第25話 いざ資格試験へ!



 あの後のこと。

 ミチタカ父さんらが総帥などと会議を行うことになり、結果、【緋々色金ヒヒイロカネ】は霊奏機関本部で預かることとなった。

 俺はちょくちょく霊力をあげにくるって感じだ。

 本人(本霊?)は、



『ママと離れたくないグゴォ~~~!』



 とか泣いてたけど。


 俺と一緒に前線に出て祓われたらイカンからな。妥当な判断だろう。きしょいし。


 まぁアレとは魂の契約を結んだ仲だ。

 マジでヤバいときは呼び出すことも出来るから、俺の戦闘力も増えたと言っていいだろう。


 で。



「――ほぉらシャロさん。『振動刃糸なわとび』、あと十回がんばですよ?」


「ひぃっ、ひぃっ! 死ぬでごじゃるよカナタくんッ!」

 

「巫術がちゃんと維持できてれば、【忍】の技術で失敗しませんって。はい、ぴょーんぴょーん」


「ぴょーんッ!」



 巨人の出現から数日。

 俺は自分の技術を磨きつつ、シャロちゃんのことも鍛えてあげていた。


 経過はかなり順調だ。

 最初は巫術ですぐにガス欠していた彼女も、今ではかなり霊力を制御できるようになっていた。


 怪我しないよう細心の注意を払いつつ、かなりハードな修行をさせているからな。



「えぇぇえんっ、厳しすぎるでごじゃるぅ! カナタくんの鬼ぃ!」


「すみませんね。でもシャロさん、まっとうな修行では確実に試験に受からないでしょう?」


「うぐぐぐっ」



 時間が無かったからなぁ。


 一周目の世界ではシャロちゃんは普通に落ちて、それで焦って強敵に突撃して剥きエビエンドになる運命だ。

 万が一にもそうならないよう、ビシバシしごかせてもらうことにした。


 なお、



「ちょっとっ、わたくしの可愛いシャロが泣いているじゃないですか! カナタさんには人の心がないんですか!?」



 などとギャーギャー言ってきたのは、我が家に生息するシスコンヨコチチメスピッグの霧雨セツナさんだ。

 今日もクール系美少女顔が大変うるわしい。

 中身はフールだが。



「セツナさん。お気持ちはわかりますが」


「わかるならシャロを甘やかしなさいッッッ!」



 うるさ……。



「いや、甘やかしたらダメですって……」


「お、教育方針でレスバしますか? いいでしょう。わたくしネットとかよくやるから強いですよ?」



 知らねえよ。



「あのですねぇセツナさん。試験まで時間がないし、ただでさえシャロさん、根性ないからすぐサボろうとするんですから、厳しくしないと……」


「根性ないところも可愛いのがシャロなんですよ! バーカバーカ!」



 は?



「この雌豚が」



 気付けば俺は、白い横乳におもいっきりビンタしてしまっていた。

 バチィィィィイイインッッッという音が盛大に響いた。



「はぅんッッッ!?」



 あ、しまった。



「いっ、いっだぁあ~~~~いっ!? カッ、カナタさんがっ、わたくしの胸をぶったぁ~~~!?」


「すみません、つい」



 セツナさんの横乳には赤い手形がばっちりついていた。


 うぅん……これはきっと身体くんが勝手にやったことだな、うん。

 俺がこんなことするわけないしね。俺、善良なはずだし。



「〝つい〟で胸をビンタする人がいますかぁッ! うぅっ、男の人に痛めつけられるなんてっ、未来の旦那様になんと言えば……!」



 突き出た胸をヨシヨシとさするセツナさん。

 いや、セツナさんは一周目の未来だと『氷の女』化して未婚で四十代迎えたぞ?



「もうお嫁にいけませんっ! 当主のカゲロウお爺様に言いつけてやりますからっ!」



 と言って彼女は、横乳から携帯を出した。

 どこにしまってんだよ。



「ぽちぽちぽちっと――あ、もしもしお爺様? わたくしです、セツナです。実はですね、例のカナタさんにこんなことをされまして……えぇ、はい……それでわたくし傷物にされ、どうか制裁を…………えッ、いやいやいやいやっ!? それはたしかに『責任』取ってもらったことになりますがっ、え……いやまぁ顔は良いですけどッ、それはっ!」



 何のお話をされてるんだ?



「う、うぅ……!」



 やがて電話を切るセツナさん。

 そして、大きな瞳を涙目にして俺を睨んできた。

 なんだよ。



「どうしたんですセツナさん? お爺様になんと言われたのですか?」


「うっ、うるさいですよウワーーンッ!」



 彼女は真っ赤な顔で叫ぶと、氷の板を出してふよふよどこかに飛んで行ってしまった。

 パンツ見えてるぞ。



「あのお姉様が手玉に取られてるでごじゃる……! やっぱりカナタくんは鬼畜でごじゃる……!」



 そこで、試練を乗り越えてダウンしているシャロちゃんがなんか言ってきた。



「そんなんだから、ニホン中からビビられるんでごじゃるよぉ!」


「む」



 ぐぬぬぬぬ……シャロちゃんめ、嫌なことを思い出させてくれたな。



「はぁ……(例の【緋々色金ヒヒイロカネ】捕獲騒動の後のことだな)」



 俺は、ワクワクしながらエゴサした。


 地方霊奏師らを指揮し、前世と違って誰も傷つくことなく【緋々色金ヒヒイロカネ】を確保してみせたんだぞ?


 そのあとオウマ総帥になんか勘違いされることもあったが、まぁあれはあの人が俺を警戒してるからだ。

 きっと世間のみんなは〝カナタくんはすごいなぁ善良だなぁ〟と気付いていることを信じ、父さんに携帯を買ってもらって調べてみたら……、



〝空鳴カナタやばすぎ。霊奏師さんたちを脅して従わせてるよ……!〟

〝超絶爆乳美少女を雌豚マゾ奴隷にしてやがる……!〟

〝巨人をめちゃくちゃに調教してる……。この子やっぱりやばいよ〟

〝うわぁ、空鳴カナタが【緋々色金ヒヒイロカネ】の所有権を得た! ニホン終わりじゃね!?〟

〝オウマ様を脅迫してやがる! こんな邪悪見たことねぇッッッ!〟

〝総帥に目をかけられてた霧雨家のセツナ様を篭絡してやったって、わざわざ挑発するみたいに言ってやがる……!〟

〝『八咫烏』のヤツも支配下において、懐を刺されないように気を付けろって脅してやがるぞ!〟

〝父親も洗脳して、名家二つと関係を持たせた!?〟

〝こいつ合法的にニホンを支配しようとしてやがる!!!!!!!!!!!!!〟

〝ウチの【女王様】の概念霊が『負けた……』って言って昇天したんですけど、責任取ってください!!!〟

〝↑ナマイキなことを書くのはやめろ! 空鳴カナタがニホンを支配したら、おまえら消されるぞ!?〟

〝こわいよおおおおおおお!〟



 ――などと、俺はボロッッッックソに言われて、恐れられていた……!


 全部勘違いだっつの!



「そんなに怖いですかねぇ、自分?」


「超怖いでごじゃる! でも拙は理解わかってるでごじゃるよ、カナタくんの鬼畜プレイは愛の表現なんだって……!」



 鬼畜扱いやめろ。おまえは何を理解してるんだ。



「じゃあシャロさん、次は負術の訓練にしましょう。こちらに術をかけてください」


「しゃぁーっ! カナタくんを責めてやるでごじゃる!」


「なお模擬戦形式の本試験を意識し、自分もシャロさんに負術をかけまくってあげます」



 俺は剣指で銃を作った。憑霊の上級霊らをそこに込める。



「ごっ、ごじゃぁ!? あの巨人みたいに精神崩壊させる気でごじゃるかぁ!?」


「すべてはシャロさんのためですので」


「あ、愛が重いでごじゃる~~!」



 こうして俺は、シャロちゃんのことを徹底的に鍛え上げた。





◆ ◇ ◆




 そして、ついに。『霊奏師資格試験』の日がやってきた。



「マロさん、おかわり」


「よく食うでおじゃるなぁ~~!?」



 今は空鳴家で朝食タイムだ。

 マロさんの絶品ハムエッグと特製浅漬けをおかずに、ドンブリご飯(五杯目)をガツガツ食べる。



「ははは。カナタは子供なんですから、よく食べるのはいいことですよ。大人になるとすぐに脂肪になりますから」



 と快活に笑うのは、父ミチタカだ。

 そんなことを言っている彼だが、その身体は一週間前よりも引き締まって見えた。



「父さん、本当にカッコよくなりましたよね?」


「そうかい? ふふ、キミの修行にみっちり付き合ったおかげかな?」



 微笑む父親。その顔立ちからも大人の余裕が感じ取れた。


 二周目の俺と出会ってから一週間。この人はずっとハイスペボディの俺の修行に付き合ってくれて、なおかつ【緋々色金ヒヒイロカネ】の利権について、名家二つを味方に政府高官らと舌戦を繰り広げてくれたからな。


 それだけの経験をすれば、そら人相も進化するわ。

 もうこの人が十年後に戦死する未来が見えないってばよ……。味噌汁飲も。



「ずずっ……ん、今日のお味噌汁は濃いめですね」


「っ!? なんですかカナタさんっ、わたくしの味付けに不満が!?」



 と言って立ち上がったのは、住み込み和風メイドと化したセツナさんだ。


 最初は掃除するだけの予定だった彼女。

 なのに最近は、なぜかマロさんに料理を習っている。

 この味噌汁も彼女作だったか。



「ふんっ。どうせわたくしは、これまで修行一辺倒の女で……」


「いえいえ、美味しいですよセツナさん」


「えっ」



 味付けが違うことに驚いただけで、不満なんてないっつの。



「むしろ今日は試験本番、よく動くので塩分はありがたいところです。ご飯とも合いますし、セツナさんはお料理上手ですね」


「っっっ……! そ、そ~ですか。ま、カナタさんに褒められても全然嬉しくないんですけどねっ」



 プイッとそっぽを向いてしまうセツナさん。


 ははは、嫌われたものだなぁ。

 元から出会いは最悪だった上、このまえの御当主に電話した日から、妙に距離を取られるようになったし。


 おおかた、〝あのバケモノとは距離を置け〟とでも言われたのかな?

 仕方なしか。



「本当に美味しい。セツナさんは良いお嫁さんになりますね」


「!?!?!? カッ、カナタさんっ、アナタわかってて言ってます!?」


「はい?」



 なんかさらに怒らせてしまった。

 料理が美味しい=良いお嫁さんになるというのは、ちょっと時代錯誤な誉め言葉だったか……?


 今は2030年。

 ジェンダーフリーな時代だからな。

 男側も家事には協力しないとな。



「自分もマロさんにお料理を習いましょうかねぇ。将来の家庭のために……」


「かっ、家庭って!? アナタやっぱり、お爺様からされた話を知ってるんです!?」


「はい???(さっきからなんだよ)」



 ともかく騒がしくも楽しい雰囲気で、俺たちは朝食の時間を過ごした。



「――さてカナタ、そろそろ出かける時間だ」



 食後、落ち着いたところでミチタカ父さんが言う。



「試験の場所は霊奏機関・東京本部。その特別演習広場で行われるよ」



 俺は頷いた。

 ――実質、俺にとっては二度目の試験だ。



「そうですか……(一周目では十八歳になってようやく受かったなぁ)」



 しかもギリギリだった気がする。

 自分の非才っぷりが悲しくなったよ……。



「霧雨シャロさんとはそこで落ち合う予定だね。私も応援に行かせてもらうよ。カナタはもちろん、ヒナミとミチオも試験を受ける予定だからね」



 あぁ。霊奏学園に寄宿中の姉さんと兄貴な。


 今はたしか十歳か。ちょうどシャロちゃんと同い年だな。

 シャロちゃんも学園生だし、付き合いあったりするのかな?



「楽しみですね、お姉様とお兄様にお会いするの(あの二人、たしか今回の試験で受かるんだったなぁ)」



 性格はアレだけど、本当にすごいわ。


 それに比べたら一周目の俺はなんだろう……。

 完全に、あの二人の出涸らしみたいなもんだよなぁ……。



「ああ、それと『村正組』のヒノスケさんも来るそうだよ。試験の後半までに、カナタに渡したい物があるとか」


「へぇ」



 それは楽しみだなぁ。期待しておこ。



「ともかく霊奏師資格試験、頑張るぞ」


「カナタさんはもう頑張らなくていいと思いますよ……?」



 なぜかセツナさんに呆れ顔で言われた。解せぬ。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

第三章:特訓編、完結!




ここまで本作をお読みいただきありがとうございます!

もし「応援したい!」と思ってくれる方がいらっしゃれば、


フォロー&『☆で称える』ボタンを3回押して応援していただけると嬉しいです!

更新の方、頑張っていきますので、何卒よろしくお願いいたします!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る