第67話 黒鯨

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▼すみません三日ほど投稿してませんでした。

概念霊【消失】にやられてました。

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 横乳クールビューティーのセツナさん。

 犬耳メイドのリルちゃん。

 ゆるふわマスコットのナロちゃん。


 そんな見た目はいいけど人格ドブなドブトリオから少し離れたところで……俺はトラブっていた。

 原因は『反逆の王冠』だ。



「おい、王冠よ」



 ――世界の支配者『魔神帝』と同じデザインの冠。

 そんなもん被ったらなんか政治的意図を疑われそうだ。


 それなのに。



「ふよふよ浮いて頭に載ってくるな」


『私に指図するな!!!』



 なんだこいつめんどくさッ。

 払っても払っても頭に載ってきやがって。



『む? 私はなんで被られてるんだ……!? リベルタリアの策略か!?』


「しかも三秒前のことほぼ忘れるし」



 流石は霊具だ。脳みそないからその場のフィールで生きてやがる。

 こいつは並々ならぬ憎悪によって意思を持つようだが、普通は喋れもしないからな。知能なくてもしょうがないか。

 被ってると頭悪くなりそうだ。外そう。



『被られてないと私さびしい。どこかに王の血を引いてそうな高貴っぽい者は……む、貴様、いいな。私を被る権利をやろう!』


「ええ……」



 また勝手に浮いて載ってきた。コイツめんどくせぇぇ……!

 そしてさらに、



『銀の茨で囲まれた赤薔薇の王冠。ウム、デザインはヨシ~』



 そんな王冠を見て、白ロリドールの【人形】さんがぶつくさ呟いていた。



『でもカナタサマの今のビジュアルに大人用王冠は合わないのデス。サイズを落としたプリンセスミニクラウンとして側頭部に飾るのがベターデスネ~。印象を引き締めるために黒のシュシュを王冠外周に添え、また王冠下部には黒リボンを結び付け、トドメに黒レースを垂らしましょ~。ゴシックヨシ~』



 彼女は天才造形師。その美的センスで着こなせかたを決めたようだ(俺を無視して)。

 ちまちまおててで王冠をぺちぺち叩いて指示を出す。



『キミ、ちっちゃい王冠になりなさい』


『む!? 私を好きに出来ると思うなチビ人形!』



 おぉ反逆した。流石は【反逆】の霊性を取り込んだ王冠だ。

 だが。



『ちっちゃい王冠になりなさいちっちゃい王冠になりなさいちっちゃい王冠になりなさいちっちゃい王冠になりなさいちっちゃい王冠になりなさいちっちゃい王冠になりなさいちっちゃい王冠になりなさいちっちゃい王冠になりなさいちっちゃい王冠になりなさいちっちゃい王冠になりなさいちっちゃい王冠になりなさい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


『ひぇっ!?』



 ……わがままパワーの前に敗北。


 霊具『反逆の王冠』はデザインをそのままにしゅるしゅるとサイズダウンし、【人形】は上機嫌で飾り付けを始めるのだった。


 あのさぁ……そもそもさぁ……。



「……最上級概念霊【消失】が現れた中、何をやっているんだ……?」



 長崎中から、警報と悲鳴が轟いていた。


 なぁ【人形】ちゃん? 国が絶賛ピンチなんだが?

 今の俺でも死ぬかもしれない大バトル前なんだが?



「おい【人形】。下手をすれば国が亡びる決戦を前に、いつまでふざけて」


『だからこそオシャレが大事ジャナイデスカカナタサマンゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッーーーーーー!?!?!?!?!?!?!?』



 ひぇっ!?



『ウゥゥゥウウンッ頭部を飾り付けると身体のデザインのボリュームが足りなくなりますネ~。カナタサマ、霊奏機関の正装黒外套バンカラを使いマショー。身体を横に広げるマントは印象を豪華にさせます。あ、でもせっかくのゴスワンピから出た綺麗な二の腕と脇が隠れてしまうのはモッタイナイ。またファッションデザインの妙とは〝三角形〟にあり、プリンセススカートのように下部で広がると壮麗さが増すとされることから……ヨシッ、黒外套バンカラの肘上となる部分に赤い布ヒモを通して、胸下にかけて縛りましょう! これで外套上部が足り下がり、肩出しショールのように二の腕だけが見えて引き立つほか、胸下にくるヒモによってウェストの位置が高く見える効果がデスネ~ッッッ!』


黒外套バンカラ、貰ったけど家に置いてきたんだが(着用義務ないし……)」


『アアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ罰として母乳分泌機能実装ッッッ!!!!!!!!!!』



 はあああああああっ!? じょ、冗談だよな!?



『もうっ、服作るから待ってナサーイ!』 



 糸を生み出して高速で編んでいく【人形】さん。

 ……一分とかからず出来上がりな速さだが、その一分の間に、ニホンは大騒ぎになっていくんだが?




◆ ◇ ◆




「霊装解放、『業魔絶鋼・地獄鳥』――!」



 腰より十二の殺刃翼を噴かせ、俺は長崎の空を一気に飛んだ。肘下に纏った外套が風にはためく。



「街の様子は……酷いな」



 眼下では大混乱が起きていた。

 テレビ・ラジオ・街頭スピーカー全てより〝軍艦島に、最上級概念霊が出現しました! 長崎の皆様は県外に避難を!〟と避難要請が唸り、何万もの人々が道を駆けている。

 まさにパニック状態だ。霊奏機関の黒服らが誘導に当たっているが、なかなか上手くいっていない。

 酷いな。

 


「――こうなるのも当然ですね。最上級概念霊の出現なんて、国が吹き飛びかねないほどの事態ですから」



 氷のボードに乗ったセツナさんが続く。

 俺についてこれるか不安だったが、気を遣わずとも牽引風スリップストリームを利用して超速で翔けていた。

 やはり優秀な女性だ。



「小国ならば壊滅必至。大国ですら、社会が終わるほどの大打撃を受け、体制や国名が変わるほどの事態になった例がいくつもあります。百年前の『ワルシャワ屍鬼行進グールパレード』がいい例でしょう」


「ああ……」



 最上級概念霊【吸血鬼】が出現し、ドイツ・チェコ・ポーランドが崩壊。


 事件解決後に統合され、『グリムシュタイン大公国』となった一件か。



「むむむぅっ、カナタさまと難しい話してるの~っ」



 強風の中、セツナさんの背後から声が響いた。

 リルちゃんだ。セツナさんに必死でしがみつきつつ、彼女のことを恨めしげに見ていた。



「霧雨セツナのくせにっ」


「ちょっ、〝霧雨セツナのくせに〟ってどういうことですか!? かしこいかわいいワタクシに向かって!」


「うるさいのトンチキ豚ッ。どーせリルは勉強できないの。歴史わかんないの。お話についていけないのぉ……!」



 あーあー拗ねてらぁ。

 何か言おうと思ったがしかし、リルに抱かれた顔ネコぬいぐるみのナロちゃんが『あのぉ、リル嬢?』と声を掛けた。



『よければわたくしめが教えましょうか……? 頭だけには自信ございますゆえ』


「ほんとっ!?」


『は、はいっ。神算鬼謀のカナタ殿下には敵わないでしょうが!』



 誰が神算鬼謀だっつの。頭そんなよくねーよ。



「ナロちゃんとお勉強うれしいのっ。わーい!」



 まぁともかく、リルちゃんが笑顔で何よりだ。

 ナロも彼女には何かしてあげたかったのだろう。亜人生産者たる自身……あるいは母の被害者だからな。仲良くしてほしいものだ。

 セツナさんは一人ハブられ、頬を膨らませているが。クールキャラどこいった?



「ぷっぷくぷー! わたくしだって勉強教えれるんですけどぉ! ちっちゃい女の子に勉強教えるのが夢なんですけどぉ!」


「おまえはキショいのっ! 死ねなの!」



 ……前々から思ってたけど、セツナさんってロリコンの気があるよな。

 妹のシャロちゃん大好きなのもそういうことか?



「色々言いたいことはあるが……三人とも、緊張していないようで何よりだ」



 少しでも恐怖を見せるようなら置いて来ていた。

 恐れは大切な感情だ。蛮勇を静めて冷静さを与える。

 だが、決戦直前まで尾を引くようでは、足を竦ませるだけだからな。


 何より、震える女の子を戦場に連れてくるのは忍びない。



「大丈夫なのっ。カナタさまのために、リル、戦える、の!」


『フフフッ。リル嬢に歴史を教える前に、われらカナタ殿下一行が歴史になりそうですなぁ!』


「うーっふっふっ。最上級概念霊の捕獲に貢献出来たら、我が霧雨家は名声大量ゲットですね! ネットの底辺ライバルどもにお配りしたいほどですっ!」



 最後のロリコン雌豚ドブ空気嫁はともかく……三人ともやる気バッチリのようだ。



「よし。ならば挑むぞ、最上級概念霊【消失】に――!」



 天を翔けた先。既にヤツの巨体は見えていた。

 軍艦島の上空にて、六枚の光翼を広げて揺蕩たゆたっていた。



『滅亡絶滅崩壊終焉忘却消尽断絶逸失風化虚無灰燼消去無化消弭、無無無無……!』



 ――最悪の念仏がおぞましく響く。

 生命・物質・歴史・概念、総べて消えろとソレは謳っていた。願っていた。



「上機嫌だな、デカブツ」



 まさに偉容。

 ソレは、光翼と霊光輪ハイロゥを輝かせた、『鯨化した巨大戦艦』だった……!



「カ、カナタさん、あの姿は……っ」


「ああ。百年前の大戦後、長きにわたって忘れられていた戦艦『武蔵』をモチーフにしているな」



 戦艦『武蔵』。近年ではサブカルチャーにて取り上げられる存在だ。

 だがそれまでは別だった。戦後の動乱期には回収する余裕もなく、昭和後期には話題に上がることもなくなった。

 また沈没地点もほぼ不明。国も探す気も労力もなく、結果、発見されたのは2000年代に入ってからとなってしまった。



「人を消し去る兵器にして、人の意識から消し去られていた遺物」



 だからこそ、最上級概念霊【消失】はあの姿となったわけだ。

 戦艦と融合したような黒鯨コクゲイの姿に。



消消キキィ……!』



 戦艦は笑った。

 鯨に擬獣化していながら、人面に近しい狂気的な笑みを見せ、側面に無数の射出口を開いた。

 そこから大量の魚雷が顔を覗かせる。



「来るか」



 そちらに向かう俺たちを撃墜する気か。

 そう思ったが、しかし。



消消消消消消消キキキキキキィイイイイーーーーッッッ!』



 黒鯨は――魚雷を足元へと。つまり出現地点となった軍艦島に投棄した。



「は?」



 爆散していく軍艦島。【消失】から放たれた魚雷は異様だ。闇色の爆光が一瞬起きるも、次の瞬間にはブラックホールのように内側へと収束し、地面がごっそりと消えてなくなる。軍艦島が跡形もなく消えていく。


 そんな中――人がいないはずの島から、やかましい悲鳴が響いた。



「うわぁあああああああんッ! あんなの勝てないわよぉおおおおお~~~ッ!」


「ごじゃぁああああ~~~~ッ!? だから逃げろと言ったでごじゃるよぉーーーーーーっ!」



 ……子ネズミのように走り、エビのように跳ねる二つの影。


 軍艦島にはなぜか、俺の姉ヒナミと、セツナさんの妹シャロちゃんがいた。


 ――は!?




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【Tips】


『ワルシャワ屍鬼行進グールパレード』:百年前にポーランド・ワルシャワ地方で起きた事件。


百年前。強国化していくアメリカを前にドイツは日本・イタリアと日独伊霊奏同盟を組み、『第一次霊滅大戦』に踏み切った。

戦艦『武蔵』が沈没したのもこの時である。


なお、結果は引き分け。

戦争は泥沼化し、全ての国は戦費に枯れ果て、弾丸と人員が尽きたことで雲散霧消に終わってしまった。


これをきっかけにアメリカで革命が起き、『神聖リベルタリア帝国』に生まれ変わったのは誰もが知る話である。


一方、ドイツもまた窮地に立たされていた。

戦後、干上がっているところを狙って冷戦中だったポーランドが侵攻。

それを迎え撃てる霊奏師も兵器もほぼ皆無。全て霊滅大戦で使い潰してしまったからだ。


かくして当時、独裁的だった軍部は悪魔の手段に手を染める。

すなわち――封印されていた最上級概念霊【吸血鬼】と契約を交わし、敵国を滅ぼそうという手段に。


その結果は、地獄だった。

〝一万の国民を捧げるゆえ、百万の敵国民を殺してくれ〟という契約を【吸血鬼】は守った。


だが【吸血鬼】に血を吸われた者は、劣化した吸血鬼『屍鬼グール』になるということは、【吸血鬼】は伝えていなかった。


それにより虐殺を超えた大虐殺が発生。


【吸血鬼】が侵略したワルシャワを起点に、大量の屍鬼軍団が跳梁跋扈。

屍鬼もまた屍鬼を生み出し、その屍鬼もまた屍鬼を生み出し――そして誰もいなくなった。

ポーランドのみならずドイツ、両国に挟まれていたチェコがついでに壊滅。

朝日と共に【吸血鬼】は昇天(※一説では生きている)したものの、その頃には三国全てが終幕していた。


その後、奇跡的に無事だった者や国外に逃げおおせていた者が集結し、現代の『グリムシュタイン大公国』となった。



霧雨シャロ:三十話ぶりに登場。コスプレ忍者風少女。セツナさんの妹。特徴はうるさい。


空鳴ヒナミ:二十話ぶりに登場。カナタの姉。ゴミ。


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