第66話 霊媒師の結末/出現、最上級概念霊【消失】――!
〝私と適合できる霊は【ビックリ箱】だけか。使えないな〟
霊奏師の男はそう言った。
使えない。なるほど。結構。
自分も武器になんてなりたくはないさ。
〝名家の者として恥辱の限りだ。こんなゴミ霊でどう戦えば……〟
気に入らない男の恥じらいなんて、どうでもいい。
戦いなんて、どうでもいい。
〝このグズめ! 私が活躍できないのは貴様のせいだッ!〟
自分は【ビックリ箱】。おもちゃの概念なんだ。
ただ人を驚かせて、そして――。
◆ ◇ ◆
戦闘後のこと。俺はオウマに電話をかけていた。
「――ああ、そういうことだオウマ。ああ、うむ。ではよろしく頼む。……さて」
電話を切り、それから公園のベンチに転がした男を見る。
「ぅぅ……」
霊媒師【ビックリ箱】。胡散臭そうな露天商をやっていた男。俺がぶっ飛ばした相手だ。
ひとまず足の手当は済ませておいた。それから濡らしたハンカチを額に載せたところで、ヤツは身じろいだ。
「おお、気が付いたか?」
「んっ、んぁひっ!?」
……俺の顔を見るや、ビビッて跳ね起きやがった。
失礼な。
「空鳴カナタ……! あぁそうか、おいちゃんは負けたんだったねぇ」
「まぁな」
なかなか愉快な戦いだったよ。コイツの出してきた変な不用品、いくつかは面白かったから回収させてもらったし。
「ちなみに抵抗はやめてくれよ? どうせもう逃げられないからな」
ざっと足音のする方を見れば、公園の入口よりセツナさんとリルちゃんが現れた。
さらに彼女らの背後には何人かの霊奏師が。
セツナさんに頼み、霊奏機関・長崎支部の者たちに応援要請をさせていたからな。
「あちゃぁ~、抜け目ないねぇおチビちゃん……。ひひっ。ついにおいちゃんもお縄か」
「そうだな。おまえは霊媒師だ。無罪の線はあり得ない」
霊媒師【ビックリ箱】は凶悪事件は起こしていない。それは未来でも同じことだ。
一般人に霊具は売っていたが、『ジャンピング座布団』だとか珍妙なモノばかり。
霊具だと気付かず、〝無駄にハイテクなジョークグッズか?〟と思っていた購入者も多かったという。
人が大量に死ぬような危険な代物は、決して取り扱っていなかった。
ゆえに問題が大きくならず、まだ今の時間軸では、捜査線上にも上がっていなかったわけだ。
だが。
「おまえは、契約霊奏師の魂を喰い潰し、身体を奪った」
これだけは明確な重罪だった。
食われた魂はもう帰ってこない。
「霊奏師が身体を奪われるパターンは二つ。霊が狂暴だったか、あるいは霊をよほど酷く扱っていたかだ」
「……」
「【ビックリ箱】。おまえはまるで怖くない。社会に溶け込めるだけの知性と人格がある。つまりおまえは、契約霊奏師に」
「おチビちゃん。過去がどうだったところで、おいちゃんは無罪になるのかい?」
遮るような問い。……俺は首を横に振った。
「ありえんよ。霊に情状酌量なんてない」
法は人間のためにある。
そして概念霊は、悪事を働いた以上、何があってもヒトの敵として扱われるのだから。
害獣にだって保護者は現れるのにな。
「シャバ生活はここで終わりだ。残念だったな」
「……ひひっ。道理だねぇ」
ヤツは納得している様子だった。
胡散臭げなボサボサ髪を掻き、「あ~あ~」と投げやりにぼやく。
それから包帯の巻かれた足を見た。
「どうせならサクッと殺してくれたらよかったのにねぇ」
「なぜだ?」
「だって、おいちゃんは霊媒師だろう? じゃあ死刑一択デショ」
無駄に恐怖しろってのかい~~? と言ってくる【ビックリ箱】。
ああ、その件か。
「死刑にはならんよ。不知火オウマに連絡した。おまえを『八咫烏』に入れるようにな」
「なっ、はぁ!?」
オウマ総帥にはプライベートアドレスを貰っておいたからな。
さっそく役立って何よりだ。
「や、『八咫烏』……。鬼人・不知火オウマが特殊地下牢に飼う連中で、全身に爆弾を埋められ、恐ろしい概念霊相手に特攻させられる部隊じゃ……!?」
「そうだな」
「ハッ――ハハッ、流石は空鳴カナタ! 噂通りに邪悪だねぇ!」
霊媒師は馬鹿みたいに笑った。
そして俺を睨みつけてきた。
「このバケモノが。自分に逆らった相手は、ラクには殺さないってことかい……!?」
前髪の奥、侮蔑と恐怖に震えた視線で俺を見てきた。
おいおい。勘違いするっつの。
「オウマといくつか話をした。おまえは前線に出さんよ」
「……えっ?」
「だっておまえは『ビックリ箱』だ。人を驚かせ、笑顔になってほしいんだろう?」
「ッ!?」
目を見開く【ビックリ箱】。そんな彼に顔を寄せる。
他の霊奏師らも警戒に当たる中だ。聞かれると、オウマの権威に傷が付くからな。
「ぉ、おチビちゃん、キミは何を……」
「『八咫烏』の者らは死罪人。おまえが言うように苦しむことが望まれている。そしてオウマも、表立って奴らに慰問や嗜好品を与えることができない」
だから。
「露天商の仕事、地下牢内部で『八咫烏』相手にやってくれないか? 変なモノを奴らに売って、笑わせてやってほしい」
「!!!」
オウマにはそのへんを話しておいた。
――鉱山街・軍艦島を見て思い付いたことがある。
あの手の鉱山街では『炭鉱札』という独自の通貨を使い、炭鉱夫をその地以外では無一文な状態にすることで、逃亡を防いでいたという。
それと同じことをしてやればいい。
「任務で活躍した者には何ポイント与える――とかな。それで買い物を可能にしてやればいいと」
士気も目に見えて変わるはずだ。
「今までは難しかっただろう。仕入れ業者を出入りさせれば『オウマは犯罪者に温情をかけている』と噂され、イメージを損なう。だがおまえなら独自に物品を召喚できる」
「……ハ」
「あと例の王冠。造形に詳しい【人形】が見たところ、本場
「……ハハ……!」
あとは未知の物品の詳細もわかるんだったか?
素晴らしい霊性じゃないか。
「霊媒師【ビックリ箱】よ。おまえは戦わなくてもいい。その代わりに」
ヤツの前髪を撫でるように掻き上げ、目を合わせさせる。
「勝者としての命令だ。戦う者たちを、笑顔にしてやってくれ」
「ッ――!」
答えは即座に返らなかった。
だがまぁ表情を見ればわかるさ。
「あぁ……ああっ、ハハッ、はははははっ……! こ、これは驚いたっ、はは! おいちゃんのような害獣に、そんな……ははっ。キミは、とんでもない悪おチビちゃんだ……! 噂以上の、邪悪だねぇ……!」
「気に入らなかったか?」
「いいやッ」
霊媒師【ビックリ箱】は地に胡坐をつき、深々と頭を下げた。
その身は酷く震えている。下げられた顔がどうなっているかは見えない。
「おいちゃんの完敗だ。喜んで屈服させてもらうさ、勝者様……!」
こうして、思わぬ騒動は幕を閉じた。
まさか【消失】戦の前にこんなひと悶着があるとはな。
人生、何があるかはわからない。まさにビックリ箱のような一件だったな。
◆ ◇ ◆
「空鳴カナタやべぇな。霊媒師を怯えさせて頭下げさせて泣かせてたよ……!」
「可哀そうになるくらい震えさせてたな。アイツに逆らったらこうなるってことか……」
「霊媒師、グチャグチャの泣き笑いで護送されてたな。たぶん精神崩壊させられたんだよ」
長崎霊奏師ども長崎霊奏師ども長崎霊奏師どもッッッ!
「貴様ら……(おまえら何好き勝手なこと言ってんだゴラァァアアアッッッ!?)」
「「「うわぁッ、空鳴カナタがなんか睨んできたーーーー!?」」」
霊媒師【ビックリ箱】が捕まった後のこと。
霊奏師たちをガン飛ばして追っ払ってから、俺はドブッ娘モンスターズ・セツナピッグ/リルチュアドッグと合流した。
「色々なものがありますねぇ」
「あるのー」
『異国のものまでございますな~』
で。今は頭だけネコちゃんな電子妖精ナロも交え、霊媒師がばら撒いた品を公園内で見ているところだ。
風呂敷の上にはそれこそ様々な謎グッズが。
「あ、この下駄、オウマおとうさまのヤツなの。西洋品使うのは嫌だったけど、けっきょく下駄は使いづらいから倉庫にポイしたやつなの」
「ここっ、このブラジャーってわたくしのやつじゃないですか!? サイズがちょっと足りなくなって、先日タンスの奥にしまったやつ……!」
『こんなクソデカブラジャーでもサイズ不足なんでございますか!? この豚団子! お脂肪の子!』
「うるさいですねっ!? 乳腺改造し始めてからまた育ったんですよ! おっぱいから成長痛がするんですよ!」
「おまえキショいのっ! ファックなの!」
ぎゃーぎゃー喚きあう品性パワーボムガールズ。
ドブ御三家は今日も元気だ。
こいつらが淑女チックになるまで何万光年かかるのか……。
『それにしても流石はカナタ殿下でしたな~っ』
「ん?」
『霊媒師を捕らえた上で心酔させ、さらに『八咫烏』に恩を売って忠誠度を追加盛りするとは! もう『八咫烏』に指示を送れば、いつでもオウマを暗殺できる状況ですな!?』
ってンなこと考えてねーよ!
単純に『八咫烏』がラクになればいいなと思ってのことだっつの。
オウマもわかってる……はずだよな!? まさか電子妖精ナロカスみたいなこと考えてないよな!?
「うぅ、カナタさまとオウマおとうさまはぶつかり合う運命なの。間に立つリルは止めることができないの。リル、まるで物語のヒロインなの……!」
「はぁああ~~~!? わたくしのほうがヒロインなんですけどぉ!? ヒロイン宣言は生理来てから言ってくださいよ! 経血量で勝負です」
「おまえホントキショいの! 死ねなの!」
『むむむ。カナタ殿下のお世継ぎを造るためにも、人工子宮も作らなければでございますな。いっそ【人形】氏と協力し、ボディも……?』
もうコイツらのことは無視しよう。
俺は【ビックリ箱】が置いていった中でも、特に気になる品を手に取る。
銀細工の薔薇冠――霊具『反逆の王冠』だ。
『復讐してやる、復讐してやるぞ
「なんだこいつ」
意味わからん王冠だ。
恨みの言葉を吐いていること。そしてデザインが『魔神帝』クローヴィスのやつと同じあたり、たぶん製作者はクローヴィスに恨みがあったんだろう。
皇帝と同じ王冠を被ることで、〝自分こそが皇帝だ〟と宣言してみせる意図があったのかな?
そのへん聞いてみるか。
「あー、『反逆の王冠』よ。喋れるようだし質問するぞ」
『貴様、リベルタリア人か!?』
「ニホン人だが」
『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! 白髪
うるせえよ。
『リベベ、リベベベベベベ……!』
よくわからんが会話できないことはわかった。
元々霊具とは物品。喋れること自体ほぼありえないし。
『リベベーベ、ベーベベ……!』
「おまえもう逆にリベルタリア好きだろ」
知性というものを感じられない。
擬獣化や擬人化をしてる概念霊と違って脳みそないから、たぶん記憶もなさそうだ。
『くっ……リベルタリア……! なんか、誰かに放り捨てられたり無理やり加工された気がするから潰すぞリベルタリア……!』
「気がするで国を潰すな」
知能ゼロのテロリズムやめろ。
「とにかく恨みがあるのはわかった。ならば俺についてこい。かの大帝国とは、いずれぶつかる定めだからな」
『リベッ!?』
五年後にはニホンに再侵略をかけてくる予定だ。
その時には否が応でも戦わにゃいかん。
「だから協力しろ。異存はあるか?」
『……フッ、いいだろう。契約してやる! 勝利の王冠を私に捧げよッ!』
「王冠はおまえだろ」
ともかく緊急で戦力が増えた。
知能ゼロの反逆者、王冠くんだ。
『だがあくまで私たちは共闘者。貴様の軍門に下ったわけではない。ゆえに私を好きに出来ると思うなよ!?』
「そう……(姫騎士みたいにめんどくせぇな……)」
まぁ姫騎士も知能ゼロだしそんなもんか。
――そのようなことを考えていた時だ。リルがびくっと身を震わせ、そして顔を真っ青にし始めた。
「リル?」
「かっ、カナタさま、感じる、の……! なにか、怖いのが来るの――ッ!」
彼女が叫んだ瞬間だった。
魂を揺さぶるような霊力の圧が発生。俺は即座に気を引き締める。
「ああ……来たようだな……!」
発生源は、軍艦島。つまり。
「最上級概念霊【消失】のおでましだ――!」
『リベルタリア!?』
違う。
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【Tips】
王冠:統治者の証。また数多くの文化圏や宗教においても特別な霊的意味合いを持つ。
その一つとしては『神から授けられた統治の資格』。
社会的頂上に立つ者がその頭上に降ろす王冠は、すなわち天上の神より従僕者の人間の身にてヒトを総べる〝神の代行統治者〟であることを意味する。
ゆえに各国の戴冠式においては、宗教的権力者が儀を執り行うことは珍しくない。
たとえ王冠がない文化圏であろうと、総理大臣が任命式において皇族代表者の新任を必要とするように、統治者となることは神に認められる必要があるのである。
そして。つまり。
王冠を未承認の身で手にするということは、国家及び、『神への反逆』も意図するのである――!
概念霊【神】「!?!?!?(ゾクゾクゾク!)」
オウマ:「現覇権国家の王冠と同じデザインの冠を手にするということはつまり、リベルタリアだけでなく俺にも打ち勝ち、世界の支配者になることを宣言している……? 流石だ宿敵……!(+気力140%)」
カナタ:「違う違う違う違う!!!」
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@〝極悪令嬢の勘違い救国記 ~奴隷買ったら『氷の王子様』だった……~〟
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