第65話 決戦、霊媒師【ビックリ箱】


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・前回、セツナさんが「乳はまだちょっとしか出……」という発言について。


〝妊娠していないのに母乳出るのは病気なのでは〟


と心配してくださる声が多くありました。

病気ではありません。ご安心ください。

これについては、セツナさんはとても負けず嫌いな女性なので、57話で行った『肉体改造して母乳出してやりますよ!』宣言を誠実に行ってきた結果です。

名家霧雨の末裔として。発言を嘘にしないために。

最上級概念霊【消失】戦を前にしても、全力で努力してきたのです。

病気だと思います。

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 ――『霊媒師』とは。


 悪性の霊奏師。霊奏術を犯罪に用いる者を指す。

 また、巫術に失敗した結果、霊に身体を完全に奪われてしまった者も含まれる。


 霊を媒介に悪を為す者。

 あるいは霊の媒体となった者。


 どちらにせよ、概念霊と同じく殺処分対象となる。



 ◆ ◇ ◆



「ひっひっひ。嬢ちゃん坊ちゃん、おいちゃんのとこ寄ってきな~」



 オランダ坂の一画にて。

 おしゃれな雰囲気にはまるで似合わない、なんとも胡散臭そうなオッサンがいた。 



「面白いもん、売ってるよ~」



 目元が隠れるほどのボサボサ髪。それを後ろで雑に縛り、口元にはヨレヨレの咥えタバコが。

 そして無精ひげで色あせたちゃんちゃんこ着てるんだから、もう胡散臭さの塊だ。はぁ。



「何やってるんだ」


「んぁ~? そりゃぁおチビちゃん、露天商ってやつを――ってゲェッ!? 空鳴カナタ!?」



 俺に気付くやビックリするオッサン。


 一般人の驚かせるのはためらわれるが、コイツならどうでもいい。



「や、や、や、いやぁ~~……! 噂の特號級おチビちゃんと会えるとはッ、おいちゃん感激だねぇ~!」


「そうか、そうか。霊媒師なのに喜んでくれるとはな」


「え゛ッ!?」



 オッサンはまたもギョッとした。


 悪いな。俺は未来の知識持ちだ。

 まだ手配書に載っていないアンタのこともわかるんだよ。



「霊媒師【ビックリ箱】。能力は〝変な不用品のランダム召喚〟。霊具さえも呼び出すことを可能とし、それを一般人相手に売りつけて反応を楽しむ奇人だな?」


「やべっ」



 霊媒師の行動は早かった。

 バフンッと音を立て、なんと胡坐を組んだ状態で跳んだのだ。


 見上げれば、腰掛けていた座布団からスプリングが出ていた。



「なんだそれは」


「最下級霊具、『ジャンピング座布団』! 【跳躍】の霊と融合した座布団で、すごく跳ねるよ~っと!」


「珍品だなぁ」



 霊媒師は建物に降り立つと、そのままビョンビョンと胡坐のままで跳ねていく。

 無駄に速いな。見失う前に追わなければ。



「巫術発動、我が身に宿れ【人形】」


『カナタサマァ、あとでソフトクリーム買って~』


「わかったわかった」



 可愛い憑霊【人形】を身に宿す。

 それによって霊糸形成能力を獲得。建物と建物の間にかけ、ひっぱる勢いで俺もまた跳ねていく。



「んげぇ!? 変な追いかけ方してきたねぇ!?」


「変な逃げ方をするヤツに言われたくないな」



 概念霊装『業魔絶鋼・地獄鳥』は温存だ。

 アレは殺人的に霊力を消費する。これから【消失】と戦おうってのにヘバってられないからな。



「霊媒師【ビックリ箱】。殺人事件こそを起こしていないが、無許可で霊具を売るのは犯罪だ」



 それに。



「おまえは契約霊奏師の身体を奪った元憑霊。捕まえないわけにはいかないな」



 悪徳霊奏師『霊媒師』の定義は二つ。


 霊を媒介に悪を為す者。

 あるいは霊の媒体となった者。


 コイツはその両方を満たしている。悪いが見逃す手はないぞ。



「ひひっ、おいちゃんも捕まるわけにはいかないねぇ。まだまだ人間を驚かせたいからねぇ!」



 霊媒師は胡坐で跳ねながらこちらを向くや、手をパンッと打ち合わせた。

 ヤツの周囲の空間が歪む。そして、『時代錯誤な下駄』『使い道が分からないケーブル』『無駄にデカいダルマ』『昔のエロゲの箱』『パンパンッに膨れた携帯電話の充電器』『曲がったフォーク』『デスメタルの折れたギター』『〝キララ 3さい〟という子が描いた魔法少女アニメのイラスト』『クソデカすぎるブラジャー』など、変な不用品が山ほど飛び出してきた!



「埋もれなぁおチビちゃん!」


「まさにビックリ箱だな」



 巫術発動【空砲】。俺は我が身に【空砲】を宿し、指を鳴らす。

 増幅された音と衝撃が弾け、不用品の数々が吹き飛んだ。



「これで」



 視界が開けた。人影に迫る。だが、そこに霊媒師【ビックリ箱】はおらず、人影は〝ブッ殺しますわ空鳴カナタ!〟と書かれた等身大サイズ藁人形だった。


 なんじゃこりゃ。俺、恨まれる真似したことないぞ!?




「ヒッヒーッ、こっちこっちぃ」



 ヤツは付近の公園に降りていた。

 そして再び手を合わせ、不用品を召喚すると――、



「おぉ~っと。こりゃ当たりだねぇ!」



 霊媒師【ビックリ箱】の手には『明らかにパチモンっぽい金ぴかの刀』があった。


 何かのアニメのコスプレグッズだろうか? 子供が好きそうなデザインだ。

 いや、今の子供はひねくれてるから、スマホいじりながら鼻で笑うか?


 そう思ったが、しかし。



「なんだ? 霊力に押さえつけられている? 無理やり、形を圧迫されている……?」


『私を好きに出来ると思うな!』


「!?」



 刀が喋った! しかも外圧のような霊力が弾けるや、粘体のように変形。

 それと同時に色合いが反転するように変わり、『銀の王冠』となった。

 茨のように緻密に編まれた銀細工が縁を造り、また中央には紅玉の薔薇が咲いた絶美のデザインだ。



「なんだそれは? 霊具か?」


「ひひっ。正確には、いま霊具になったって感じだねぇ」



 ――霊具とは概念霊と融合した物品である。


 いわゆる『付喪神』というヤツだ。

 積年の想いを詰め込んだ物品は、概念霊をその身に呼び寄せて吸収し、特殊な能力を発現することがある。



「そしておいちゃんは【ビックリ箱】。その概念は〝未知の内包〟だ」


「っ、概念の説明……」



 相手に概念を『意識』させ、己が霊的スペックを高める手段だ。



「ゆえにおいちゃんには、手の内の物品の詳細が分かる。融合した霊は【反逆】だ」


『復讐してやる、復讐してやるぞ大帝国リベルタリア……!』



 憎悪の声を霊具は放った。


 宿した霊性は反逆か。主君が帝国に恨みを持つ者だったのか?

 よくわからんがこの冠、色は金色から銀色に変わっちゃったけど、デザインは『魔神帝』クローヴィスが付けてたやつじゃね……?



「これは……(うわぁぁぁ作ったヤツ頭おかしすぎるだろ)」



 大帝国リベルタリアの王クローヴィス。最上級概念霊【神】を下僕とし、百年の時を生きるという冷酷な魔人だ。

 そっくりの王冠作ったとかバレたら処刑されるぞ。こわい。



「ひっひっひっ。誰かが不要としたモノの中には、こんなキワモノが紛れることがあってねぇ! さぁ来なぁおチビちゃん、ビックリさせてあげるよッ!」


「言われるまでもない」



 糸を引き、再び霊媒師に向かって迫った。

 ヤツの顔面に拳を叩きこもうとすると、



「反逆対象:拳・一秒」


『アアアアアアアア大帝国リベルタリアアアアアアーーーーーッッッ!』



 俺の拳が、不可視の壁に阻まれる!

 いやそれだけじゃない。壁から凄まじい衝撃が走り、俺は咄嗟に後退した。

 公園の砂地を滑るように後退する。拳が、二周目で感じたことがないほどの衝撃を受けた。

 これは……。



「衝撃の反転か」


「ひひっ、そんな感じ。正確にはだねぇ」



 次にッ、と叫び、霊媒師は王冠を掲げる。



「反逆対象:重力・三秒!」


『リベェエエエーーーーーッ!?』



 霊媒師はまたも座布団で跳ねた。

 そして――瞬間的に上空数十メートルまで移動する。

 そこから、さらに。


 

「反逆対象:自身・形状・質量・五秒」


『リベリベリベリベッ!?』



 王冠が変貌する。

 銀の茨がほどけ、伸び、幾重もの銀槍となって、俺に向かって降り注いだ!



「ッ、【人形】【空砲】【一反木綿】!」


『ガッテンダ~~~!』



 憑霊【人形】の力により五指の霊糸を再生成。

 さらに【空砲】と【一反木綿】を霊糸と首元のマフラーに分散憑依させ、先端部の超振動・および浮遊能力を発現。

 空中より迫る銀槍とぶつけ合い、ギィィイイインッという音を立てて相殺する。



「おぉっと、芸が多いねぇおチビちゃん……! だけど『反逆の王冠』に勝てるかなぁ!?」


「その芸ならもう把握したさ」


「!」



 三手も交えればだいたいわかる。



「『反逆の王冠』。一見万能に思えるが、だからこそ〝対象〟と〝期間〟を絞らなければ大した力はないな、それ?」


「おっと……!」



 反逆――それは相手あってこその概念だ。


 憎悪や復讐心は莫大な力を与えるが、対象が曖昧だったり、計画がなければ、いずれ疲れて消えてしまう。



「へぇぇ……。すごい力の赤ちゃんのくせに、洞察力は肥えまくってるねぇ。ちゃんと見てくれてるんだ」


「ああ。芸を見てやらねば、【ビックリ箱】のおまえに失礼だからな。だがまぁ終わりだよ」


「!?」



 俺は立てた小指を引いた。

 瞬間、霊媒師が「うぉっ?!」と短く唸り、こちらに向かって落ちてくる。

 ヤツの足先に半透明の糸を巻き付けておいたからだ。先ほどの迎撃の際、五指全ての糸を使ったと思わせてな。



「っ、反逆対象:引ッ」


「引力でいいのかぁ?」



 刹那、ブォオオオオオオーンッという音を立て、糸の上に【バイク】が具現し、霊媒師向かって爆走した!



「んんぁっ!? 反逆対象:バッ」


「バイクでいいのかぁ!?」



 今だ。【空砲】に命じることで、巻き付いた糸先に超振動を発生。

 霊媒師【ビックリ箱】の足がズタズタになる。



「ぎゃあああ~~~っ!?」


「加減はしたさ。寝れば治る傷だ。だがまぁ」



 概念霊【バイク】を消し、俺は両手を構えた。

 片方はグーパン。もう片方はデコピンだ。

 そして引っ張られた霊媒師は、俺の前に落下してきて……。



「決着は付けないとなぁ。どっちに反逆する?」


「……こ、拳は勘弁だねぇ……!」



 わかったよ。

 ヤツが地面にぶつかる直前、霊力強化した全力デコピンを額に。


 結果、霊媒師【ビックリ箱】はグルングルン回りながら、遊具のゾウさん滑り台にぶつかるのだった。




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【Tips】


霊具:霊性を獲得した物品。かつては『付喪神』とも呼ばれていた。

人の下で長い時を経るなどして想いを成熟させた結果、概念霊をその内側に出現させて取り込み、特殊能力を発現させる。


霊を剥がすことは困難だが、代わりに融合した霊は『物品』という縁を得て現世に留まり続ける他、霊力を補給すれば誰でも使えるため、非常に希少。


でも『ジャンピング座布団』みたいなカッコ悪すぎるヤツになると、流石に不要と思われるらしい。


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