第64話 決戦前のオランダ坂!
『復讐してやる……! 復讐してやるぞ
「なんだこいつ」
長崎・オランダ坂の露店にて。
俺は変な王冠と出会った。
◆ ◇ ◆
「おお、ここが長崎のオランダ坂通りか」
「「おしゃれ~!」」
修行から三日。今日は最上級概念霊が出るとされる日だ。
俺は氷系横乳女子・セツナさんと人狼メイド少女・リルちゃんを連れ、長崎に来ていた。
現在はオランダ坂付近の石造りの街並みを見学しているところだ。
鎖国時代、全国で唯一海外貿易をしていた長崎の一区画で、ニホンで最初に造られた『異国通り』とされる。おしゃれだね~~。
『やれやれ。女子たち、騒ぎに来たんじゃないでございますよ?』
ちなみに電子妖精ナロちゃんも一緒だ。
ホログラムのシロネココウモリだった彼女だが、あれから基盤と骨子を中心に天才デザイナー【人形】さんがぬいぐるみボディを作り上げ、現在は俺の側をパタパタ飛んでいた。
『カナタ殿下を見てみなされっ。まったく浮付かずに臨戦態勢の顔付きでしょう!?』
無表情なだけじゃい。
「むむ。ナロちゃん、かたいの。むーなの」
と反論してきたのはリルちゃんだ。
その手には露店で買った長崎和牛のカツサンドが。全力で楽しんでらっしゃいますな。
『むむっ。リル嬢、むーと言われてもですな。実際われらは戦いに来たわけで……』
ナロちゃんの舌鋒が鈍り気味だ。
セツナさん相手なら『豚団子が牛食べてんじゃねえでございます!』とか罵りそうだが。
「このおでかけは、ますたぁのカナタさまが連れてきてくれたおでかけなの。だから楽しまないと失礼、じゃないの?」
『むむむっ!? そ、そういう見方もありますか……。まぁ、たしかに……』
すごすごと引っ込むナロちゃん。俺の肩に留まって大人しくなる。
うーん。セツナさん相手なら『そうやって理屈付けてダラダラしてるから豚なんでございますよォ!』とか言いそうだが、やはりリルちゃん相手だと引き気味だな。
「はは。リルにはどうにも弱いようだな?」
『うぐっ』
小声でささやきかけると、図星って感じでナロちゃんは呻いた。
『うぅ。正解でございます……。リル嬢を前にすると、どうにも気まずく……』
まぁ仕方ないか。
この電子妖精の前世はバイオテロ霊媒師・平賀ナシロ。
平和のために人類を強くする一環として、亜人兄妹・ロウガとリルを作成した張本人だ。
ある意味で母子関係だな。
『う~ん。なんともかんとも……』
正確には【電子】の亜人であるナロちゃんも娘みたいなもんだが。
ともかくナシロの記憶と意思を受け継いでいるんだから、思うところがあるんだろう。
「生まれ変わると決めたんだろう? ならば仲良くしてやればいいさ」
『殿下……』
「リルは幼く、おまえを可愛い人形もどきとして気に入っているようだ。そんな彼女を袖にしてしまえば、それこそ悲しまれると思うが?」
『っ、は、はい……!』
意を決した様子のナロちゃん。ぱたぱたとリルのところに飛んで行って『カツサンド、美味しそうでございますな』と話を振ると、リルは無感動風の表情を綻ばせた。
「うんっ、ナロちゃんも食べるの!」
『うぇえ!? わたくしめ、ぬいぐるみボディですのでっ!?』
「うぅ……リルと食べれないの……?」
『うぐぐっ。こ……今度、バイオ技術で人工口内と消化器官を作っておきまする……!』
すごい技術尽くすなオイ。
リルちゃんに甘々じゃねえか。
「うっふっふー。カナタさんカタナさんっ。長崎乳牛のソフトクリーム買ってきました~!」
そこで駆け寄ってきたのはセツナさんだ。
あんまり走ると横乳がこぼれるぞ~。
『! この豚団子ォッ! 家畜が家畜の乳食うなでございますっ!』
「うぇえ!? なんでいきなり罵倒!?」
なおナロちゃん、やっぱりナイスバディーなセツナさんには厳しい模様。
幼稚園児体型のリルちゃんも「そーなの。自分の乳吸ってろなの」と、ナロちゃんを抱きながら追撃している。
こういうところじゃ仲いい二人だ。
「うるさいですねっ。乳はまだちょびっとしか出……ってそれはともかく。はい、カナタさん。アナタの分も買ってきましたよ?」
「おぉ、助かる」
セツナさんからアイスを受け取る。
いやマジでありがたいよ。俺が店員に話しかけるとビビられちゃうからな。邪悪扱いで。
不本意だが、無関係な人の平和は乱したくないからなぁ。
「はもはも……うむ、美味なり(ご当地ソフトクリームっていいよね~)」
「! へ、へぇ~。美味しそうに食べるじゃないですかカナタさん。乳製品、好きなんです……?」
「ん? まぁ好きなほうだが」
「へへ、へ~……!」
なんかヒクヒクとニチャつきかけてるセツナさん。キモい。
まぁ大人びた彼女だからな。〝本当は旅行楽しくてめっちゃはしゃぎたいけど、恥ずかしくて我慢してる〟って感じかな? ふふふ。
「霧雨セツナ、なんか雰囲気がキモいの。犯罪者みたいなの」
「はっ、はぁ~~!? 誰が犯罪者ですか!」
「カナタさまのこと襲ったことあるし……」
「それはリルさんもでしょーがっ!?」
『こんな騒がしい女が次期当主とは。名家霧雨も堕ちたものでございますな~』
かしましく話す少女三人。
ちなみに全員犯罪者である。
「今度、刑務所でも見に行くか。オランダ坂からなら長崎浦上刑務所が近くに……」
オランダ坂の高所から街を見渡す。
距離は五キロ程度だったか。それくらいなら霊奏師の視力でわかるからな。
「っと。……ここからなら、あちらも見えてしまうか」
長崎港の向こう――遮蔽物がない海上ゆえに、ぽつんと浮く小島が見えてしまった。
その名も、『軍艦島』。
最上級概念霊【消失】の出現地点である。
「カナタさま。【消失】が出るなら、あそこなの……?」
「ああ」
俺と同じ方を見るリルちゃん。
少し不安げになった彼女を気遣って撫でてやる。
セツナさんは「幼女が女児撫でてる……!」とか言ってスマホぱしゃぱしゃしてるので、気遣い不要だな。誰が幼女だ。
「概念霊の出現地点。それは場所の事情とも密接に関わるとされるからな」
たとえば金属バブみ巨人【
秩父山地に現れたアホだ。
あれは太古の英雄・ヤマトタケルが建てた神社があるからだろう。
ニホン神話の創造神・イザナギとイザナミを祀った霊験あらたかな地。そしてヤマトタケルの佩いていた『
そのため。
最上級概念霊【消失】の出現が早まろうと。
「国内に現れるなら、長崎鉱山街・軍艦島だろう」
1970年代に消え去った『消失都市』。
衰退した鉱山街は数あれど、離島という土地柄から完全に放棄された地だ。
その特殊性から知名度も高く、人々は『意識』しやすい。
だからこそ関係する概念霊の発生に繋がる。
「戦場跡に【刀剣】系の霊が出やすいように。墓場に【死霊】系の霊が出やすいように。【消失】が出るなら、あそこなわけだ」
「……ちょっと離れたところで、よかったの」
リルちゃんの言葉。
それは長崎の住民を心配してか、あるいは怯えを消し去る時間が欲しかったからか。
どちらと聞くのは意地が悪いか。ゆえに問うまい。それにどちらも杞憂だからな。
「ほれほれ」
「わふっ!?」
リルちゃんを抱き締めてやる。おーちっちゃいちっちゃい。
「カナタさまっ!?」
「安心しろ。市民もおまえも、この空鳴カナタが傷付けさせんよ」
「!」
俺はモブだ。前世は参號級で終わった男だ。
だが、二周目ボディだけは強い。
腹の中で霊たちと鍛え上げ続けた身体は、特號級に任じられるほどのスペックを発揮してくれた。
だからこそ。ソレを奮う機会があるとしたら。
「俺の力は誰かを守るためにある。無論、もしもの時はリルのこともな?」
付いていくと言ってくれたリル。
ゆえにみっちり修行させたが、いざ危なくなれば庇いに行く予定だ。
出会いは最悪だが、今は可愛い同居人だ。傷付いたら悲しいし……何よりオウマにも悪いしな。
あの人、〝廃棄処分だ〟とか言って、リルの椅子や私物を送ってきやがったから。素直じゃないよなぁ。
「怖いならここで待っててもいいんだぞ?」
「っ、ううん、だいじょうぶ、なの! リルに頼ってほしい、の!」
「そうか」
頼もしいチビ犬メイドだ。じゃあ存分に頼らせてもらおう。
「霧雨セツナよりは役に立つの」
「って、はぁ~~!? わたくしのほうが強いんですけど!? 全てにおいてアナタより上なんですけどぉ!?」
「うるさいの、豚ババア」
「バッ、バアアアアアーーーーッ!? わたくしまだ18歳なんですけどぉお!?」
よしよし。緊張は取れたようだな。
セツナさんも相変わらず騒がしい。よきかなよきかな。
「おまえたち。せっかくまだまだ時間はあるんだ。もう少し回るとしよう」
さぁて。せっかくの旅行なんだから、市街地にはあんまりないものを見てみよう。
ちょっとそこの露店でも覗いてみますか~。
「ってあれ」
この露天商、霊媒師じゃね――?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【Tips】
オランダ坂:江戸時代、ニホンで唯一海外貿易をしていた長崎港の一画。外国人居留地の名残で、異国情緒あふれる石畳の坂道である。
付近には観光者向けのオシャレなカフェや店が建ちならび、また頂上付近からは長崎の様子が一望できる。
カナタは軍艦島の様子の観察がてら、同居人の少女たちを気遣ってここにやってきた。
その気遣いを、セツナさんはネット掲示板で『わたくしの夫、お金持ちでイケメン美少女でしかも優しいんですけどぉ~!?』と武器にした。
ゴミである。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
↓途中でも『ご感想』『こうなったら面白そう』『こんなキャラどう?』という発想、また『フォロー&☆評価』お待ちしております!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます