第36話 模擬戦開始! 負けないで蛇塚くん!



「ヒノスケさん、ヒノスケさん?」


「なんじゃいじゃい」


「じゃいじゃいじゃないですよ。なんですか『業魔絶鋼・地獄鳥』って」



 俺はみんなから善良だと慕われたいんだが?

 もっとジャスティスな武器名がいいんだが?



「装備名、悪役じゃないですか……」



 人生一周目はモブで二周目は悪役なんて嫌だよ。

 子供に人気出てカナタくんごっことかされてえよ……。



「なんじゃ、カナタの旦那は正義モンがええんか?」


「もちろんですよ」


「人と手を繋ぐためじゃなく殴るために手がついてて、愛を語るためじゃなく罵るために口がついてるような旦那が?」



 ふざけんな。



「生物兵器扱いしないでください。こちらは人気者になりたいのですけど」


「カナタの旦那が!? いったい何のために……あっ」



 そこで、ヒノスケさんはハッとした顔をした。

 そして俺を見てニヤッと笑う。え、なに?



「なるほどのぉ……カナタの旦那の次の『策』が見えてきたぜよ」



 策!?



「まぁ旦那は好きに生きればええわ。前にも言った通り、ワシゃぁ『不知火オウマの治世』だろうが『空鳴カナタの乱世』だろうが、求められるだけ武器を打つだけじゃ」



 いや空鳴カナタの乱世ってなんだよ。

 俺、そんなもん起こす気ないんですけど?



「かかかっ。むしろ理想は、二つのカリスマがぶつかり合う社会か……! それが一番、武器の需要が増えるからのぉ」



 などと言って笑うヒノスケさん。



「カナタの旦那の登場で、オウマのとっつぁんも新しい味わいを見せてきた。エェ武器が打てそうで、旦那には感謝じゃよ」



 ……前々から思ってたがこの人、ちょっと倫理観アレだよなぁ。


 流石はニホン屈指の武器製造グループ『村正』の若頭。

 暴力のための道具をニホンで一番作り続けてきた組織の次期トップだわ。



『こりゃ~カナタ! 早く来るのじゃ! どこで油売ってるんじゃ~!?』



 駄弁っているとモヨコ先生にアナウンスで急かされた。はいはいっと。



『ヤク売っとるのかぁ!?』



 売ってねえよ。



『おぬしのようなド不良はイカン。放っておくとすぐに悪事をするのじゃ! どうせ死の商人と闇会話とかしてるんじゃろ!』



 してねーよ。

 ……いや、してるのか?



「お、モヨコのミニバアが急かしてらぁ。行ってこい旦那」


「武器の名前……はぁ、時間ないですしいいですよもう。というかミニバアって酷いですね」



 ミニブタじゃないんだからよ……。



「霊奏学園トップですよ? 霊奏師みんなの先生ですのに」


「いんや。ワシ、霊奏学園通っとらんし」



 え?



「村正家のガキはな、生まれてから十八年間は鍛冶工房から一切出られないんじゃ。ヒトへの情とか湧かんよう、隔離されてずっと武器だけ作らされるんじゃ~」


「死の商人とか育ててます?」




 ◆ ◇ ◆




 グラウンド中央には、いつの間にやら白線で大枠が書かれていた。

 あそこが今から模擬戦の舞台になるわけだ。

 そこを囲むように立つ受験者たちや付き添いの者たち。それと、



『おぉっとッ、テレビの前のみなさん、ご覧ください! 空鳴カナタです! 空鳴カナタがやってきました!』



 デカいカメラやクルーを引き連れた、テレビリポーターがやってきていた。

 え、嘘?



「おぉ、カナタ来たのぉ。そのケースがおぬしの武器かえ?」


「ええ、死の商人からもらいました」


「えッ、マジで死の商人と話してたの!?」


「そんなことよりテレビカメラが入ってるじゃないですか。どういうことです?」



 霊奏師試験は隠されて行われるものだ。

 霊媒師対策に情報秘匿……ってのもあるが、それ以上に、後半の模擬戦じゃ子供から血が噴き出すんだ。死者も出る。とても電波に乗せられない。


 まぁ世間の人たちは、未来のスターたちのガチバトルに興味津々って感じだが。



「聞いていないのですが(前世でもテレビオーケーなんてなかったし)」



 一体何が起きているのか。

 そう思いながら問いかけると、モヨコ先生は難しそうな顔で「それなんじゃがのぉ」と呻り、



「ほれ、おぬしが空中ソフトボール大爆発事件起こしたじゃろ? それでテレビ局が、霊奏機関本部に〝何が起きたのか取材させてください〟と乗り込んできたんじゃ」


「それは」


「試験を映すのではなく、あくまで事件現場を映したいという名目でな。それで画面の端にでも、試験の様子が映ったら、話題になるじゃろ?」



 強引な手だな。

 まぁ試すだけならタダだ。テレビ側も無理を承知で言ってきたんだろうが。



「編集して、深夜に流すならヨイということになった」


「はい?」


「オウマのトンチキがな、〝堂々と模擬戦を撮ってもよい〟と断じたんじゃよ。それでこーなったわけじゃ……」



 戸惑い顔でカメラを指さすモヨコ先生。


 ってマジかよ。オウマ総帥、何考えてるんだ?



『あぁっ、そ、空鳴カナタと目が合いました! ぃ、一般の方は直視に気を付けてください……理性が焼けるような容貌です……! これ、放送時にはモザイクかけたほうが……?』



 俺は卑猥物か!



「そんなわけで、ここからの模擬戦はテレビ公開じゃ~。あぁもう、今回の試験、色々前代未聞じゃぞ……!」



 モヨコ先生はとってもお疲れのようだ。

 殺生石再形成の件で、霊力もほぼスッカラカンのはずだしな。申し訳ない。



「――おいっ、キツネババア!」



 と、そこで。そんなモヨコ先生を罵る声があった。



「バケモノといつまでも話してるなよ。さっさと開始の合図をしろ」



 そう偉そうに言ってきたのは、俺の兄貴であるミチオだ。

 カメラがあるのに態度全然変わらないな。ある意味すごいわ。



「わ、わかったわい。――ではこれより、模擬戦闘試験を開始する」



 モヨコ先生が態度を改める。

 黒服に肩車させ、俺たちによく聞こえるように話し始める。



「ルールは単純。霊奏術を、目の前の相手に全力でぶつければよい。全ての術がDランク以上の構成クォリティなら合格じゃ」



 後半の模擬戦は勝敗を競うものじゃない。

 あくまで霊奏師としての性能を見るものだからな。敗北しても、出来るヤツなら合格になる。



「なおギブアップはない。天蓋に囚われたと仮定し、死ぬ寸前まで潰し合ってもらう」



 先生の声が硬くなる。聞いていた子供の一部も、顔を蒼くして怖気づき始めた。



「霊奏師に弱者はいらぬ。雑魚を戦場に出し、概念霊に喰われてみろ。敵が霊力を養分に進化してしまう可能性がある」



 だからこそ、



「仕分けじゃ。出来ないヤツは、ここで終わらせる。……怖い者は辞退せよ」



 最後に付け足された言葉に、何人かの子供たちが手を上げそうになった。


 だが、付き添いの親たちが無理矢理に下げさせる。


 ――臆病風に吹かれたなど家の恥だ。

 子供を逃げさせないために、ついてきた者も多いからな。



「よし、全員参加じゃな。……しかし今回は奇数か。普段なら、余裕のある者を選んで、二度戦わせるんじゃが」


「ならば!」



 モヨコ先生が悩んでいると、妙に堂々と手を上げる者が現れた。



「その役目、この蛇塚家ぞ跡取り、蛇塚シャガナにお任せあれ」



 そう言って前に出たのはナマイキそうなお坊ちゃまだ。


 ってあいつ、山田くんと田中くんに八百長持ちかけてたヤツじゃないか。

 シャガナくんっていうんだね。



「おぉ~受けてくれるか。まぁ二度戦うということは、実力をアピールする機会が二度あるということじゃからのぉ」


「いえいえ、いえいえいえいえいえ」



 シャガナくんは芝居がかった様子で首を横に振った。



「な、なんじゃ」


「時は金なりといいますからね。どうせなら二度ではなく、二人同時に相手してもよろしいでしょうか?」


「なにっ!?」



 モヨコ先生が驚く。

 他の受験者も当然ギョッとし、テレビリポーターも『おぉっと! 蛇塚家の御子息、大胆発言です!』と盛り立てた。



「二人同時ってマジかえ、おぬし。まぁトラブル続きでたしかに時間は押しておるが」


「マジぞございますよ、モヨコ特號霊奏師。……俺も周囲に実力を示し、アナタのように出世したいですからねぇ……!」



 シャガナ少年の瞳が欲望に輝く。


 なるほどな。試験結果によっては、優秀な者は最初から弐號級や準壱號級霊奏師に任じられることがある。

 こいつはスピード出世が狙いなわけか。



「その代わりに条件が」


「なんじゃと?」


「対戦する相手は、俺に選ばせてもらってもよろしいですかねぇ?」



 そう来たか。それで山田くんと田中くんを選ぶ気だな。



「むむむむっ。待て、蛇塚家の。対戦相手はランダムに決めるのが慣例で…………いや」



 モヨコ先生は思案するも、やがて諦めたように頷いた。



「いいじゃろう。好きに相手を選ぶがよい」


「おぉ!」


「はぁ。疲れとるしゴネるのも面倒じゃ。……それに対戦相手が手加減しようが、あくまで見るのは勝敗ではなく、おぬし自身の力量じゃからのぉ。劣っていれば落とすだけよ」


「おやおや、対戦相手が手加減だなんて。まるで仕込みをしているような扱いはやめてくださいよぉ」



 困ったように言うシャガナくんだが、対するモヨコ先生の目は冷たい。

 三歳に見えて三百年生きてる彼女だ。霊奏師界の闇は見飽きているほどだろう。



「滑稽じゃぞぉ? 八百長試合を組んだのに、能力不足で落ちるバカの姿はのぉ」


「っ」


「それで家名が汚れた家はいくつもある。しかも今日はテレビまで入っとるんじゃからのぉ。おぬしに、破滅する覚悟はあるか?」


「チッ、キツネババアが………あぁいえ! 何のことだかわかりませんが、了承いただけて何よりです!」



 シャガナくんは一瞬表情をゆがめるも、すぐに態度を取り繕った。



「では――山田に田中、俺と戦うがよい!」


「「はい」」



 堂々と叫ぶシャガナ。

 手下のモブ男子コンビを呼び出し、もう勝つ気は満々って感じだ。


 だが――呼び出しに応え、出てきた二人は。



「「蛇塚様、ご指名いただきありがとうございます――!」」


「えッ、あぇっ、誰……!?」



 山田くんと田中くんが二段階進化したような、覇気に溢れた美少年ズが現れた。


 誰!?




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【Tips】


報道倫理:聖暦2030年における報道倫理は、かなり緩い。

巨人【緋々色金ヒヒイロカネ】の時のように、概念霊と霊奏師の戦いを生中継することも日常茶飯事。

それゆえお茶の間に霊奏師の鮮血や死体が映ることも珍しくはない。

霊奏師にも撮影を拒否する権利はなく、彼らは資格を取った瞬間に、現代のリアルヒーローとして死に様までもがショーになるのだ。

活躍すれば不知火オウマのように慕われ、武器を模したおもちゃ〝デラックス『絶鋼・断罪狼』〟などを作ってもらえて収益も入るが、泣きながら敵から逃げるなど無様を晒した者は悲惨である。

批判報道やネットリンチを受け、家ごと潰れる者も多い。


ちなみに、霊奏師資格のない子供の重傷描写は流石に別。

それゆえ模擬戦のテレビ放送は控えられてきたのだが、許可を貰えた今回は〝まぁモザイクかけときゃいいかな〟くらいにテレビクルーは考えている。

概念霊が日常に現れて死をもたらす世界であり、結構みんな倫理観は緩い。


なお、カナタへのモザイクも検討されている。


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