これでッ、成敗してくれるわァーーーッ!」
八本の鞭が容赦なく振り翳される!
くそっ、どうしてこうなった。死なないために強くなって、ついでに慕われるかなぁ――なんて、そんなことを考えていたのに。
なんで俺は、バケモノとして排除されようとしてるんだ……!?
「死ねぃッ、『空鳴カナタ』!」
俺が混乱の中にあった時だ。
鞭に薙がれるその直前――時が止まったような感覚の中で、聴覚が、音を拾った。
「――カナ、タ――」
と。
俺の背後より……弱々しくも俺を案じる、母の声を。ああ。
「これは、死ねないな」
瞬間、身体が駆動する。空を裂くように、手刀を放ったのだ。音を超えるような速さで。
そして、
「すまんな、マロ」
「えっ」
「どうやらこの身体、だいぶ強いらしい」
刹那、ザンッッッッッ!!! と遅れて異音が響き、マロの【
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【Tips】
付術顕装:霊を関連物体に宿らせる術『付術』の先の技術。
霊力で作り上げた仮の質量を纏うことで、物体を巨大化・異形化させる。
高密度の霊力物質を纏っているため、物理手段での破壊は困難……のはずなのだが。
【
鞭の先が八本の巨大触手となり、またそれぞれが生物的に動くため、回避は困難。
弾力があり肉厚で、耐久性も高い。
また吸盤と締め付けで敵を捕らえることも出来るため、非常に優秀な顕装である。
本来は。
身体くん:カナタの身体。脳神経がバグらされており、全ての言動が偉そうに変換される。可愛い。
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